ヒュプノスの索条
想定人数
男3女3不問3計9
コード・ロメオ(ライネと二役)/不問
ブラート社所属のパイロット。
FAへの過搭乗により深刻な神経汚染を患う。
ライネ・レードルンド(ロメオと二役)/不問
レードルンド家次男。レイマの弟。
ジェイ・カプレーティ/女
ブラート社の専属オペレーター。
サイコビリー / 男
ブラート社所属のパイロット。
デル・ソル掃討作戦後に退社。
イリーナ・ゴルベフ/女
ブラート社CEO。
アルベルト・アイブリンガー /男
スターストレング社アジア連合支部元ジェネラル・マネージャー。
メズドラムの教え子。
メズドラム・エルムドール(レイマと兼役) / 男
スターストレングス社の元エースパイロット兼技術顧問。
当人は既に戦死。高度A.I.によって人工人格として蘇る。
コイントス / 不問
進行宗教団体デル・ソルに身を置くFAパイロット。
遠距離からの狙撃を得意とする。
ドラゴンヘッド /不問
セントラルレッド社のエース・パイロット。
ウツセミ・キョウカ /女
セントラルレッド社幹部パイロット。
レイマ・レードルンド(メズドラムと兼役)/男
レードルンド家嫡男、ライネの兄。
十代後半に病没している。
記
[サイコビリー]
本当に心配したんだぜ?
俺が無理言って連れ出した任務だから尚更だ。
体調の方はもうすっかりいいのか?
[コード・ロメオ]
全身の倦怠感はありますけど、寒気や震えは止まりました。
足の方はまだ車椅子が必要みたいです。
[イリーナ・ゴルベフ]
ロメオが元気になって良かった。
ジェイ。あなたの献身的な看護がなければ
ロメオの回復はもっと遅かったかもしれない。
本当にありがとうね。
[ジェイ・カプレーティ]
いえ、そんな。
私は顔を見に行っていただけで
看護だなんて、大それたことは。
[サイコビリー]
……さて、本題に入らせてもらう。
FA乗り同士、回りくどいのはナシだ。
ロメオ、お前さん今回の件をどう考えている。
[コード・ロメオ]
はい。
この症状は、オーバーライドシンドロームではないかと。
[イリーナ・カプレーティ]
流石にわかるわよね。
一週間以上昏睡状態が続くも、血液検査には異常がなし。
発語障害、手足の痺れと筋力減弱、視力と聴力の低下。
職歴と現業を考慮するに
オーバーライドシンドロームによる
不可逆性神経汚染の可能性が極めて高い。
[ジェイ・カプレーティ]
そんな。
ロメオも、スピリットフィードのように
神経汚染を起こしているのですか?
[サイコビリー]
そうだ。おそらくあいつよりも進行が早い。
昏睡はオーバーライドシンドロームでも
非常に危険な兆候だ。
神経系が緩やかに蝕まれていくのではなく
一気にパニックを起こし、その後、急激に悪化するタイプだ。
ロメオの場合は言語障害や筋力減弱が発生するまで
全く兆候が見られなかった。
[イリーナ・ゴルベフ]
そして、このタイプは劇症化しやすい傾向にあるわ。
[コード・ロメオ]
劇症化、ですか?
神経汚染は、運動障害と言語障害を主とした
症状を呈する症候群だと聞いてますが。
[サイコビリー]
劇症化した場合は意識混濁と痴呆がそこに加わる。
はっきり言えば廃人だ。治る見込みも、治す手立てもない。
[イリーナ・ゴルベフ]
言葉を選んで頂戴。
[サイコビリー]
悪いが、これは事実だ。
俺は何人もの友をこれで失った。
だからハッキリ言ってやらないといけない。
なまじっか、希望を与えるようなことは言うな。
残された限りある時間を無駄に使うことになる。
[ジェイ・カプレーティ]
もうロメオの体は元には戻らない、てことなんですか?
このままだとロメオは死んじゃうんですか?
[サイコビリー]
そうだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
違うわ。
たとえ急性症状が発症してしまっても
適切な治療を行えば、延命は十分にできる。
[サイコビリー]
朝昼晩と薬漬けにして、穴という穴に
死なねえように生き永らえさせることを延命って言うならな。
[ジェイ・カプレーティ]
冗談ですよね。
人の何倍もご飯を食べて、
そのくせ人の話はろくに聞かないで、
いっつも黙りこくってボーッとしてたじゃないですか。
今までと同じじゃないですか。
休みすぎて気を抜きすぎて、舌が回らないだけですよね。
ちょっと風邪を
足腰が弱くなっちゃっただけですよね。
嘘でしょ、嘘なんでしょ?
[コード・ロメオ]
ジェイ、落ち着いて。
そんなに大きな声を出さないでも、聞こえてるよ。
[ジェイ・カプレーティ]
あなたはなんで他人事でいられるの?
あなたの体に起きていることなのよ。
あなたの命に関わる話なのよ。
[サイコビリー]
本人だからだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
ジェイ、少し落ち着いて。
気持ちはわかるけど、まずは今後の話をしましょう。
[サイコビリー]
社長、先々の話は後だ。
今の話が必要なんだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
あなたの言いたいことはわかる。
わかってるわよ。
……ロメオ。あなたの神経汚染は紛れもない事実です。
もう
でも、もしあなたが望むのならば、
引き続きこの会社で私たちと働いてほしい。
サポートや事務方に回ってもらうことになるけど
治療を続けながら暮らしていけるだけの準備はするわ。
[サイコビリー]
いいかよく聞け。
お前の意識が明瞭で、五感が正常に働くのは数年。
これは楽観的に、長く見ての話だ。
ロメオ、お前にはもう時間がない。
お前は、何がしたい。
[ジェイ・カプレーティ]
ビリー、お願いあんまりロメオを追い詰めないで。
[サイコビリー]
追い詰める?
それは違う。
ロメオは直ぐに現実を見つめなくてはいけない。
もうあまり時間がないことを、認めなくてはならないんだ。
[ジェイ・カプレーティ]
一番苦しいのはロメオなのよ。
そんな矢継ぎ早にお前には時間がない、何がしたいだなんて
聞かれたってわかる訳ないじゃない!
[イリーナ・ゴルベフ]
二人ともちょっと黙って。
[コード・ロメオ]
……依頼の続きを。
チャンプに、頼まれたんです。
[ジェイ・カプレーティ]
先日の排水処理施設のことかしら。
その件だけどね、あなたが眠っている間に、
排水処理施設で大規模な爆発があったの。
[コード・ロメオ]
爆発……?何があったんです?
[ジェイ・カプレーティ]
企業側からのデル・ソルへの攻撃か、あるいは
デルソル側の意図ある放棄かわからないけど
もう、あの場所は跡形もない。
確認しようにも、行政による立入禁止措置が取られているわ。
[イリーナ・ゴルベフ]
セントラルレッド社
メズドラム・エルムドールの名誉を取り戻してほしい。
依頼人バッファロー・レヴは最後にそう頼んだそうね。
[コード・ロメオ]
依頼人は、会社に仕立て上げられたと言っていました。
[イリーナ・ゴルベフ]
残念だけど、故人の名誉は挽回できないと思われるわ。
しかし、その汚名も程なく人の記憶から忘れられる。
[サイコビリー]
例の事件が霞むくらい、連日連夜世界中のあっちこっちで
テロと、企業の報復合戦が繰り返されている。
誰が悪かったのか、誰が始めたのか、誰が得をしたのか。
ことが一通り終わるまで誰も気にしないだろうな。
[コード・ロメオ]
忘れられればいい、というものではないと思います。
[サイコビリー]
ああ。
[イリーナ・ゴルベフ]
そうね。あなたの言う通り。
でも、依頼人が事件の証拠として
欲しがっていた大型
排水処理施設
[ジェイ・カプレーティ]
ロメオ、もう諦めましょう。
仕方がないのよ。
こうなってしまっては、手立てがないわ。
[イリーナ・ゴルベフ]
手なら、ここにあるわ。
[サイコビリー]
手紙?
このご時世にまた古風なもんだ。
文通でも始めるつもりかよ。
[イリーナ・ゴルベフ]
ウェブ上の監視の目をかいくぐるには
案外いい案かもしれない。
手紙の差出人はアルベルト・アイブリンガー。
スターストレングス社アジア連合支部
ジェネラル・マネージャー……元、だけどね。
[サイコ・ビリー]
スターストレングス社のジェネラル・マネージャーが、
なんでウチに?
[イリーナ・ゴルベフ]
彼は依頼人バッファロー・レヴの動向を掴んでいたようね。
依頼人が我が社とコンタクトを取り、
ロメオと排水処理施設へ向かったことまで把握してる。
その上で、ロメオとジェイをご指名よ。
[ジェイ・カプレーティ]
私とロメオを?
正式に依頼として申し込まれたということですか?
[イリーナ・ゴルベフ]
ええ。
依頼内容は元スターストレングス社技術顧問にして
NMC研究所襲撃事件首謀者である
メズドラム・エルムドールの殺害
及びFAディフェンダーの完全破壊。
作戦地域は……
[サイコビリー]
ちょっと待ってくれ。
メズドラム・エルムドールは襲撃事件の際に
死亡している、そうだな?
[イリーナ・ゴルベフ]
そうよ。
[サイコビリー]
ロメオが言ってた件に出てくる名前も
メズドラム・エルムドールだったな?
[イリーナ・ゴルベフ]
そうよ。
[コード・ロメオ]
死んだ人間をもう一度殺すということですか?
[イリーナ・ゴルベフ]
額面通りに受け取れば。
[ジェイ・カプレーティ]
イリーナさんも、ビリーも、それ以前に問題があるでしょ。
ロメオは神経汚染を発症しているのよ?
それなのに、戦闘任務に参加しろだなんてそんなの滅茶苦茶よ。
[イリーナ・ゴルベフ]
もちろん。ジェイの言っていることが正しいわ。
[サイコビリー]
ああ。ジェイの意見はもっともだ。
おまけに依頼の真意もさっぱりわからん。
だが、腐っても元スターストレングス社の幹部。
会社の現状を
声はかけてこないだろう。
ロメオ、お前さんはどうしたい。
[コード・ロメオ]
やらせてください。
依頼人が亡くなった今、真実はもうわかりません。
ですが、彼に、バッファロー・レヴに頼まれたことは、
果たしたいんです。
たとえこれが、最後の仕事になっても構いません。
[ジェイ・カプレーティ]
本気なの?
神経汚染は深刻なものなのよ?
ひょっとしたらまた倒れて
そのまま意識が戻らないかもしれない。
痴呆が発生して、何にもわからなくなってしまうかもしれない。
[サイコビリー]
ああそうだ。
任務中に発作を起こす可能性だってある。
コックピットが棺桶になってもおかしくない。
今のお前はそういう
だから選べ。自分の意思で。選ぶんだ、ロメオ。
[ジェイ・カプレーティ]
やめてったら!
[イリーナ・ゴルベフ]
ロメオ。あなたが決めなさい。
あなたの決定に、私は、
[ジェイ・カプレーティ]
イリーナさんまで……。何を言っているの?
あなたたちロメオを死なせたいの?どうかしてるわ!
[サイコビリー]
そうだ。どうかしている。
社長だって、
なのにそれを
ロメオに委ねたんだ。
俺たちは、二度と治ることのない不治の病に冒されたFA乗りを、
これで最後になるかもしれない戦場に誘惑している。
[ジェイ・カプレーティ]
黙って。もう何も言わないで。ビリー、黙ってよ。
[サイコビリー]
車椅子に乗せられ、タイヤを自分で回せなくなり、
そのうち座っていることもできなくなって、
ベッドに横たわらされ、生命維持のための
チューブにつながれ骨と皮になることが約束されたお前に
今この場で、出撃の意思を問う。
[ジェイ・カプレーティ]
やめて。聞きたくないの。やめてビリー。
なんでよ、ロメオの目が覚めてよかったじゃない。
それで終わりじゃどうしてダメなの。
これじゃまるで、二人がロメオに
死を選ばせてるみたいじゃない。
[サイコビリー]
最低な質問をしていることは理解してる。
俺たちは、少なくとも俺は
ロメオを廃人として死なせたくない。
それが、
[イリーナ・ゴルベフ]
FAパイロットとして決めなさい。
私は、あなたの意思を支持します。
[サイコビリー]
ジェイ。
勝手なことを言わせてもらう。
お前はそのまま泣いていてくれ。
心の底から悲しんでくれる人間も必要だ。
これは皮肉なんかじゃない、お前が怒り、泣くことで
俺は今、心の底から救われている。
だが、全てを決めるのはこいつなんだ。
[コード・ロメオ]
たとえ手足が千切れても、獅子の如く、戦えーーー。
任務をお受けします。
[イリーナ・ゴルベフ]
……了解。
[ジェイ・カプレーティ]
ロメオ、本気なの?
どうしても行かなきゃいけないの?
[コード・ロメオ]
うん。行くよ。
だからオペレーションを頼みたい。
ジェイ・カプレーティ、君に。
[イリーナ・ゴルベフ]
ジェイ、あなたはどうする。
ロメオと一緒に、任務を引き受ける?
[ジェイ・カプレーティ]
私は、私はロメオを行かせたくない。
死なせたくない。でもロメオは行くっていう。
自分の意思で、行くっていう。
私じゃロメオを止められない。
……だから私は、引き受けるわ。
ロメオを死なせないために。
[サイコビリー]
決まりだな。
俺はロメオの着替えを取ってくる。
[イリーナ・ゴルベフ]
快気祝いは終わりよ。
このままファースト・ブリーフィングへと移行します。
://A Few Days Later,
[ジェイ・カプレーティ]
こちら管理室。オペレーターのジェイです。
FA1、デュアルモニタリング開始。
バイタルサインは全て正常です。
作戦地点到着まで150秒を予定。
あなた……いいえ、私たちには時間がありません。
最短最速での任務遂行を心がけてください。
[コード・ロメオ]
了解しました。FA1、全武装のセーフティを解除します。
[アルベルト・アイブリンガー]
FAオール・アニマルより通信。
ロメオさん、ジェイさん、こんにちは。
僕が依頼人のアルベルト・アイブリンガーです。
依頼を引き受けてくださりありがとうございました。
本日は宜しくお願いいたします。
[コード・ロメオ]
あ、はい、こんにちは。
宜しくお願いします。
[ジェイ・カプレーティ]
ええ……宜しくお願いします。
[アルベルト・アイブリンガー]
ロメオさんの体調はその後いかがですか。
[コード・ロメオ]
比較的、今日は調子がいいです。
見え方も、聞こえも、悪くないですし。
[アルベルト・アイブリンガー]
それは良かった。
[ジェイ・カプレーティ]
依頼人、弊社パイロットへのお気遣い感謝いたします。
ですがそのようなやり取りをしている時間はありません。
ご依頼いただいた内容の要点を簡潔に再度説明します。
作戦領域はアウロラ鉱山最深部。
作戦内容はメズドラム・エルムドールの
殺害およびFAディフェンダーの完全破壊です。
しかし、ターゲットであるメズドラムは先日の
NMC研究所襲撃事件の際に死亡しています。
[アルベルト・アイブリンガー]
はい、その通りです。
メズドラム・エルムドールは戦死、いいえ殉職しました。
百人以上の部下とともに。
[ジェイ・カプレーティ]
依頼人、私たちは
押し退けてここにきました。
幽霊を二度殺すという
今更くだらぬ駆け引きなど無用です。
真実を、話してくださいますね。
[アルベルト・アイブリンガー]
あなたの仰った通りですよ、ジェイ・カプレーティ。
メズドラム・エルムドールの亡霊を確実に殺してほしいのです。
彼の冥福と名誉のために。
[ジェイ・カプレーティ]
回答の意味が分かり兼ねます。
だいたい、そんな非科学的な……
[コード・ロメオ]
FA1、被ロックオンを感知。前方です。
オートクルーズ解除、戦闘モードに移行します。
[アルベルト・アイブリンガー]
時間がないのでしたよね。
じきにわかりますから、始めましょうか。
FAオール・アニマル、
私が
有効射程距離まで一気に突っ込みますので付いてきてください。
行きますよ。
[メズドラム・エルムドール]
久しぶりだな、アルベルト。
会いたかったぞ。
ほう、
悪くない選択だ。
戦力差を埋めるには一対多の環境を作る。
戦いの基本だからな。
では、二人まとめて叩き込んでやろう。
まずは
その場合の武器は、
中距離武装が最適だ……行くぞ。
[アルベルト・アイブリンガー]
……もうシールド表面が融解し始めたのか。
相変わらず、冗談みたいな火力だ。
ロメオさん、迂闊に射線に立たないでくださいね。
スターストレングス社のフラグシップ
FAディフェンダーの火力は、伊達じゃない。
[コード・ロメオ]
敵機に接近できました。この距離ならいける!跳びます!
[メズドラム・エルムドール]
一機が引きつけ、一機が虚を
考えが甘い。
近距離戦で縦の高さを使うならば
もっと周到にフェイントを用意しておけ!
[ジェイ・カプレーティ]
FA1、被弾。ブースター出力低下、落下します!
すぐに耐ショック体勢をとって!
[アルベルト・アイブリンガー]
FAオール・アニマル、ショルダージョイント
およびスパインユニットを固定。
チャージ・ポジションに移行。
突撃します。
[メズドラム・エルムドール]
上から飛びかかってくる鳩を落とせば、
今度は前から犬がじゃれついてくる。
それで
お前はいつも遅すぎる!
[ジェイ・カプレーティ]
FAが前蹴り……大したマーシャル・アーツね。
FAオール・アニマル、シールド
転倒に備えて!
[コード・ロメオ]
まだだ……行くぞ。
[メズドラム・エルムドール]
叩き落とされて、立ち上がり、また突っ込む。
実に健気な戦い方だ。
思い出すよ、あの真っ直ぐ過ぎた
[コード・ロメオ]
なぜだ……なぜ、
どうして、こちらの弾は、当たらない?
[ジェイ・カプレーティ]
動きを完全に予測されている……。
だから、全ての対応が途轍もなく
ロメオ、一旦距離をとって。
態勢を立て直す必要があるわ。
依頼人、そちらは大丈夫ですか!
[メズドラム・エルムドール]
なんだ……アルベルトめ
また蹴り飛ばされて気を失ったのか。
訓練の時と変わらんな。
ほら、立て……アルベルト、立て。
さっさと立たんかーッ!
[アルベルト・アイブリンガー]
そのあだ名で僕を呼ぶなッ!!
お前ごときが、その名を呼ぶな……
[ジェイ・カプレーティ]
依頼人、大丈夫ですか!
[アルベルト・アイブリンガー]
人の思い出に気安く触るなよイーカロス!
ぶち壊すぞッ!!
[メズドラム・エルムドール]
俺に向かって何を吠えている?
夢でも見てるのか、このバカモノめ。
[アルベルト・アイブリンガー]
違う、お前は彼なんかじゃない。
お前はただのA.I.だ、イーカロス。
どれだけ高度に情報を集積し統合し
人格や記憶さえも精密に再現したつもりでも
お前はただのA.I.だ。
人間じゃない。
あの人じゃない!
[ジェイ・カプレーティ]
……読めてきたわ。
ここにいるメズドラム・エルムドールはフェイク。
デル・ソルが用意した偽物なのですね。
[アルベルト・アイブリンガー]
超大型FM管理用高度A.I.イーカロスは
様々なデータを用いて人格さえ再現することができる。
記憶、思想、口癖までも高度に再現することができる。
だけど、メズドラム・エルムドールは死んだ。
FAディフェンダーと共に戦死したんだ。
僕が、会社が、殺したんだ。
[メズドラム・エルムドール]
アルベルト、お前さっきから何を言っている。
お勉強のし過ぎじゃないのか?
たまにはトレーニングルームにも顔を出せと言ったろう。
[ジェイ・カプレーティ]
アイデンティティさえも作り出している……。
加えて、過去の具体的な情報をそのまま記憶として移植してるみたい。
確かに、これではちょっとやそっとでは
A.I.だとわからないかもしれませんね。
[アルベルト・アイブリンガー]
デル・ソルも、スターストレングス社も、
セントラルレッド社も、様々な形で彼を利用し続けるつもりです。
企業間抗争の引き金を
[コード・ロメオ]
あんたら、さ……
戦いの最中に……思い出話に、浸るなよ。
トニトルス、起動。
[ジェイ・カプレーティ]
雷撃、敵機に命中しました。
FAディフェンダー、動作停止を確認。
今です、畳み掛けてください。
[メズドラム・エルムドール]
くくッ、俺としたことがとんでもない失礼を働いた。
そいつの言う通りだ、AA。
昔話は全部終わってからダイナーでゆっくりな。
お前の好きなコロナ・ビールとピザをご馳走してやろう。
[アルベルト・アイブリンガー]
もう二度と、その名前で僕を呼ぶな。
FAオール・アニマル、ハイパーパルス
エネルギー急速充填、発射!
[ジェイ・カプレーティ]
……全弾命中しています!
敵機、被害拡大。いけます、もう少しです。
FA1、すぐに追撃を!
FA1……ロメオ?
[コード・ロメオ]
ごめん……急に、動か、ないん、だ。
体が、機体、が……。
[メズドラム・エルムドール]
オーバーライドシンドロームか。
[コード・ロメオ]
動、け……動け……う、うッ……
[ジェイ・カプレーティ]
嘘でしょ……これじゃ、まるで……
[メズドラム・エルムドール]
同じFAパイロットとして同情する。
俺はもうお前には手を出さん。
そこで静かにしていてくれ。
さあアルベルト、補習の続きだ。
[アルベルト・アイブリンガー]
どこまで、どこまで先生の真似をすれば
気が済むんだよォッ!お前はッ!
[メズドラム・エルムドール]
いかなる理由があろうと戦いの最中に取り乱すな。
軍人失格だぞ。
[アルベルト・アイブリンガー]
うるさいッ!黙れ!黙れ!黙れッ!
ハイパーパルス、発射!発射ッ!あああああッ!
[メズドラム・エルムドール]
同じ手を立て続けに使うバカがどこにいる?
そう言うのを苦し紛れと言うんだ。
お前らしくもない……。もっと頭を使え。
[ジェイ・カプレーティ]
依頼人、コックピット周辺に
前方装甲が限界寸前です。
緊急脱出の準備を。
依頼人、応答してください!
[ロメオ]
動……く、まだ、動く、動くぞッ!
[メズドラム・エルムドール]
やるのか?
俺は一向に構わんが、症状が進むぞ。
[ロメオ]
レード、ルンド、の、名を継ぐ……者は
たとえ……ああレイマ、置いていかないで、レイマ……
[メズドラム・エルムドール]
幻覚症状も出ているようだな。
動くといっても戦うことは到底無理だ。
悪いことは言わん、
[ロメオ]
たとえ、手足が千切れても獅子の如く……戦うッ!
[ジェイ・カプレーティ]
ロメオ、いけない!
もう
[ロメオ]
トニトルス、起動!
[メズドラム・エルムドール]
その気概や見事なり!
お前はなかなかの武人だ。
そこで伸びてる
爪の垢を煎じて飲ませてやりたいところだよ。
FAディフェンダー、全身全霊をもってこれを迎撃す!
[ロメオ]
うあああああああああッ!
[ジェイ・カプレーティ]
FA1、大破。ジェネレーター停止。
我々の敗北です。作戦は失敗です。
[アルベルト・アイブリンガー]
まだだ、まだ終わっていない……。
[ジェイ・カプレーティ]
依頼人、もう無理です。
当方の残存戦力は皆無。
一方の敵機FAの戦力いまだに健在です。
[メズドラム・エルムドール]
そうだな。まだ終わっていない。
それがどんな形であれ、戦いにはケリを付けねばなるまい。
[ジェイ・カプレーティ]
来るわ!緊急脱出を!
[アルベルト・アイブリンガー]
ハイパーパルス過充電、リミッター解除。
[メズドラム・エルムドール]
ほう、自爆覚悟で
そんな出力で暴発させればお前は
コックピットごと木っ端微塵に吹き飛ぶぞ。
[アルベルト・アイブリンガー]
ええ、そうなるでしょう。
しかし僕が僕の意思で選んだ選択です。
[メズドラム・エルムドール]
そうか。お前が自分で決めたのだな、アルベルト。
お前は自分自身の命をかけて、俺を殺しに来たのだな?
[ジェイ・カプレーティ]
依頼人、脱出してください!
このままでは胸部武装ごと暴発します!
[アルベルト・アイブリンガー]
そうだ。メズドラム、お前は……
あなたは汚名を着せられたまま戦死した。
そうしてもう一度、泥を被るための
蘇らせられようとしている。
だから、僕は、あなたを、先生を、もう一度殺さねばならない。
あなたを見殺しにした僕の最後の責任だからだ。
[メズドラム・エルムドール]
責任か。
言うようになったなAA!
いいぞ、撃て。撃ってみろ。
お前が選んだ答えを
[アルベルト・アイブリンガー]
先生、さようなら。
ハイパーパルス発射。
[コード・ロメオ]
……いかないで、父さん。
……いかないで、レイマ。
ああ、この
[ジェイ・カプレーティ]
FAディフェンダー、FAオール・アニマル
両機ともに胸部コックピット消滅。
再起不能、バイタルサイン消失。
任務は……失敗です。
://Contemporary,
[サイコビリー]
ようやく見つけたぜ。
久しぶりだな、コイントス。
[コイントス]
お前か。
またどこかでぶつかるかとも思っていたが、
ついにあれ以来だったな。
[サイコビリー]
ああ。
随分と長いこと、この騒ぎの後始末をやってきた気がするよ。
だがそれも、もうじき終わりだ。
お前も今じゃデル・ソル最後の残党なんて呼ばれてる。
[コイントス]
残党、か。
好きで逃げ隠れてたわけじゃない。
狙撃手の特性上、表に出れない仕事が多かっただけだ。
企業どもの展望を積んだ巨大な花火を撃ち落としたりな。
[サイコビリー]
そいつァいいな。酒が進みそうだ。
で、その企業連合だがこの機会に乗じ
無人戦闘機の一機さえ残さずに全ての過去を清算するつもりだ。
壊して、壊し尽くして
来たるべき宇宙時代を切り拓く
クリーンで爽やかな新企業へと合併するそうだ。
人類最後の戦い!だなんて
コマーシャルを打ってやがらあ。
笑わせる。
[コイントス]
そうか。
ゲームが終われば手駒は無用。
いかにも連中らしい考えだ。
こんな
[サイコビリー]
違いねぇ。溶かして固めてリサイクルして
宇宙船の端材にでも使ってもらえりゃいいな。
[コイントス]
サイコビリー。
お前はここに何をしにやってきた。
投降を促しに来たのか。それとも、この首を獲りにきたのか。
[サイコビリー]
そうだな……どっちもハズレだ。
俺ァお前の命なんかのために、お前を見世物にするつもりはない。
かといって、俺がわざわざお前の首の獲る理由もない。
[コイントス]
では、戦火をくぐって世間話をしに来たのか?
[サイコビリー]
ハッ、お前ほど変わっちゃいねえよ。
そんじゃコイントス、
いつもみたいに表か裏かで決めようや。
[コイントス]
何をだ。
[サイコビリー]
俺がここにきた理由だよ。
[ドラゴンヘッド]
遅い。遅いぞブラートの傭兵!
お前の希望通り、対象との接触を許可したのだ。
時間くらいは守ってもらわねば困る。
[コイントス]
そう言うことか。
[サイコビリー]
さあ、弾け。
どっちが出た?
表か?裏か?
[ドラゴンヘッド]
最後の残党、貴様には随分と辛酸を舐めさせられた。
混乱の時代が終わる象徴として華々しく
FAメテオリス、脚部固定。
[コイントス]
……裏だ。
[サイコビリー]
ヘッ……だよなぁ。
表って
[ドラゴンヘッド]
発射ッ!!
……ブラートの傭兵。お前、どう言うつもりだ。
今の行為は誤射などと誤魔化せるものではない。
[サイコビリー]
おう。
ちゃーんと狙って撃ち落としたからな。
誤射でもまぐれでもないさ。
俺はたった今から泣く子も黙るデル・ソルの残党様だ。
覚悟しろよ、正義のシェリフ。
[コイントス]
変わらんなお前も。
礼を言う。
[ウツセミ・キョウカ]
こちらウツセミだ。
コールサインを確認した。
どうした。何があった。
[ドラゴンヘッド]
おいウツセミ、聞いてくれ。
お前の紹介で来たブラートの傭兵が裏切りやがった。
この野郎は、この状況で、この壊滅寸前のデル・ソル残党側に寝返ると。
寝返ると言い放ったぞ、なあ。
[ウツセミ・キョウカ]
あの馬鹿……
ドラゴンヘッド、何を笑ってる?
[ドラゴンヘッド]
……ん?ん、そう聞こえたか?
笑ってなんて、ないさ。
でもな、なぜか少しばかり口元が
……まあそう言うわけだ。
状況に沿い、これよりFAメテオリスは
デル・ソル最後の残党と、この裏切り者を撃破する。
[ウツセミ・キョウカ]
サイコビリー!応答しろ。くだらん茶番は止せ。
デル・ソル最後の残党はお前の旧友だと聞いている。
多少の
[サイコビリー]
ああ。お前さんたちは命は奪わない。
それ以上に大事なものを持っていくつもりだからな。
[ウツセミ・キョウカ]
こちらの兵力を知っているだろう。
むざむざ死ぬような真似は止せ。
たとえ滑稽な芝居でも、引きどころを見失えば命を落とすぞ。
[サイコビリー]
芝居?芝居なんかじゃねえさ。
表か裏かに賭けたんだよ。
タバコ一箱買えないコイン一枚。
それが今の俺たちの命の値段だ。
手を滑らせて落としたところでどうってことないさ。
[ウツセミ・キョウカ]
お前の心情は察する。
だが、つまらん
[ドラゴンヘッド]
ウツセミ、もういいだろう。
お前も、ブラートの傭兵も、FA乗りなんだろう。
[コイントス]
サイコビリー、足止めを頼む。こちらは一旦距離を取る。
[ドラゴンヘッド]
そう易々と狙撃手を適正距離に逃すものか。
追尾ミサイル、射出。脚部固定解除、直ちに収納。
フロート・モードに移行する。
[コイントス]
なに……脚部パーツが変形しただと?
速いぞ、引き剥がせん。
[サイコビリー]
おいおい嘘だろ?
そのFA、
なんで俺の
[ドラゴンヘッド]
FAメテオリスはセントラルレッド社の特殊技術を集結させたワン・オフFAだ。
これぐらいで驚かれては困る。
[ウツセミ・キョウカ]
ドラゴンヘッド、一人で抑えられそうか?
[ドラゴンヘッド]
愚問だ。
相手は装備の偏った旧型と満身創痍のスナイパー。
このFAメテオリスの敵ではない。
[サイコビリー]
好き勝手言ってくれるじゃないかよ。
今のはアタマにきたぜ。
[ドラゴンヘッド]
腹部ブレードアーム起動。
覚悟しろスナイパー。
その冗長なライフルごと切り刻んでやるからな。
[ウツセミ・キョウカ]
……お前、やっぱり笑っているだろう?
まあいい。
本体による包囲網を段階的に収縮させていく。
なるべく時間をかけて、だ。
あまり羽目を外しすぎるなよ。
[サイコビリー]
よーし張り付いた……!
新型さんは、ドッグファイトは苦手と見える。
そのデカいケツに弾丸をお見舞いするぜ。
[コイントス]
そいつの真後ろにつくな!
何か背負ってる!
[ドラゴンヘッド]
たとえ背後とて、このメテオリスに死角なし。
[サイコビリー]
なんだこりゃあ……コルベットのマフラーか?
[コイントス]
バードショットだ!
まずいな、あの距離では避けきれん。
サイコビリー、上に飛べ!
[ドラゴンヘッド]
無駄だ。
散らせ!
[サイコビリー]
ちッ、思いっきり前を削られたか……。
もう一度、張り付く。逃げきれよ!
[コイントス]
ダメだ、奴を振り切れん!
[ドラゴンヘッド]
敵機スナイパーライフル、銃身切断。
さあ!もっと遊ぼうぜ、最後の残党!
[コイントス]
FAサードアイ、メインウェポン破損。
ハンガー内部のサブウェポンにて応戦する。
[ドラゴンヘッド]
大規模な残党狩りも今日で終わりだ。
つまり今日が、FA乗りにとって、最後の鉄火場だ。
取り出したチンケなハンドガン2丁で
パンパン豆鉄砲撃ってもう終わり……
だなんて言ってくれるなよ。
[コイントス]
ああ。安心してくれ。
こいつでそのブサイクな腹を吹き飛ばしてやるよ。
[ドラゴンヘッド]
FAメテオリスの装甲をハンドガンが貫通しただと……?
[コイントス]
こいつはハンドガンじゃない。ハンド・キャノンだ。
それも、ストッピングパワーに特化した特注品だ。
足が止まったぞ!今だ!
[サイコビリー]
俺ァもうデル・ソルの残党の大悪党だからよ。
動き止まったところを後ろっから撃っちまうよ?
蜂の巣だ、シェリフ。
[ドラゴンヘッド]
やるじゃないか、
こうでなくては、こうでなくてはな!
[ウツセミ・キョウカ]
押されているようだなドラゴンヘッド。
ほら、救援要請を出せ。すぐに駆けつける。
[ドラゴンヘッド]
なんだウツセミ、聞いてたのか。
救援要請……ねえ。
混ぜて欲しいなら来いよ。入れてやるぜ。
[ウツセミ・キョウカ]
何を言っている。
私はそんなつもりで言ったわけではない。
[ドラゴンヘッド]
んじゃ、いい。
FAメテオリスが墜ちるまで死力を尽くして戦わせてもらう。
脚部ユニット再変形。脚部レーザーブレード起動。
[サイコビリー]
こちとら銃身が熱で変形しそうだってのに、
ま〜だ変身すんのかよお前さんのは。
[コイントス]
まるで阿修羅のような
[ドラゴンヘッド]
学があるな残党。
これを作った会社は仏教の盛んなアジア圏にあってね。
御察しの通りそういう意匠だ。
最後の
斬り合いは得意な方ではないが、あるとわかっていては
使わずにはいられないタチでな。
行くぞ。
[サイコビリー]
気持ちはわかるが斬り合いに付き合うのはごめんだぜ。
遠慮はしねえ。
ゲスで卑怯な悪党たちに一方的に撃たれてやられちまいな、サムライ。
[コイントス]
単独で急速に接近する機影をレーダーに確認……。
なんだ、この異常なスピードは。
もうすぐに視認できる距離に入る。
[ドラゴンヘッド]
あいつめ。やっぱり来やがった。
いや、最初から向かってたな?
あれでいて根っからのFA乗りだ。
[サイコビリー]
ちッ、よりによってあいつが増援か。
もう一息でこいつを削り切れたのによ。
コイントス、ちょいと厄介なことになったぞ。
[ウツセミ・キョウカ]
どうやら苦戦しているようだな。
FA
[ドラゴンヘッド]
ウツセミ、お前笑ってないか?
[ウツセミ・キョウカ]
馬鹿を言え。
呆れてるだけだ。さっさと済ませるぞ。
[コイントス]
……すまない、負け戦に付き合わせる。
[サイコビリー]
始める前から何言ってんだよ、最後の残党。
どうせ俺たちに明日はない。
それに悪党ってのはな最後まで図太くしぶとくやるんだよ。
さあ行くぜ?
[ウツセミ・キョウカ]
敵FAガトリング・ボギー大破、戦闘不能を確認。
敵FAサード・アイ大破、戦闘不能を確認。
[ドラゴンヘッド]
あの機体と装備でよくぞここまで粘った。
[ウツセミ・キョウカ]
愛機に傷をつけられたのは何年振りだろう。
敵ながら、敬意を表するよ。
[ドラゴンヘッド]
ああ。
いい……戦いだった。
それで司令官殿、
こいつらの処遇はどうするんだ?
[ウツセミ・キョウカ]
なんだその呼び方は。浮かれよって。
デル・ソル最後の残党と目されるコイントスは
戦闘の末、企業連合軍により撃退され身柄を拘束。
残党討伐に参加したブラート社の傭兵は
同戦闘により搭乗FAが大破。そのまま回収船にて帰還、の予定だ。
[サイコビリー]
おいおい、司令官殿。
前線でデル・ソルに寝返ったこの大悪党を見逃すってのか?
俺のこともお縄にするのが筋なんじゃねえのかよ。
[ウツセミ・キョウカ]
お前を捕まえたところで話がこじれるだけだ。
面倒を増やしてどうする。
[サイコビリー]
全く……シマらねえオチだな。
ありがとよ。
[ウツセミ・キョウカ]
サイコビリー、いつかお前は私に言ったな。
自分の命の使い方を考えろ、と。
その言葉はそっくり返す。
[ドラゴンヘッド]
なかなかに手強かったぞ、ブラートの傭兵。
お前の命の値段は知らんが
少なかれ実力はコイン一枚などではない。
デル・ソルの残党、お前もだ。
[コイントス]
サイコビリー、礼を言う。
最後に背中を預けた相手がお前で良かった。
[サイコビリー]
水臭えこと言うなよ。
それに、ちょっとやってみたかったんだよ、こういうの。
[ウツセミ・キョウカ]
世界を巻き込んだ騒動の最後に、口直しのいい余興だった。
ここでのことは私たちだけの秘密にしておこう。
もう、全てが終わる。
[コイントス]
そう。全て終わる。
だが、後始末が残っている。
ありがとう、サイコビリー。
ありがとう、ドラゴンヘッド。
ありがとう……
[ウツセミ・キョウカ]
ウツセミ・キョウカだ。
[コイントス]
ありがとう、ウツセミ・キョウカ。
楽しかったよ。
[ドラゴンヘッド]
残党、お前!
[ウツセミ・キョウカ]
……逝ったか。
[サイコビリー]
ああ。はっきりと聞こえた。
[ドラゴンヘッド]
傭兵、お前気づいていたんだろう。
止めなくて良かったのか。
[サイコビリー]
コックピットにピストル持ち込んでたんだ。
そんな野暮ができるかよ。
[ウツセミ・キョウカ]
FAコイントスとパイロット・サードアイの冥福を祈らせてもらう。
[ドラゴンヘッド]
最後の残党とその愛機のことは俺も覚えておこう。
[サイコビリー]
コイントスはいいFA乗りでサードアイはいいFAだったよ。
ウツセミ、ドラゴンヘッド、ありがとな。
[ウツセミ・キョウカ]
ところで、この先の宛てはあるのか?
世論の勢いもあり、FA事業は今後間違いなく急激に縮小する。
FAパイロットは民生企業への就職さえ難しいだろう。
[サイコビリー]
さあねえ。
俺にも出てきたんだよ。神経汚染が。
と言っても軽いやつだがな。
薬を飲み続ければ、どーにかじいさんにはなれそうだ。
ま、ここらが潮時だと思ってる。
[ウツセミ・キョウカ]
そうか。
[ドラゴンヘッド]
ブラートの傭兵、達者でな。
もう会うこともあるまいが、お前のことは嫌いじゃない。
[サイコビリー]
ああ。俺もお前さんとは一度酒を飲んでみたい。
もしどこかのバーで出会った時は一杯
最後の最後にすまない。
回収艇が来るまででいい、一人にさせてくれ。
://Boarding.
[イリーナ・ゴルベフ]
もう、行くのね。
[ジェイ・カプレーティ]
はい。
二人で、ロメオの故郷へ、行ってみようと思います。
[イリーナ・ゴルベフ]
そう。
短い間だったけど、あなたとロメオと
ともに働けた時間はとても幸せだったわ。
[ジェイ・カプレーティ]
私も。いえ、私たちもです。
あの、本当に、この最新型のドーム型キャリアーを
頂いてしまっていいのでしょうか?
[イリーナ・ゴルベフ]
差し上げるわ。
小型コンピューターによるバイタル管理が
徹底されているから、重度の神経汚染を患った
パイロットが余生を送る上で、大きな助けになるはずよ。
遠慮なく持って行って。
[ジェイ・カプレーティ]
チャーター機から医療機器の手配まで
何から何までありがとうございます。
[イリーナ・ゴルベフ]
いいのよ。私にできることはそれくらいだから。
ところで
[ジェイ・カプレーティ]
手紙が一通だけ。
[イリーナ・ゴルベフ]
手紙!それで、なんて?
[ジェイ・カプレーティ]
二人で旅行もいいけど避妊はしっかりしろよ、って。
[イリーナ・ゴルベフ]
はは、サイテーね、アイツ。本当にそれだけ?
[ジェイ・カプレーティ]
FAに乗るのも飽きたから、ちょっと旅に出るって書いてました。
文字がひどく震えてて、読めないところもありましたけど。
[イリーナ・ゴルベフ]
……そう。
[レイマ・レードルンド]
どうだった。
戦ったんだろう、手足の千切れるまで。
[ライネ・レードルンド]
うん。戦ったよ。最後は、よく覚えてないけど戦った。
[レイマ・レードルンド]
どう思った。何を感じた?
[ライネ・レードルンド]
正直、何も。
[レイマ・レードルンド]
……何も?何も感じなかったのか?
[ライネ・レードルンド]
うん。
ただ、鼻の奥が熱くなって、涙が出そうになって、
頭の中は痛いくらい冷たかった。
[レイマ・レードルンド]
戦いを目的にするな。手段に使われるな。
耳にタコができるくらい親父に言われただろう。
[ライネ・レードルンド]
そうだね。言われた。何度となく。
[レイマ・レードルンド]
お前にとって戦いは、手段だったか?
それとも、目的だったか?
[ライネ・レードルンド]
両方……かなあ。多分だけど。うん。
[レイマ・レードルンド]
……なんだそりゃ。
相変わらずボーッとしたやつだよ、お前は。
[イリーナ・ゴルベフ]
あれからロメオの体調はどう?
こうして眠っているときは穏やかそうだけど。
[ジェイ・カプレーティ]
調子がいいときは声を出すことができます。
左手も少し動きます。
自力での寝返りは、難しいです。
[イリーナ・ゴルベフ]
そう。
この前の検診で何か言われた?
[ジェイ・カプレーティ]
はい……。
今年の、冬を迎えるのは……
[イリーナ・ゴルベフ]
……連れて行ってあげて。
そして一緒に見てあげて。
ロメオが生まれ育った故郷の風景を。
あなたが、連れて行ってあげて。
どうかお願いね。
[ジェイ・カプレーティ]
はい。必ず。
[レイマ・レードルンド]
それで。
お前にとって、どっちの比率が大きかったんだ。
何かのために戦ったのか。
戦うために何かを選んだのか。
[ライネ・レードルンド]
レイマは笑うと思うけど……
最初は、父さんとレイマのために戦おうと思った。
[レイマ・レードルンド]
笑わない。続けてくれ。
[ライネ・レードルンド]
はじめて戦って、負けて、僚機を失って。
これじゃ父さんとの約束を果たせないと思った。
そこからは戦う場所を探した。
手足が千切れるまで戦える場所を。
[レイマ・レードルンド]
それで。
戦い続けて、何か変わったか?
[ライネ・レードルンド]
どうかな。戦うことは上手くなったと思う。
戦う意味は、何も変わらなかったと思う。
[レイマ・レードルンド]
そうか。
そういうもんなんだな。
俺はさ、戦場に出る前に死んじまったから。
正直ちょっと羨ましい。
[ライネ・レードルンド]
ああ、そうだね。
なんかごめんね。
[レイマ・レードルンド]
謝る必要はない。
最期の日はずっと病室のベッドから外を見ていた。
分厚い雲の向こうまで飛んでいけたら
俺もレードルンドの名を背負って
お前と一緒に戦えるのに、と。
[ライネ・レードルンド]
……うん。一緒に戦ってみたかった。
[レイマ・レードルンド]
しけたことを言った。許せ。
話は変わるが、この人が……
お前をこっちに連れてきてくれるのか?
[ライネ・レードルンド]
そうみたい。別に、頼んだわけじゃないんだけど。
[レイマ・レードルンド]
そうみたい、って他人事かよ。
彼女はお前の恋人か?
[ライネ・レードルンド]
違うよ。そんなんじゃないよ。ただの同僚。
[レイマ・レードルンド]
ただの同僚?ただの同僚が
死にかけのお前を連れて
わざわざ俺たちの国まで来るのか?
時計と傭兵くらいしか名物のないあんな辺鄙な国に?
[ライネ・レードルンド]
ねえレイマ。
さっき、戦いを目的にするな、手段に使われるなって話をしたよね。
[レイマ・レードルンド]
したな。それが?
[ライネ・レードルンド]
彼女にとって今回の旅行は目的ではなく、手段なんだと思う。
[レイマ・レードルンド]
なるほど。
それで、お前を連れてこっちに来ることで
彼女は何を手に入れるんだ。
[ライネ・レードルンド]
うーん、それは分からないんだ。
[レイマ・レードルンド]
分からない?
[ライネ・レードルンド]
ジェイが何を考えてるか正直分からない。
だから、ずっとそばにいても違和感がないんだと思う。
[レイマ・レードルンド]
へえ。なんか似てるな、お前と。
[ライネ・レードルンド]
えっ?そうかなぁ?
[レイマ・レードルンド]
うん。似てると思うぞ。
[ジェイ・カプレーティ]
あ、今……ロメオが笑った。夢でもみてるのかしら。
[イリーナ・ゴルベフ]
この子が笑うところ、初めてみたかもしれない。
こんな顔で笑うのね。
[ジェイ・カプレーティ]
イリーナさんってなんかロメオのお母さんみたいですね。
[イリーナ・ゴルベフ]
ちょっとちょっと。
やめて頂戴、私はこれでも花の独身よ。
……本当、こうしているとただ眠っているだけみたい。
まだ、信じられないわ。
[ジェイ・カプレーティ]
私もです。
だから、ブラート社を辞めて、この街を離れて
ロメオが生まれた場所に行くんだと思います。
認めたくないけれど。
受け入れたくないけれど。
[イリーナ・ゴルベフ]
いい選択だと思う。
地球のどこにいても迎えに行くから。
それじゃ、そろそろ行くわ。
ジェイ、ロメオ、またね……元気で。
[ジェイ・カプレーティ]
それじゃ寂しすぎるから、
「行ってらっしゃい」がいいです。
[イリーナ・ゴルベフ]
そうね。
ごめんなさい、やり直させて。
ふーッ。
ジェイ、ロメオ、行ってらっしゃい。
[ジェイ・カプレーティ]
はい!
[ライネ・レードルンド]
ところでレイマ、散歩は好きかい?
[レイマ・レードルンド]
散歩?好きでも嫌いでもないが。
[ライネ・レードルンド]
散歩は目的かな。それとも手段なのかな。
[レイマ・レードルンド]
……なるほど。
それで、お前はどう思うんだ。
[ライネ・レードルンド]
健康のために散歩に出る人。
時間をつぶすために散歩に出る人。
気分転換に散歩してみる人。
気がついたら散歩になってしまう人。
その人によって、散歩の意味は違うと思う。
[レイマ・レードルンド]
そうかもしれないな。
一言で同じ散歩といっても、意味は違う。
[ライネ・レードルンド]
散歩の途中で引き返してしまう人。
目的地へ行くのに運動を兼ねて散歩する人。
何かを探すために散歩をする人がいても
別に、不思議じゃないよね?
[レイマ・レードルンド]
それは、散歩の目的を探すということか?
[ライネ・レードルンド]
ううん。目的ですらない。
ただ、なんとなく、何を探したいかも
わからないのだけれど、歩いてしまう。
[レイマ・レードルンド]
不思議ではない。ただ、なぜ歩くのだろう。
椅子に腰掛けて、もの思うのでは事足りないか?
[ライネ・レードルンド]
立っている場所と景色を変えたいんだと思うよ。
動いてみないと欲しいものや、
その手立てがわからない人って
結構いるんじゃないかな。
[レイマ・レードルンド]
さっきはつまらない質問をして悪かった。
ほんの少しだけわかったよ。
お前が手に入れたものを。
[ジェイ・カプレーティ]
ねえロメオ。見える?飛行機、離陸したよ。
前にね、話したと思うけど
私キャビン・アテンダントになりたかったんだ。
でもね、あの時ちょっと嘘をついたの。
家族なんていなかった。旅行なんていかなかった。
飛行機で隣にいたのは、後見人の人。
行き先は、遠く離れた街の児童保護コロニー。
笑顔で乗客に給仕する彼女だけが
あの飛行機の中で輝いていた。
[ライネ・レードルンド]
ねえレイマ。
もし、もう一度生きられたとしたら
レイマは同じように生きたい?
それとも、違う生き方を探す?
[レイマ・レードルンド]
どうかな。とりあえず、病死するのは御免だね。
多分、いろいろともがいてみて結局は、同じような道を辿る気がしてる。
お前は?
[ライネ・レードルンド]
レイマと同じだよ。
[ジェイ・カプレーティ]
誰かのために働けるってとっても素敵だと思った。
だから私はオペレーターの仕事も、傭兵という仕事も
素晴らしいものだと思っている。
ロメオ。
あなたのことだけは、ずっとわからないわ。
教えてロメオ、あなたは何を考えているの?
あなたは何のために戦ってきたの?
[レイマ・レードルンド]
人は持たざるが故に渇望しその手を伸ばす。
そして呟く。
「もし、私に翼があれば」
たとえ命の最後まで
喪失と渇望の繰り返しであったとしても
ライネ、お前はもがけるか?
[ジェイ・カプレーティ]
……バイタル・アラート?
嘘でしょ、まさか。
これ最新型なんでしょ?
ねえ、ロメオ、しっかりして!しっかりしてよ!
死なないで。教えてよ。
あなたが、何のために戦ったか……。
[ライネ・レードルンド]
父さんだったら
『レードルンドの名を継ぐものは、たとえ手足が千切れても、獅子の如く戦え』
って、言うと思うよ。
[レイマ・レードルンド]
そうだな。
それで、お前の答えは。
[ライネ・レードルンド]
地を踏みしめ、壁を蹴り上がり、空へ飛び上がろうとする。
手が届かなくても、転がり落ちても、諦めを知ったとしても、
人に翼はないから。
<完>
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