第692話
太陽が傾き始めて過ごしやすい時間帯になった頃に王都へ到着した俺達は、久々に目の当たりにした王都特有の圧倒されてしまう街並みを眺めながら伸びをしていた。
「ん~!やっぱり馬車での長距離移動は体が固まっちまうなぁ……」
「えぇ、ですが普通の馬車と比べるとそこまで疲れはしませんでしたね。」
「あぁ、利用料金が高いだけの事はあった訳だ。さてと、それじゃあさっさと宿屋に行くとするか。」
「うん、その後は晩御飯だね。」
「おなかすいた。」
「ははっ、それは俺もだよっと……アレ?何だか大通りの方が活気付いてないか?」
「そうですねぇ……一体どうしたんでしょうか。」
「おや、皆さんはご存じありませんでしたか?」
「え?」
不意に声を掛けられた方に振り向いてみると、そこには馬車の手綱を握り締めてる御者さんが運転席に座って俺達の事を見下ろしていた。
「恐らく夏の終わり頃にはなると思いますが、王都でお祭りが開催されるんですよ。確かリエンダルという国が築かれてから300年目のお祝いだとか。」
「へぇーそうなんですか……そりゃまた盛大なお祭りになりそうですね。」
「はい。何でも各地から大勢の貴族様やお偉方をお招きするみたいですよ。皆さんもよろしければご参加してみて下さい。」
「えぇ、分かりました。もしその時が来たら、また運転をお願いするかもしれませんのでお願いしますね。」
「ははっ、お待ちしております。それでは私はこれで。」
日除けの帽子を少しだけ持ち上げて小さくお辞儀をしてくれた御者さんの運転する馬車が走り去るのを見送った後、俺達は荷物を持って大通りの方に向かって行った。
「ふーん、まだまだ先のイベントだってのに今から宣伝が始まってるみたいだな。」
「それだけ気合が入ってるお祭りって事なんでしょうね。そう言えば、さっきのお話では貴族の方が招待されるという事でしたがロイドさんは知ってたんですか?」
「いや、初めて聞いた情報だったよ。もしかしたら父さんが招待されている可能性もあるけれど、しばらく実家に戻っていないからね。トリアルに帰ったら聞いてみるとするよ。」
「あぁ、たまには顔を出してやれ。」
「ふふっ、そうだね。ミューズで買ったお土産でも持って会いに行ってみようかな。勿論、皆も一緒にね。」
「はい!……えへへ、それにしても楽しみが増えましたね!」
「うん、ワクワクする。」
「おいおい、気が早いっての……っ……」
「おじさん?えっ、ちょっと大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……悪い、ちょっと腹が減りすぎて立ち眩みしちまったみたいだ。」
「……本当ですか?嘘じゃないですよね?」
「本当だって、信用ねぇな。」
「まぁ、九条さんはこういう時に正直な事を言った回数が少ないからね……それで?本当の所はどうなんだい?体調が悪いという訳ではないんだね?」
「おう、飯さえ食えばすぐにでも元気になるよ。」
「それなら早く宿屋に向かおう。それとも今からご飯を食べに行く?」
「いや、先に宿屋だ。こんなに重い荷物を担いでウロウロしたくないからな。ほら、行くとするぞ。」
「は、はい!」
視界が一瞬だけグラつく感覚に襲われた俺は、皆に心配を掛けない様に普段通りの感じで足を動かし始めるのだった。
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