第707話

「それでは2人共、私達は城の頂上で待っているから遅れない様に頼んだよ。」


「頑張ってね。」


「はい!きっと辿り着いてみせますから待っていて下さいね!」


「まぁ、こっちが先に到着しちまう可能性もあるけどな。とりあえず、また後で。」


「うん、また後で。」


 イベントの入場口が出現した事を知らせるアナウンスが園内に流れてからしばらく経った後、城の東側に向かったロイドとソフィを見送った俺達は自分達が持っている鍵と同じ白色の物体の前までやって来ていたんだが……


「……おじさん、コレって一体何だと思いますか?」


「……多分だけど、エレベーター……なんじゃないのか?コレがどうして城を囲っている堀の中から出て来たのかは全くもって謎としか言い様が無いだけど……ってか、何だか少しずつ周囲に人が集まってきたな。」


「えぇ、きっとイベントが始まるのを心待ちにしている人達でしょうね……うぅ……緊張してきました……!」


「おいおい、あんまり気張り過ぎるなよ。」


「は、はい……!」


 ガヤガヤとしてきた周囲の雰囲気に飲まれてきたマホの頭に手を乗せて軽く叩いていると、すぐ近くにあったスピーカーから小さなノイズ音が聞こえてきた。


『皆様!大変長らくお待たせ致しました!只今より、海底城の攻略が開始されます!頂上にあるお宝を手にするのは一体誰なのか!どうぞお楽しみに!』


「……海底城?」


「えっと、目の前にあるのはどう見ても普通のお城……ですよね?もしかして、そういう設定で始めるって事なんでしょうか?」


「まぁ、そうだろうな……」


『さぁ、それではお目を離さずにご覧下さい!海底城の登場です!!』


「「え、え、ええええええええええええええっ!?!??!!!!!」」


 テーラー・パークの大音声がスピーカーから響き渡ったその直後、堀の中から急に大量の水が沸き上がってきて目の前にあるバカでかい城を覆い始めたぁ!?


「な、な、なんっ!?何が起きてるんですかぁ!?」


「お、俺に聞かれても分かる訳がないだろ?!」


 あまりにも現実離れした光景を目の当たりにしてマホと一緒に驚き戸惑っていると今度は周囲から歓声が聞こえてきて……そして気付いた時には、何の変哲もなかった城は完全に水の中に包み込まれてしまっていた。


『それでは参加者の皆様!ご自身の持っている鍵を使用して海底城の入口へとお進み下さい!』


「……頭を真っ白にしている暇もねぇのかよ……って言うか、どんな超技術があればこんな芸当が出来るんだ?」


「……考えるだけ無駄ですよ……それより私達も中に入るとしましょう。お隣に居た参加者の方はもう行っちゃったみたいですよ。」


「……そうだな。とりあえず行くとするか……」


 イベントが始まる前からゴッソリ体力を奪われた気がしながらエレベーターの中に足を踏み入れた俺達は、大勢の人達に見送られながら堀の下に沈んでいくのだった。

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