第715話

 海底城の秘宝を手に入れたロイドやソフィと合流してから数時間後、俺達は大通り沿いにある高級感満載な飲食店にやって来ていた。


「それではロイドさんとソフィさんの優勝を祝して……かんぱーい!」


「「「かんぱーい。」」」


 マホの掛け声を合図にグラスを軽く掲げた俺は、中に入っている冷たいジュースを一気に飲み干していった。


「……ふぅ、ようやく一息つけたなぁ。」


「えぇ、ここに来るまで色々と大変でしたからね。ロイドさんとソフィさんが大勢の人達に囲われてお祝いをされていたので、近づく事すら出来ませんでしたもん。」


「ふふっ、嬉しいけれど少しだけ困ってしまったよ。」


「……疲れた……」


「おいおい、頼むからここでは寝ないでくれよ。って言うか、本当に良かったのか?お前達の優勝を祝う食事会なんだから、ここは俺が奢ったって構わないんだぞ。」


「大丈夫だよ。九条さんだって、もし優勝する事が出来たら手に入れた賞金でご飯を奢ってくれただろう?だから気にしないで欲しいな。」


「……そう言ってくれるんならお言葉に甘えさせてもらうけどな。ただ俺が優勝って言うのは流石に無理がありすぎる話じゃないか?現実はこうして負けてる訳だし。」


「いやいや、九条さんにだって勝機はあったよ。実際、私達も戦っていた時に何度か敗北を覚悟した場面があったからね。」


「またまた、ご冗談を……」


「冗談なんかじゃないよ。もし仮に九条さんのライフが後1つでも残っていたら……その時は本当にどうなっていたか分からないね。」


「うん、ギリギリだった。」


「あー!だとしたら負けてしまった原因は私ですね……後ろか不意を突かれなければライフを護れたのに……おじさん、すみませんでした。」


「いや、お前が謝る事じゃないって。それも含めての勝負だったんだから、やっぱり負けたのは俺の実力不足のせいだよ。本当、若い奴らの成長ってのは恐ろしいわ。」


「九条さん、リベンジ待ってる。」


「……ソフィ、そんな風に期待をされても困るんだが……」


「ふふっ、九条さん。ソフィだけじゃなくて私も楽しみにしているよ。本気になった貴方と戦うのがあんなにも心躍るものだなんて初めて知ったからね。」


「いや、マジで勘弁してくれ……お前達と本気でやり合うなんて寿命が幾つあっても足りやしないっての……」


 頭で考えるよりも先に体を動かしていかないと一方的に負けるだけの試合なんて、今後一切やりたくないわ……経験値10倍の効果が無かったら手も足も出ずに負けが決定付けられている様なもんだからな。


「えへへ、私としてはおじさんが2人に勝っちゃう姿も見たいんですけどね。」


「おやおや、何とも羨ましい台詞だね。九条さん、どうするんだい?」


「マホの期待、裏切るの?」


「う、裏切るっておまっ!人聞きの悪い事を……うぐっ……」


「「「……………」」」


 俺の扱いを非常によく分かっている3人娘達は真っすぐこっちを見つめてきて……それからしばらくした後、俺はガックシと肩を落としてうなだれると……


「はぁ……分かった、機会がありゃ再戦を申し込ませてもらう……これで良いか?」


「えへへ、やりましたね!」


「あぁ、これは私達も鍛え直しかな。」


「うん、次も負けない為に。」


「ったく……どうしてこんな事に……あぁもう!こうなったらやけ食いだ!お前達が貰った賞金をすっからかんにするまで食いまくってやるから覚悟しやがれ!」


 そんな情けない台詞を吐きながらメニュー表を手に取った俺は、勢いのまま大量の料理やデザートを注文して激しい後悔に襲われる事になるのだった。

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