ヒュプノスの索条

想定人数

男3女3不問3計9


コード・ロメオ(ライネと二役)/不問

ブラート社所属のパイロット。

FAへの過搭乗により深刻な神経汚染を患う。


ライネ・レードルンド(ロメオと二役)/不問

レードルンド家次男。レイマの弟。


ジェイ・カプレーティ/女

ブラート社の専属オペレーター。


サイコビリー / 男

ブラート社所属のパイロット。

デル・ソル掃討作戦後に退社。


イリーナ・ゴルベフ/女

ブラート社CEO。


アルベルト・アイブリンガー /男

スターストレング社アジア連合支部元ジェネラル・マネージャー。

メズドラムの教え子。


メズドラム・エルムドール(レイマと兼役) / 男

スターストレングス社の元エースパイロット兼技術顧問。

当人は既に戦死。高度A.I.によって人工人格として蘇る。


コイントス / 不問

進行宗教団体デル・ソルに身を置くFAパイロット。

遠距離からの狙撃を得意とする。


ドラゴンヘッド /不問

セントラルレッド社のエース・パイロット。


ウツセミ・キョウカ /女

セントラルレッド社幹部パイロット。


レイマ・レードルンド(メズドラムと兼役)/男

レードルンド家嫡男、ライネの兄。

十代後半に病没している。




[サイコビリー]

本当に心配したんだぜ?

俺が無理言って連れ出した任務だから尚更だ。


体調の方はもうすっかりいいのか?


[コード・ロメオ]

全身の倦怠感はありますけど、寒気や震えは止まりました。

足の方はまだ車椅子が必要みたいです。


[イリーナ・ゴルベフ]

ロメオが元気になって良かった。


ジェイ。あなたの献身的な看護がなければ

ロメオの回復はもっと遅かったかもしれない。

本当にありがとうね。


[ジェイ・カプレーティ]

いえ、そんな。

私は顔を見に行っていただけで

看護だなんて、大それたことは。


[サイコビリー]

……さて、本題に入らせてもらう。

FA乗り同士、回りくどいのはナシだ。

ロメオ、お前さん今回の件をどう考えている。


[コード・ロメオ]

はい。

この症状は、オーバーライドシンドロームではないかと。


[イリーナ・カプレーティ]

流石にわかるわよね。


一週間以上昏睡状態が続くも、血液検査には異常がなし。

発語障害、手足の痺れと筋力減弱、視力と聴力の低下。


職歴と現業を考慮するに

オーバーライドシンドロームによる

不可逆性神経汚染の可能性が極めて高い。


[ジェイ・カプレーティ]

そんな。

ロメオも、スピリットフィードのように

神経汚染を起こしているのですか?


[サイコビリー]

そうだ。おそらくあいつよりも進行が早い。

昏睡はオーバーライドシンドロームでも

非常に危険な兆候だ。


神経系が緩やかに蝕まれていくのではなく

一気にパニックを起こし、その後、急激に悪化するタイプだ。


ロメオの場合は言語障害や筋力減弱が発生するまで

全く兆候が見られなかった。


[イリーナ・ゴルベフ]

そして、このタイプは劇症化しやすい傾向にあるわ。


[コード・ロメオ]

劇症化、ですか?

神経汚染は、運動障害と言語障害を主とした

症状を呈する症候群だと聞いてますが。


[サイコビリー]

劇症化した場合は意識混濁と痴呆がそこに加わる。

はっきり言えば廃人だ。治る見込みも、治す手立てもない。


[イリーナ・ゴルベフ]

言葉を選んで頂戴。


[サイコビリー]

悪いが、これは事実だ。


俺は何人もの友をで失った。

だからハッキリ言ってやらないといけない。

なまじっか、希望を与えるようなことは言うな。


残された限りある時間を無駄に使うことになる。


[ジェイ・カプレーティ]

もうロメオの体は元には戻らない、てことなんですか?

このままだとロメオは死んじゃうんですか?


[サイコビリー]

そうだ。


[イリーナ・ゴルベフ]

違うわ。

たとえ急性症状が発症してしまっても

適切な治療を行えば、延命は十分にできる。


[サイコビリー]

朝昼晩と薬漬けにして、穴という穴にくだ通して

死なねえように生き永らえさせることを延命って言うならな。


[ジェイ・カプレーティ]

冗談ですよね。


人の何倍もご飯を食べて、

そのくせ人の話はろくに聞かないで、

いっつも黙りこくってボーッとしてたじゃないですか。


今までと同じじゃないですか。

休みすぎて気を抜きすぎて、舌が回らないだけですよね。

ちょっと風邪をこじらせて寝付いてたから

足腰が弱くなっちゃっただけですよね。


嘘でしょ、嘘なんでしょ?


[コード・ロメオ]

ジェイ、落ち着いて。

そんなに大きな声を出さないでも、聞こえてるよ。


[ジェイ・カプレーティ]

あなたはなんで他人事でいられるの?

あなたの体に起きていることなのよ。

あなたの命に関わる話なのよ。


[サイコビリー]

本人だからだ。


[イリーナ・ゴルベフ]

ジェイ、少し落ち着いて。

気持ちはわかるけど、まずは今後の話をしましょう。


[サイコビリー]

社長、先々の話は後だ。

今の話が必要なんだ。


[イリーナ・ゴルベフ]

あなたの言いたいことはわかる。


わかってるわよ。


……ロメオ。あなたの神経汚染は紛れもない事実です。

もうFAエフエーパイロットとして生きていくことは難しいわ。


でも、もしあなたが望むのならば、

引き続きこの会社で私たちと働いてほしい。


サポートや事務方に回ってもらうことになるけど

治療を続けながら暮らしていけるだけの準備はするわ。


[サイコビリー]

いいかよく聞け。

お前の意識が明瞭で、五感が正常に働くのは数年。

これは楽観的に、長く見ての話だ。


ロメオ、お前にはもう時間がない。

お前は、何がしたい。


[ジェイ・カプレーティ]

ビリー、お願いあんまりロメオを追い詰めないで。


[サイコビリー]

追い詰める?


それは違う。


ロメオは直ぐに現実を見つめなくてはいけない。

もうあまり時間がないことを、認めなくてはならないんだ。


[ジェイ・カプレーティ]

一番苦しいのはロメオなのよ。

そんな矢継ぎ早にお前には時間がない、何がしたいだなんて

聞かれたってわかる訳ないじゃない!


[イリーナ・ゴルベフ]

二人ともちょっと黙って。


[コード・ロメオ]

……依頼の続きを。

チャンプに、頼まれたんです。


[ジェイ・カプレーティ]

先日の排水処理施設のことかしら。


その件だけどね、あなたが眠っている間に、

排水処理施設で大規模な爆発があったの。


[コード・ロメオ]

爆発……?何があったんです?


[ジェイ・カプレーティ]

企業側からのデル・ソルへの攻撃か、あるいは

デルソル側の意図ある放棄かわからないけど


もう、あの場所は跡形もない。

確認しようにも、行政による立入禁止措置が取られているわ。


[イリーナ・ゴルベフ]

セントラルレッド社NMCエヌエムシー研究所襲撃犯である

メズドラム・エルムドールの名誉を取り戻してほしい。


依頼人バッファロー・レヴは最後にそう頼んだそうね。


[コード・ロメオ]

依頼人は、と言っていました。


[イリーナ・ゴルベフ]

残念だけど、故人の名誉は挽回できないと思われるわ。

しかし、その汚名も程なく人の記憶から忘れられる。


[サイコビリー]

例の事件が霞むくらい、連日連夜世界中のあっちこっちで

テロと、企業の報復合戦が繰り返されている。


誰が悪かったのか、誰が始めたのか、誰が得をしたのか。

が一通り終わるまで誰も気にしないだろうな。


[コード・ロメオ]

忘れられればいい、というものではないと思います。


[サイコビリー]

ああ。


[イリーナ・ゴルベフ]

そうね。あなたの言う通り。


でも、依頼人が事件の証拠として

欲しがっていた大型FMエフエムとそのデータは

排水処理施設旧浄水きゅうじょうすいチェンバー区画ごと消えた。


[ジェイ・カプレーティ]

ロメオ、もう諦めましょう。

仕方がないのよ。

こうなってしまっては、手立てがないわ。


[イリーナ・ゴルベフ]

手なら、ここにあるわ。


[サイコビリー]

手紙?


このご時世にまた古風なもんだ。

文通でも始めるつもりかよ。


[イリーナ・ゴルベフ]

ウェブ上の監視の目をかいくぐるには

案外いい案かもしれない。


手紙の差出人はアルベルト・アイブリンガー。


スターストレングス社アジア連合支部

ジェネラル・マネージャー……、だけどね。


[サイコ・ビリー]

スターストレングス社のジェネラル・マネージャーが、

なんでウチに?


[イリーナ・ゴルベフ]

彼は依頼人バッファロー・レヴの動向を掴んでいたようね。


依頼人が我が社とコンタクトを取り、

ロメオと排水処理施設へ向かったことまで把握してる。


その上で、ロメオとジェイをご指名よ。


[ジェイ・カプレーティ]

私とロメオを?

正式に依頼として申し込まれたということですか?


[イリーナ・ゴルベフ]

ええ。


依頼内容は元スターストレングス社技術顧問にして

NMC研究所襲撃事件である

メズドラム・エルムドールの殺害

及びFAディフェンダーの完全破壊。


作戦地域は……


[サイコビリー]

ちょっと待ってくれ。


メズドラム・エルムドールは襲撃事件の際に

死亡している、そうだな?


[イリーナ・ゴルベフ]

そうよ。


[サイコビリー]

ロメオが言ってた件に出てくる名前も

メズドラム・エルムドールだったな?


[イリーナ・ゴルベフ]

そうよ。


[コード・ロメオ]

死んだ人間をもう一度殺すということですか?


[イリーナ・ゴルベフ]

額面通りに受け取れば。


[ジェイ・カプレーティ]

イリーナさんも、ビリーも、それ以前に問題があるでしょ。


ロメオは神経汚染を発症しているのよ?

それなのに、戦闘任務に参加しろだなんてそんなの滅茶苦茶よ。


[イリーナ・ゴルベフ]

もちろん。ジェイの言っていることが正しいわ。


[サイコビリー]

ああ。ジェイの意見はもっともだ。

おまけに依頼の真意もさっぱりわからん。


だが、腐っても元スターストレングス社の幹部。

会社の現状をかんがみても、くだらん悪ふざけで

声はかけてこないだろう。


ロメオ、お前さんはどうしたい。


[コード・ロメオ]

やらせてください。


依頼人が亡くなった今、真実はもうわかりません。

ですが、彼に、バッファロー・レヴに頼まれたことは、

果たしたいんです。


たとえこれが、最後の仕事になっても構いません。


[ジェイ・カプレーティ]

本気なの?

神経汚染は深刻なものなのよ?


ひょっとしたらまた倒れて

そのまま意識が戻らないかもしれない。


痴呆が発生して、何にもわからなくなってしまうかもしれない。


[サイコビリー]

ああそうだ。

任務中に発作を起こす可能性だってある。

コックピットが棺桶になってもおかしくない。


今のお前はそういう薄氷はくひょうの上に立っている。


だから選べ。自分の意思で。選ぶんだ、ロメオ。


[ジェイ・カプレーティ]

やめてったら!


[イリーナ・ゴルベフ]

ロメオ。あなたが決めなさい。

あなたの決定に、私は、ブラート社わたしたちは従います。


[ジェイ・カプレーティ]

イリーナさんまで……。何を言っているの?

あなたたちロメオを死なせたいの?どうかしてるわ!


[サイコビリー]

そうだ。どうかしている。

社長だって、本文なかを見たその場で

手紙そいつを破ることができたはずだ。


なのにそれをとどめた。

ロメオに委ねたんだ。


俺たちは、二度と治ることのない不治の病に冒されたFA乗りを、

これで最後になるかもしれない戦場に誘惑している。


[ジェイ・カプレーティ]

黙って。もう何も言わないで。ビリー、黙ってよ。


[サイコビリー]

車椅子に乗せられ、タイヤを自分で回せなくなり、

そのうち座っていることもできなくなって、

ベッドに横たわらされ、生命維持のための

チューブにつながれ骨と皮になることが約束されたお前に


今この場で、出撃の意思を問う。


[ジェイ・カプレーティ]

やめて。聞きたくないの。やめてビリー。

なんでよ、ロメオの目が覚めてよかったじゃない。


それで終わりじゃどうしてダメなの。


これじゃまるで、二人がロメオに

死を選ばせてるみたいじゃない。


[サイコビリー]

最低な質問をしていることは理解してる。


俺たちは、少なくとも俺は

ロメオを廃人として死なせたくない。

それが、けられぬ最期だとしてもだ。


[イリーナ・ゴルベフ]

FAパイロットとして決めなさい。

私は、あなたの意思を支持します。


[サイコビリー]

ジェイ。

勝手なことを言わせてもらう。


お前はそのまま泣いていてくれ。

心の底から悲しんでくれる人間も必要だ。


これは皮肉なんかじゃない、お前が怒り、泣くことで

俺は今、心の底から救われている。


だが、全てを決めるのはこいつなんだ。


[コード・ロメオ]

たとえ手足が千切れても、獅子の如く、戦えーーー。


任務をお受けします。


[イリーナ・ゴルベフ]

……了解。


[ジェイ・カプレーティ]

ロメオ、本気なの?

どうしても行かなきゃいけないの?


[コード・ロメオ]

うん。行くよ。


だからオペレーションを頼みたい。

ジェイ・カプレーティ、君に。


[イリーナ・ゴルベフ]

ジェイ、あなたはどうする。

ロメオと一緒に、任務を引き受ける?


[ジェイ・カプレーティ]

私は、私はロメオを行かせたくない。

死なせたくない。でもロメオは行くっていう。


自分の意思で、行くっていう。

私じゃロメオを止められない。


……だから私は、引き受けるわ。

ロメオを死なせないために。


[サイコビリー]

決まりだな。

俺はロメオの着替えを取ってくる。

生粋きっすいのFA乗りがいつまでもパジャマってわけにもな。


[イリーナ・ゴルベフ]

快気祝いは終わりよ。

このままファースト・ブリーフィングへと移行します。


://A Few Days Later,


[ジェイ・カプレーティ]

こちら管理室。オペレーターのジェイです。

FA1、デュアルモニタリング開始。

バイタルサインは全て正常です。


作戦地点到着まで150秒を予定。

あなた……いいえ、私たちには時間がありません。

最短最速での任務遂行を心がけてください。


[コード・ロメオ]

了解しました。FA1、全武装のセーフティを解除します。


[アルベルト・アイブリンガー]

FAオール・アニマルより通信。


ロメオさん、ジェイさん、こんにちは。

僕が依頼人のアルベルト・アイブリンガーです。


依頼を引き受けてくださりありがとうございました。

本日は宜しくお願いいたします。


[コード・ロメオ]

あ、はい、こんにちは。

宜しくお願いします。


[ジェイ・カプレーティ]

ええ……宜しくお願いします。


[アルベルト・アイブリンガー]

ロメオさんの体調はその後いかがですか。


[コード・ロメオ]

比較的、今日は調子がいいです。

見え方も、聞こえも、悪くないですし。


[アルベルト・アイブリンガー]

それは良かった。


[ジェイ・カプレーティ]

依頼人、弊社パイロットへのお気遣い感謝いたします。


ですがそのようなやり取りをしている時間はありません。

ご依頼いただいた内容の要点を簡潔に再度説明します。


作戦領域はアウロラ鉱山最深部。

作戦内容はメズドラム・エルムドールの

殺害およびFAディフェンダーの完全破壊です。


しかし、ターゲットであるメズドラムは先日の

NMC研究所襲撃事件の際に死亡しています。


[アルベルト・アイブリンガー]

はい、その通りです。


メズドラム・エルムドールは戦死、いいえ殉職しました。

百人以上の部下とともに。


[ジェイ・カプレーティ]

依頼人、私たちは今日きょうあらゆる状況を

押し退けてここにきました。


幽霊を二度殺すという眉唾まゆつば話を信じて。


今更くだらぬ駆け引きなど無用です。

真実を、話してくださいますね。


[アルベルト・アイブリンガー]

あなたの仰った通りですよ、ジェイ・カプレーティ。

メズドラム・エルムドールの亡霊を確実に殺してほしいのです。


彼の冥福と名誉のために。


[ジェイ・カプレーティ]

回答の意味が分かり兼ねます。

だいたい、そんな非科学的な……


[コード・ロメオ]

FA1、被ロックオンを感知。前方です。

オートクルーズ解除、戦闘モードに移行します。


[アルベルト・アイブリンガー]

時間がないのでしたよね。


じきにわかりますから、始めましょうか。


FAオール・アニマル、半球型はんきゅうがたシールドを展開。

私がおとりになって前に出ます。

有効射程距離まで一気に突っ込みますので付いてきてください。


行きますよ。


[メズドラム・エルムドール]

久しぶりだな、アルベルト。

会いたかったぞ。


ほう、僚機みかたを引き連れてきたのか。

悪くない選択だ。


戦力差を埋めるには一対多の環境を作る。

戦いの基本だからな。


では、二人まとめて叩き込んでやろう。


まずは牽制けんせいを兼ねて相手の出鼻をくじくことだ。

その場合の武器は、ライフルこいつのような

中距離武装が最適だ……行くぞ。


[アルベルト・アイブリンガー]

……もうシールド表面が融解し始めたのか。

相変わらず、冗談みたいな火力だ。


ロメオさん、迂闊に射線に立たないでくださいね。

スターストレングス社のフラグシップ

FAディフェンダーの火力は、伊達じゃない。


[コード・ロメオ]

敵機に接近できました。この距離ならいける!跳びます!


[メズドラム・エルムドール]

一機が引きつけ、一機が虚をく。


考えが甘い。


近距離戦で縦の高さを使うならば

もっと周到にフェイントを用意しておけ!


[ジェイ・カプレーティ]

FA1、被弾。ブースター出力低下、落下します!

すぐに耐ショック体勢をとって!


[アルベルト・アイブリンガー]

FAオール・アニマル、

およびを固定。

チャージ・ポジションに移行。


突撃します。


[メズドラム・エルムドール]

上から飛びかかってくる鳩を落とせば、

今度は前から犬がじゃれついてくる。


それですきをついたつもりか?


お前はいつも遅すぎる!


[ジェイ・カプレーティ]

FAが前蹴り……大したマーシャル・アーツね。


FAオール・アニマル、シールド破砕はさい

転倒に備えて!


[コード・ロメオ]

まだだ……行くぞ。


[メズドラム・エルムドール]

叩き落とされて、立ち上がり、また突っ込む。

実に健気な戦い方だ。

思い出すよ、あの真っ直ぐ過ぎた暴れ牛バッファローを。


愚直ぐちょくだが、悪くない。


[コード・ロメオ]

なぜだ……なぜ、けれない?

どうして、こちらの弾は、当たらない?


[ジェイ・カプレーティ]

動きを完全に予測されている……。

だから、全ての対応が途轍もなくはやい。


ロメオ、一旦距離をとって。

態勢を立て直す必要があるわ。


依頼人、そちらは大丈夫ですか!


[メズドラム・エルムドール]

なんだ……アルベルトめ

また蹴り飛ばされて気を失ったのか。

訓練の時と変わらんな。


ほら、立て……アルベルト、立て。


さっさと立たんかーッ!AAエイエイ


[アルベルト・アイブリンガー]

そのあだ名で僕を呼ぶなッ!!

お前が、その名を呼ぶな……


[ジェイ・カプレーティ]

依頼人、大丈夫ですか!


[アルベルト・アイブリンガー]

人の思い出に気安く触るなよイーカロス!


ぶち壊すぞッ!!


[メズドラム・エルムドール]

俺に向かって何を吠えている?

夢でも見てるのか、このバカモノめ。


[アルベルト・アイブリンガー]

違う、お前は彼なんかじゃない。

お前はただのA.I.だ、イーカロス。


どれだけ高度に情報を集積し統合し

人格や記憶さえも精密に再現したつもりでも

お前はただのA.I.だ。


人間じゃない。


あの人じゃない!


[ジェイ・カプレーティ]

……読めてきたわ。

ここにいるメズドラム・エルムドールはフェイク。

デル・ソルが用意した偽物なのですね。


[アルベルト・アイブリンガー]

超大型FM管理用高度A.I.

様々なデータを用いて人格さえ再現することができる。


記憶、思想、口癖までも高度に再現することができる。


だけど、メズドラム・エルムドールは死んだ。

FAディフェンダーと共に戦死したんだ。


僕が、会社が、殺したんだ。


[メズドラム・エルムドール]

アルベルト、お前さっきから何を言っている。

お勉強のし過ぎじゃないのか?


たまにはトレーニングルームにも顔を出せと言ったろう。


[ジェイ・カプレーティ]

アイデンティティさえも作り出している……。

加えて、過去の具体的な情報をそのまま記憶として移植してるみたい。


確かに、これではちょっとやそっとでは

A.I.だとわからないかもしれませんね。


[アルベルト・アイブリンガー]

デル・ソルも、スターストレングス社も、

セントラルレッド社も、様々な形で彼を利用し続けるつもりです。


企業間抗争の引き金をいた、稀代の悪役として。


[コード・ロメオ]

あんたら、さ……

戦いの最中に……思い出話に、浸るなよ。


、起動。


[ジェイ・カプレーティ]

雷撃、敵機に命中しました。


FAディフェンダー、動作停止を確認。

今です、畳み掛けてください。


[メズドラム・エルムドール]

くくッ、俺としたことがとんでもない失礼を働いた。

そいつの言う通りだ、AA。


昔話は全部終わってからダイナーでゆっくりな。

お前の好きなコロナ・ビールとピザをご馳走してやろう。


[アルベルト・アイブリンガー]

せ。

もう二度と、その名前で僕を呼ぶな。


FAオール・アニマル、ハイパーパルス開孔かいこう

エネルギー急速充填、発射!


[ジェイ・カプレーティ]

……全弾命中しています!


敵機、被害拡大。いけます、もう少しです。

FA1、すぐに追撃を!


FA1……ロメオ?


[コード・ロメオ]

ごめん……急に、動か、ないん、だ。

体が、機体、が……。


[メズドラム・エルムドール]

オーバーライドシンドロームか。


[コード・ロメオ]

動、け……動け……う、うッ……


[ジェイ・カプレーティ]

嘘でしょ……これじゃ、まるで……


[メズドラム・エルムドール]

同じFAパイロットとして同情する。

俺はもうお前には手を出さん。

そこで静かにしていてくれ。


さあアルベルト、補習の続きだ。


[アルベルト・アイブリンガー]

どこまで、どこまで先生の真似をすれば

気が済むんだよォッ!お前はッ!


[メズドラム・エルムドール]

いかなる理由があろうと戦いの最中に取り乱すな。

軍人失格だぞ。


[アルベルト・アイブリンガー]

うるさいッ!黙れ!黙れ!黙れッ!

ハイパーパルス、発射!発射ッ!あああああッ!


[メズドラム・エルムドール]

同じ手を立て続けに使うバカがどこにいる?

そう言うのを苦し紛れと言うんだ。

お前らしくもない……。もっと頭を使え。


[ジェイ・カプレーティ]

依頼人、コックピット周辺に被弾集積ひだんしゅうせき

前方装甲が限界寸前です。

緊急脱出の準備を。


依頼人、応答してください!


[ロメオ]

動……く、まだ、動く、動くぞッ!


[メズドラム・エルムドール]

やるのか?

俺は一向に構わんが、症状が進むぞ。


[ロメオ]

レード、ルンド、の、名を継ぐ……者は

たとえ……ああレイマ、置いていかないで、レイマ……


[メズドラム・エルムドール]

幻覚症状も出ているようだな。


動くといっても戦うことは到底無理だ。

悪いことは言わん、退け。


[ロメオ]

たとえ、手足が千切れても獅子の如く……戦うッ!


[ジェイ・カプレーティ]

ロメオ、いけない!

もうトニトルスそれは使わないで、それは、あなたを


[ロメオ]

トニトルス、起動!


[メズドラム・エルムドール]

その気概や見事なり!

お前はなかなかの武人だ。


そこで伸びてる青瓢箪あおびょうたん

爪の垢を煎じて飲ませてやりたいところだよ。


FAディフェンダー、全身全霊をもってこれを迎撃す!


[ロメオ]

うあああああああああッ!



[ジェイ・カプレーティ]

FA1、大破。ジェネレーター停止。

我々の敗北です。作戦は失敗です。


[アルベルト・アイブリンガー]

まだだ、まだ終わっていない……。


[ジェイ・カプレーティ]

依頼人、もう無理です。

当方の残存戦力は皆無。


一方の敵機FAの戦力いまだに健在です。


[メズドラム・エルムドール]

そうだな。まだ終わっていない。


それがどんな形であれ、戦いにはケリを付けねばなるまい。


[ジェイ・カプレーティ]

来るわ!緊急脱出を!


[アルベルト・アイブリンガー]

電磁でんじカーテン停止。


ハイパーパルス過充電、リミッター解除。


[メズドラム・エルムドール]

ほう、自爆覚悟で相撃あいうつ腹積もりか。

そんな出力で暴発させればお前は

コックピットごと木っ端微塵に吹き飛ぶぞ。


[アルベルト・アイブリンガー]

ええ、そうなるでしょう。

しかし僕が僕の意思で選んだ選択です。


[メズドラム・エルムドール]

そうか。お前が自分で決めたのだな、アルベルト。

お前は自分自身の命をかけて、俺を殺しに来たのだな?


[ジェイ・カプレーティ]

依頼人、脱出してください!

このままでは胸部武装ごと暴発します!


[アルベルト・アイブリンガー]

そうだ。メズドラム、お前は……

あなたは汚名を着せられたまま戦死した。


そうしてもう一度、泥を被るための傀儡くぐつとして

蘇らせられようとしている。


だから、僕は、あなたを、先生を、もう一度殺さねばならない。


あなたを見殺しにした僕の最後の責任だからだ。


[メズドラム・エルムドール]

責任か。


言うようになったなAA!


いいぞ、撃て。撃ってみろ。

お前が選んだ答えをここに示せ!


[アルベルト・アイブリンガー]

先生、さようなら。


ハイパーパルス発射。


[コード・ロメオ]

……いかないで、父さん。


……いかないで、レイマ。


ああ、この閃光ひかり……懐かしい。


[ジェイ・カプレーティ]

FAディフェンダー、FAオール・アニマル

両機ともに胸部コックピット消滅。

再起不能、バイタルサイン消失。


任務は……失敗です。


://Contemporary,



[サイコビリー]

ようやく見つけたぜ。

久しぶりだな、コイントス。


[コイントス]

お前か。


またどこかでぶつかるかとも思っていたが、

ついに以来だったな。


[サイコビリー]

ああ。


随分と長いこと、この騒ぎの後始末をやってきた気がするよ。


だがそれも、もうじき終わりだ。

お前も今じゃデル・ソル最後の残党なんて呼ばれてる。


[コイントス]

残党、か。


好きで逃げ隠れてたわけじゃない。

狙撃手の特性上、表に出れない仕事が多かっただけだ。


企業どもの展望を積んだ巨大な花火を撃ち落としたりな。


[サイコビリー]

そいつァいいな。酒が進みそうだ。


で、その企業連合だがこの機会に乗じ

無人戦闘機の一機さえ残さずに全ての過去を清算するつもりだ。


壊して、壊し尽くして白紙チャラにしたら

来たるべき宇宙時代を切り拓く

クリーンで爽やかな新企業へと合併するそうだ。


人類最後の戦い!だなんて

今日日きょうび流行らねえ映画のキャッチコピーみたいな

コマーシャルを打ってやがらあ。


笑わせる。


[コイントス]

そうか。

ゲームが終われば手駒は無用。

いかにも連中らしい考えだ。


こんなFAデカブツ、部屋に飾るにも邪魔だろうしな。


[サイコビリー]

違いねぇ。溶かして固めてリサイクルして

宇宙船の端材にでも使ってもらえりゃいいな。


[コイントス]

サイコビリー。

お前はここに何をしにやってきた。

投降を促しに来たのか。それとも、この首を獲りにきたのか。


[サイコビリー]

そうだな……どっちもハズレだ。


俺ァお前の命のために、お前を見世物にするつもりはない。

かといって、俺がわざわざお前の首の獲る理由もない。


[コイントス]

では、戦火をくぐって世間話をしに来たのか?殊勝しゅしょうな奴だ。


[サイコビリー]

ハッ、お前ほど変わっちゃいねえよ。


そんじゃコイントス、ハジいてくれ。

いつもみたいに表か裏かで決めようや。


[コイントス]

何をだ。


[サイコビリー]

俺がここにきた理由だよ。


[ドラゴンヘッド]

遅い。遅いぞ

お前の希望通り、対象との接触を許可したのだ。

時間くらいは守ってもらわねば困る。


[コイントス]

そう言うことか。


[サイコビリー]

さあ、弾け。


どっちが出た?

表か?裏か?


[ドラゴンヘッド]

最後の残党、貴様には随分と辛酸を舐めさせられた。


混乱の時代が終わる象徴として華々しく撃墜つぶしてやろう。

FAメテオリス、脚部固定。腕部わんぶミサイル照準よし。


[コイントス]

……裏だ。


[サイコビリー]

ヘッ……だよなぁ。


表ってガラじゃねえや、俺も、お前も。


[ドラゴンヘッド]

発射ッ!!


……ブラートの傭兵。お前、どう言うつもりだ。

今の行為は誤射などと誤魔化せるものではない。


[サイコビリー]

おう。

ちゃーんと狙って撃ち落としたからな。

誤射でもまぐれでもないさ。


俺はたった今から泣く子も黙るデル・ソルの残党様だ。

覚悟しろよ、正義のシェリフ。


[コイントス]

変わらんなお前も。


礼を言う。


[ウツセミ・キョウカ]

こちらウツセミだ。

コールサインを確認した。

どうした。何があった。


[ドラゴンヘッド]

おいウツセミ、聞いてくれ。

お前の紹介で来たブラートの傭兵が裏切りやがった。


この野郎は、この状況で、この壊滅寸前のデル・ソル残党側に寝返ると。


寝返ると言い放ったぞ、なあ。


[ウツセミ・キョウカ]

あの馬鹿……


ドラゴンヘッド、何を笑ってる?


[ドラゴンヘッド]

……ん?ん、そう聞こえたか?

笑ってなんて、ないさ。


でもな、なぜか少しばかり口元がほころんでしまう。


……まあそう言うわけだ。


状況に沿い、これよりFAメテオリスは

デル・ソル最後の残党と、この裏切り者を撃破する。


[ウツセミ・キョウカ]

サイコビリー!応答しろ。くだらん茶番は止せ。


デル・ソル最後の残党はお前の旧友だと聞いている。

多少の忖度そんたくはする。命まで奪うつもりもない。


[サイコビリー]

ああ。お前さんたちは命は奪わない。

それ以上に大事なものを持っていくつもりだからな。


[ウツセミ・キョウカ]

こちらの兵力を知っているだろう。

むざむざ死ぬような真似は止せ。

たとえ滑稽な芝居でも、引きどころを見失えば命を落とすぞ。


[サイコビリー]

芝居?芝居なんかじゃねえさ。

表か裏かに賭けたんだよ。


タバコ一箱買えないコイン一枚。

それが今の俺たちの命の値段だ。


手を滑らせて落としたところでってことないさ。


[ウツセミ・キョウカ]

お前の心情は察する。

だが、つまらん自棄やけを起こすな。


[ドラゴンヘッド]

ウツセミ、もういいだろう。

ふるい仲なんだろう。

お前も、ブラートの傭兵も、FA乗りなんだろう。


[コイントス]

サイコビリー、足止めを頼む。こちらは一旦距離を取る。


[ドラゴンヘッド]

そう易々と狙撃手を適正距離に逃すものか。


追尾ミサイル、射出。脚部固定解除、直ちに収納。

フロート・モードに移行する。


[コイントス]

なに……脚部パーツが変形しただと?

速いぞ、引き剥がせん。


[サイコビリー]

おいおい嘘だろ?

そのFA、重装後方支援機じゅうそうこうほうしえんきじゃねえのかよ。

なんで俺の愛機ボギーより速えーんだよ!


[ドラゴンヘッド]

FAメテオリスはセントラルレッド社の特殊技術を集結させたワン・オフFAだ。


これぐらいで驚かれては困る。


[ウツセミ・キョウカ]

ドラゴンヘッド、一人で抑えられそうか?


[ドラゴンヘッド]

愚問だ。

相手は装備の偏った旧型と満身創痍のスナイパー。

このFAメテオリスの敵ではない。


[サイコビリー]

好き勝手言ってくれるじゃないかよ。

今のはアタマにきたぜ。


[ドラゴンヘッド]

腹部ブレードアーム起動。

覚悟しろスナイパー。

その冗長なライフルごと切り刻んでやるからな。


[ウツセミ・キョウカ]

……お前、やっぱり笑っているだろう?


まあいい。

本体による包囲網を段階的に収縮させていく。

、だ。


あまり羽目を外しすぎるなよ。


[サイコビリー]

よーし張り付いた……!

新型さんは、ドッグファイトは苦手と見える。

そのデカいケツに弾丸をお見舞いするぜ。


[コイントス]

そいつの真後ろにつくな!

何か背負ってる!


[ドラゴンヘッド]

たとえ背後とて、このメテオリスに死角なし。


[サイコビリー]

なんだこりゃあ……コルベットのマフラーか?


[コイントス]

バードショットだ!

まずいな、あの距離では避けきれん。


サイコビリー、上に飛べ!


[ドラゴンヘッド]

無駄だ。超広角ちょうこうかく散弾は避けきれぬ。

散らせ!


[サイコビリー]

ちッ、思いっきり前を削られたか……。

もう一度、張り付く。逃げきれよ!


[コイントス]

ダメだ、奴を振り切れん!


[ドラゴンヘッド]

敵機スナイパーライフル、銃身切断。


さあ!もっと遊ぼうぜ、最後の残党!


[コイントス]

FAサードアイ、メインウェポン破損。

内部のサブウェポンにて応戦する。


[ドラゴンヘッド]

大規模な残党狩りも今日で終わりだ。

つまり今日が、FA乗りにとって、最後の鉄火場だ。


取り出したチンケなハンドガン2丁で

パンパン豆鉄砲撃ってもう終わり……

だなんて言ってくれるなよ。


[コイントス]

ああ。安心してくれ。

こいつでそのブサイクな腹を吹き飛ばしてやるよ。


[ドラゴンヘッド]

FAメテオリスの装甲をハンドガンが貫通しただと……?


[コイントス]

こいつはハンドガンじゃない。ハンド・キャノンだ。

それも、に特化した特注品だ。


足が止まったぞ!今だ!


[サイコビリー]

俺ァもうデル・ソルの残党の大悪党だからよ。

動き止まったところを後ろっから撃っちまうよ?


蜂の巣だ、シェリフ。


[ドラゴンヘッド]

やるじゃないか、旧型ロートル

こうでなくては、こうでなくてはな!


[ウツセミ・キョウカ]

押されているようだなドラゴンヘッド。

ほら、救援要請を出せ。すぐに駆けつける。


[ドラゴンヘッド]

なんだウツセミ、聞いてたのか。


救援要請……ねえ。

混ぜて欲しいなら来いよ。入れてやるぜ。


[ウツセミ・キョウカ]

何を言っている。

私はそんなつもりで言ったわけではない。


[ドラゴンヘッド]

んじゃ、いい。


FAメテオリスが墜ちるまで死力を尽くして戦わせてもらう。


脚部ユニット再変形。脚部レーザーブレード起動。


[サイコビリー]

こちとら銃身が熱で変形しそうだってのに、

ま〜だ変身すんのかよお前さんのは。


[コイントス]

まるで阿修羅のようななりだ。


[ドラゴンヘッド]

学があるな残党。

これを作った会社は仏教の盛んなアジア圏にあってね。

御察しの通りそういう意匠だ。


最後の殲滅せんめつ戦には似合いだろう。


斬り合いは得意な方ではないが、とわかっていては

使わずにはいられないタチでな。


行くぞ。


[サイコビリー]

気持ちはわかるが斬り合いに付き合うのはごめんだぜ。


遠慮はしねえ。

ゲスで卑怯な悪党たちに一方的に撃たれてやられちまいな、サムライ。


[コイントス]

単独で急速に接近する機影をレーダーに確認……。

なんだ、この異常なスピードは。

もうすぐに視認できる距離に入る。


[ドラゴンヘッド]

あいつめ。やっぱり来やがった。

いや、最初から向かってたな?

あれでいて根っからのFA乗りだ。


[サイコビリー]

ちッ、よりによってあいつが増援か。

もう一息でこいつを削り切れたのによ。


コイントス、ちょいと厄介なことになったぞ。


[ウツセミ・キョウカ]

どうやら苦戦しているようだな。

FA無銘真打むめいしんうち、助太刀する。


[ドラゴンヘッド]

ウツセミ、お前笑ってないか?


[ウツセミ・キョウカ]

馬鹿を言え。

呆れてるだけだ。さっさと済ませるぞ。


[コイントス]

……すまない、負け戦に付き合わせる。


[サイコビリー]

始める前から何言ってんだよ、最後の残党。

どうせ俺たちに明日はない。


それに悪党ってのはな最後まで図太くしぶとくやるんだよ。


さあ行くぜ?



[ウツセミ・キョウカ]

敵FAガトリング・ボギー大破、戦闘不能を確認。


敵FAサード・アイ大破、戦闘不能を確認。


[ドラゴンヘッド]

あの機体と装備でよくぞここまで粘った。


[ウツセミ・キョウカ]

愛機に傷をつけられたのは何年振りだろう。

敵ながら、敬意を表するよ。


[ドラゴンヘッド]

ああ。


いい……戦いだった。


それで司令官殿、

こいつらの処遇はどうするんだ?


[ウツセミ・キョウカ]

なんだその呼び方は。浮かれよって。


デル・ソル最後の残党と目されるコイントスは

戦闘の末、企業連合軍により撃退され身柄を拘束。


残党討伐に参加したブラート社の傭兵は

同戦闘により搭乗FAが大破。そのまま回収船にて帰還、の予定だ。


[サイコビリー]

おいおい、司令官殿。


前線でデル・ソルに寝返ったこの大悪党を見逃すってのか?

俺のこともにするのが筋なんじゃねえのかよ。


[ウツセミ・キョウカ]

お前を捕まえたところで話がこじれるだけだ。

面倒を増やしてどうする。


[サイコビリー]

全く……シマらねえオチだな。


ありがとよ。


[ウツセミ・キョウカ]

サイコビリー、いつかお前は私に言ったな。


自分の命の使い方を考えろ、と。

その言葉はそっくり返す。


[ドラゴンヘッド]

なかなかに手強かったぞ、ブラートの傭兵。

お前の命の値段は知らんが

少なかれ実力はコイン一枚などではない。


デル・ソルの残党、お前もだ。


[コイントス]

サイコビリー、礼を言う。

最後に背中を預けた相手がお前で良かった。


[サイコビリー]

水臭えこと言うなよ。

それに、ちょっとやってみたかったんだよ、こういうの。


[ウツセミ・キョウカ]

世界を巻き込んだ騒動の最後に、口直しのいい余興だった。

ここでのことは私たちだけの秘密にしておこう。


もう、全てが終わる。


[コイントス]

そう。全て終わる。


だが、が残っている。


ありがとう、サイコビリー。

ありがとう、ドラゴンヘッド。

ありがとう……


[ウツセミ・キョウカ]

ウツセミ・キョウカだ。


[コイントス]

ありがとう、ウツセミ・キョウカ。

楽しかったよ。


[ドラゴンヘッド]

残党、お前!




[ウツセミ・キョウカ]

……逝ったか。


[サイコビリー]

ああ。はっきりと聞こえた。


[ドラゴンヘッド]

傭兵、お前気づいていたんだろう。

止めなくて良かったのか。


[サイコビリー]

コックピットにピストル持ち込んでたんだ。

そんな野暮ができるかよ。


[ウツセミ・キョウカ]

FAコイントスとパイロット・サードアイの冥福を祈らせてもらう。


[ドラゴンヘッド]

最後の残党とその愛機のことは俺も覚えておこう。


[サイコビリー]

コイントスはいいFA乗りでサードアイはいいFAだったよ。

ウツセミ、ドラゴンヘッド、ありがとな。


[ウツセミ・キョウカ]

ところで、この先の宛てはあるのか?

世論の勢いもあり、FA事業は今後間違いなく急激に縮小する。

FAパイロットは民生企業への就職さえ難しいだろう。


[サイコビリー]

さあねえ。

俺にも出てきたんだよ。神経汚染が。

と言っても軽いやつだがな。


薬を飲み続ければ、どーにかじいさんにはなれそうだ。


ま、ここらが潮時だと思ってる。


[ウツセミ・キョウカ]

そうか。


[ドラゴンヘッド]

ブラートの傭兵、達者でな。


もう会うこともあるまいが、お前のことは嫌いじゃない。


[サイコビリー]

ああ。俺もお前さんとは一度酒を飲んでみたい。

もしどこかのバーで出会った時は一杯おごるぜ。


最後の最後にすまない。


回収艇が来るまででいい、一人にさせてくれ。


://Boarding.


[イリーナ・ゴルベフ]

もう、行くのね。


[ジェイ・カプレーティ]

はい。

二人で、ロメオの故郷へ、行ってみようと思います。


[イリーナ・ゴルベフ]

そう。

短い間だったけど、あなたとロメオと

ともに働けた時間はとても幸せだったわ。


[ジェイ・カプレーティ]

私も。いえ、私たちもです。


あの、本当に、この最新型のドーム型キャリアーを

頂いてしまっていいのでしょうか?


[イリーナ・ゴルベフ]

差し上げるわ。


小型コンピューターによるバイタル管理が

徹底されているから、重度の神経汚染を患った

パイロットが余生を送る上で、大きな助けになるはずよ。


遠慮なく持って行って。


[ジェイ・カプレーティ]

チャーター機から医療機器の手配まで

何から何までありがとうございます。


[イリーナ・ゴルベフ]

いいのよ。私にできることはそれくらいだから。

ところでサイコビリーあいつからは連絡は来たの?


[ジェイ・カプレーティ]

手紙が一通だけ。


[イリーナ・ゴルベフ]

手紙!それで、なんて?


[ジェイ・カプレーティ]

二人で旅行もいいけど避妊はしっかりしろよ、って。


[イリーナ・ゴルベフ]

はは、サイテーね、アイツ。本当にそれだけ?


[ジェイ・カプレーティ]

FAに乗るのも飽きたから、ちょっと旅に出るって書いてました。

文字がひどく震えてて、読めないところもありましたけど。


[イリーナ・ゴルベフ]

……そう。


[レイマ・レードルンド]

どうだった。

戦ったんだろう、手足の千切れるまで。


[ライネ・レードルンド]

うん。戦ったよ。最後は、よく覚えてないけど戦った。


[レイマ・レードルンド]

どう思った。何を感じた?


[ライネ・レードルンド]

正直、何も。


[レイマ・レードルンド]

……何も?何も感じなかったのか?


[ライネ・レードルンド]

うん。

ただ、鼻の奥が熱くなって、涙が出そうになって、

頭の中は痛いくらい冷たかった。


[レイマ・レードルンド]

使


耳にタコができるくらい親父に言われただろう。


[ライネ・レードルンド]

そうだね。言われた。何度となく。


[レイマ・レードルンド]

お前にとって戦いは、手段だったか?

それとも、目的だったか?


[ライネ・レードルンド]

両方……かなあ。多分だけど。うん。


[レイマ・レードルンド]

……なんだそりゃ。

相変わらずボーッとしたやつだよ、お前は。


[イリーナ・ゴルベフ]

あれからロメオの体調はどう?

こうして眠っているときは穏やかそうだけど。


[ジェイ・カプレーティ]

調子がいいときは声を出すことができます。

左手も少し動きます。

自力での寝返りは、難しいです。


[イリーナ・ゴルベフ]

そう。

この前の検診で何か言われた?


[ジェイ・カプレーティ]

はい……。


今年の、冬を迎えるのは……


[イリーナ・ゴルベフ]

……連れて行ってあげて。

そして一緒に見てあげて。


ロメオが生まれ育った故郷の風景を。


あなたが、連れて行ってあげて。

どうかお願いね。


[ジェイ・カプレーティ]

はい。必ず。


[レイマ・レードルンド]

それで。

お前にとって、どっちの比率が大きかったんだ。


何かのために戦ったのか。

戦うために何かを選んだのか。


[ライネ・レードルンド]

レイマは笑うと思うけど……

最初は、父さんとレイマのために戦おうと思った。


[レイマ・レードルンド]

笑わない。続けてくれ。


[ライネ・レードルンド]

はじめて戦って、負けて、僚機を失って。

これじゃ父さんとの約束を果たせないと思った。


そこからは戦う場所を探した。

手足が千切れるまで戦える場所を。


[レイマ・レードルンド]

それで。

戦い続けて、何か変わったか?


[ライネ・レードルンド]

どうかな。戦うことは上手くなったと思う。

戦う意味は、何も変わらなかったと思う。


[レイマ・レードルンド]

そうか。

そういうもんなんだな。


俺はさ、戦場に出る前に死んじまったから。

正直ちょっと羨ましい。


[ライネ・レードルンド]

ああ、そうだね。

なんかごめんね。


[レイマ・レードルンド]

謝る必要はない。


最期の日はずっと病室のベッドから外を見ていた。


分厚い雲の向こうまで飛んでいけたら

俺もレードルンドの名を背負って

お前と一緒に戦えるのに、と。


[ライネ・レードルンド]

……うん。一緒に戦ってみたかった。


[レイマ・レードルンド]

しけたことを言った。許せ。


話は変わるが、この人が……

お前をこっちに連れてきてくれるのか?


[ライネ・レードルンド]

そうみたい。別に、頼んだわけじゃないんだけど。


[レイマ・レードルンド]

そうみたい、って他人事かよ。

彼女はお前の恋人か?


[ライネ・レードルンド]

違うよ。そんなんじゃないよ。ただの同僚。


[レイマ・レードルンド]

ただの同僚?ただの同僚が

死にかけのお前を連れて

わざわざ俺たちの国まで来るのか?


時計と傭兵くらいしか名物のないあんな辺鄙な国に?


[ライネ・レードルンド]

ねえレイマ。

さっき、戦いを目的にするな、手段に使われるなって話をしたよね。


[レイマ・レードルンド]

したな。それが?


[ライネ・レードルンド]

彼女にとって今回の旅行は目的ではなく、手段なんだと思う。


[レイマ・レードルンド]

なるほど。

それで、お前を連れてこっちに来ることで

彼女は何を手に入れるんだ。


[ライネ・レードルンド]

うーん、それは分からないんだ。


[レイマ・レードルンド]

分からない?


[ライネ・レードルンド]

ジェイが何を考えてるか正直分からない。

だから、ずっとそばにいても違和感がないんだと思う。


[レイマ・レードルンド]

へえ。なんか似てるな、お前と。


[ライネ・レードルンド]

えっ?そうかなぁ?


[レイマ・レードルンド]

うん。似てると思うぞ。


[ジェイ・カプレーティ]

あ、今……ロメオが笑った。夢でもみてるのかしら。


[イリーナ・ゴルベフ]

この子が笑うところ、初めてみたかもしれない。


こんな顔で笑うのね。


[ジェイ・カプレーティ]

イリーナさんってなんかロメオのお母さんみたいですね。


[イリーナ・ゴルベフ]

ちょっとちょっと。

やめて頂戴、私はこれでも花の独身よ。


……本当、こうしているとただ眠っているだけみたい。


まだ、信じられないわ。


[ジェイ・カプレーティ]

私もです。

だから、ブラート社を辞めて、この街を離れて

ロメオが生まれた場所に行くんだと思います。


認めたくないけれど。

受け入れたくないけれど。


[イリーナ・ゴルベフ]

いい選択だと思う。


当社うちに戻って来たくなったら、いつでも連絡して。

地球のどこにいても迎えに行くから。


それじゃ、そろそろ行くわ。

ジェイ、ロメオ、またね……元気で。


[ジェイ・カプレーティ]

それじゃ寂しすぎるから、

「行ってらっしゃい」がいいです。


[イリーナ・ゴルベフ]

そうね。

ごめんなさい、やり直させて。


ふーッ。


ジェイ、ロメオ、行ってらっしゃい。


[ジェイ・カプレーティ]

はい!


[ライネ・レードルンド]

ところでレイマ、散歩は好きかい?


[レイマ・レードルンド]

散歩?好きでも嫌いでもないが。


[ライネ・レードルンド]

散歩は目的かな。それとも手段なのかな。


[レイマ・レードルンド]

……なるほど。

それで、お前はどう思うんだ。


[ライネ・レードルンド]

健康のために散歩に出る人。

時間をつぶすために散歩に出る人。

気分転換に散歩してみる人。

気がついたら散歩になってしまう人。


その人によって、散歩の意味は違うと思う。


[レイマ・レードルンド]

そうかもしれないな。

一言で同じ散歩といっても、意味は違う。


[ライネ・レードルンド]

散歩の途中で引き返してしまう人。

目的地へ行くのに運動を兼ねて散歩する人。


何かを探すために散歩をする人がいても

別に、不思議じゃないよね?


[レイマ・レードルンド]

それは、散歩の目的を探すということか?


[ライネ・レードルンド]

ううん。目的ですらない。


ただ、なんとなく、何を探したいかも

わからないのだけれど、歩いてしまう。


[レイマ・レードルンド]

不思議ではない。ただ、なぜ歩くのだろう。

椅子に腰掛けて、もの思うのでは事足りないか?


[ライネ・レードルンド]

立っている場所と景色を変えたいんだと思うよ。


動いてみないと欲しいものや、

その手立てがわからない人って

結構いるんじゃないかな。


[レイマ・レードルンド]

さっきはつまらない質問をして悪かった。


ほんの少しだけわかったよ。

お前が手に入れたものを。


[ジェイ・カプレーティ]

ねえロメオ。見える?飛行機、離陸したよ。


前にね、話したと思うけど

私キャビン・アテンダントになりたかったんだ。


でもね、あの時ちょっと嘘をついたの。


家族なんていなかった。旅行なんていかなかった。

飛行機で隣にいたのは、後見人の人。


行き先は、遠く離れた街の児童保護コロニー。


笑顔で乗客に給仕する彼女だけが

あの飛行機の中で輝いていた。


[ライネ・レードルンド]

ねえレイマ。


もし、もう一度生きられたとしたら

レイマは同じように生きたい?


それとも、違う生き方を探す?


[レイマ・レードルンド]

どうかな。とりあえず、病死するのは御免だね。

多分、いろいろともがいてみて結局は、同じような道を辿る気がしてる。


お前は?


[ライネ・レードルンド]

レイマと同じだよ。


[ジェイ・カプレーティ]

誰かのために働けるってとっても素敵だと思った。

だから私はオペレーターの仕事も、傭兵という仕事も

素晴らしいものだと思っている。


ロメオ。

あなたのことだけは、ずっとわからないわ。


教えてロメオ、あなたは何を考えているの?

あなたは何のために戦ってきたの?


[レイマ・レードルンド]

人は持たざるが故に渇望しその手を伸ばす。

しかしその手はついに届かずに諦めを知る。


そして呟く。


「もし、私に翼があれば」


たとえ命の最後まで

喪失と渇望の繰り返しであったとしても

ライネ、お前はもがけるか?


[ジェイ・カプレーティ]

……バイタル・アラート?

嘘でしょ、まさか。


これ最新型なんでしょ?

ねえ、ロメオ、しっかりして!しっかりしてよ!

死なないで。教えてよ。


あなたが、何のために戦ったか……。


[ライネ・レードルンド]

父さんだったら

『レードルンドの名を継ぐものは、たとえ手足が千切れても、獅子の如く戦え』

って、言うと思うよ。


[レイマ・レードルンド]

そうだな。

それで、お前の答えは。


[ライネ・レードルンド]

地を踏みしめ、壁を蹴り上がり、空へ飛び上がろうとする。


手が届かなくても、転がり落ちても、諦めを知ったとしても、

人に翼はないから。


<完>

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