第693話

「んー……水着かぁ……テーマパークの何処で使う時があるんだ?」


 王都に到着した次の日、案内状に水着を持参して下さいと書いてあったので俺達は王都の大通り沿いにある2階建ての立派な外観の服屋にやって来ていた。


「えへへ、それは行ってみれば分かりますよ!」


「ふーん、そう言えばお前達は1つ前の夏頃にロイドのファンの子達と行ってきたんだったよな。俺達が行った冬の時期と比べてそんなに変わるもんなのか?」


「うん、本当に同じ場所なのかと疑わしく思ってしまうぐらいにはね。」


「へぇ、そりゃまた凄そうだな。」


「えぇ、きっとビックリしちゃいますよ!っと、それではおじさん。私達は上の階に行ってきますのでシッカリと水着を選んでおいて下さいね。」


「はいはい。ってか、頼むからあんまり待たせないでくれよ?」


「了解、なるべく早く戻る様にする。」


「ふふっ、どんな水着を選んだのかは後でのお楽しみだけどね。」


「……そう言うのは良いから、さっさと行ってこい。」


 からかう様に微笑みかけてきたロイドをシッシと手で追い払う仕草をした後、皆が1階奥にあるバカでかい階段を上がって行くのを見送った俺は1人寂しく男性用水着コーナーへと足を運んでみるのだった。


「さてと……うん、これで良いかな。」


 シンプルな黒地に2本の白線が入ったトランクスタイプの水着を手に取った俺は、近くにあるソファーに腰を下ろしてガックシとうなだれるのだった。


「はぁ……そりゃそうなるわな……」


 ぶっちゃけた話、以前買った水着でも良かったと思うんだがどうせならって説得をされてわざわざ来てはみたけどさぁ……


「お洒落とかよく分かんねぇし……派手なのは絶対に着たくないし……目立たなきゃ何でも良いって思考になるに決まってるじゃないですか……」


 あーヤベ……やる事なさすぎて独り言が増えちゃうわぁ……あいつ等が戻って来るまで勝手に外をブラつくって訳にもいかないから……どうしたもんか……


「お客様、どうかなさいましたか?」


「え?あぁいや、別に……」


 おっとっと、店員さんに声を掛けられちまった……もしかして不審者だと思われちまったのか?……まさかな。


「もしかしてお連れ様をお待ちになっていらっしゃるのですか?」


「あ、あはは……まぁ、そんな感じですね。」


「なるほど、もしかしてミューズの街へご旅行ですか。」


「えぇ、分かるんですか?」


「はい、この時期にウチで水着をご購入頂くお客様はミューズの街へ行くという方が多いですから。」


「へぇ、そうなんですね。やっぱりテーマパークで使う人が買っていくんですか?」


「はい、この時期だと必須の物となりますからね。あぁそうだ、他にも日除けに使用出来る薄手の羽織る物もございますがいかがでしょうか?水に濡れてもすぐ乾きますのでとても使い勝手がよろしいですよ。」


「あーそれじゃあ、ちょっとだけ見せてもらっても良いですか?」


「かしこまりました。それではこちらへどうぞ。」


 その後、店員さんに勧められるがまま淡い水色のパーカーやら帽子やらを買う事になってしまった俺はしばらくしてから合流した皆と店を後にするのだった。

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