第696話

 昼休憩を挟みつつ馬車に揺られながら順調に街道を進んで来た俺達は、久しぶりに足を踏み入れたミューズの街並みを見渡していた。


「いやはや、こりゃまた凄い賑わい方だな。」


「えぇ、ちょっと圧倒されちゃいますね。」


「ふふっ、それだけテーマパークが大盛況という証拠なんだろう。さてと、それでは早速だけど宿屋に行くとしようか。」


「うん、早くゆっくりしたい。」


「皆様、長旅お疲れ様でございました。また後日、よろしくお願い致します。」


「はい、ここまでありがとうございました。それでは失礼します。」


 御者さんに別れを告げてから自分達の荷物を担いで大通りの方に向かってみると、そこには想像していたよりも大勢の人達が楽しそうにしている姿があった。


「おぉ、コレは……」


「思わずため息が零れてしまう程の人通りだね。」


「だな……おいマホ、下手したらはぐれちまう可能性があるから」


「はい!シッカリとおじさんの手を握って離れない様にしますね!」


「…まぁ、お前がそれで良いなら別に構わないんだけどさ。」


 恥ずかしがる事すら体力を使いそうだと思ってなるべく平静を保ちつつそう言った俺は、ニヤニヤとしているロイドと視線を合わせない様に歩き始めた。


「うーん、それにしても本当に凄い人の数ですよね。」


「あぁ、どうやら家族連れが多いみたいだが……やっぱり涼しさを求めてやって来た人達ばっかりなんだろうな。」


「ふふっ、涼しさを求めるのならクアウォートに行くのも有りだけれどこっちの方が王都から近いからね。その影響もあるんじゃないかな?」


「なるほど、確かにミューズなら半日で辿り着けるからな。別荘を持ってる貴族でもなければこっちに遊びに来る確率の方が高いか。」


「えぇ、それに今回は雑誌で特集されるぐらい気合の入ったイベントが開催される訳ですからね。それを楽しみにして訪れている人達も居るんじゃないですか?」


「あー……その可能性もあるのか……」


「だとしたら、その人達の期待に応えられる様に頑張らないとね。」


「情けない戦いは見せられない。」


「うへぇ、やる気が凄いな……」


「んもう、おじさんだってやる気を出して下さいよ!イベントの詳細についてはまだ分かりませんけど、もしかすると凄い商品が出るかもしれないですから!」


「へいへい……っと、そろそろ宿屋が見えてくる頃じゃないか?」


「うん、この通りを曲がった先に……あった、アレじゃないかな。」


「……おいおい、マジかよ……」


 思わず驚きの声を上げながら立ち止まってしまった俺の目線の先にあったのは……以前にも利用した高級ホテルの様な宿屋が2つ並び立っている光景で……えぇ……?

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