第688話

 先輩冒険者として指導が終わってから数日後、俺達とオレットさんは後輩冒険者の旅立ちを見送る為に朝焼けに照らされたトリアルの大広場に集まっていた。


「九条さん、ロイドさん、ソフィさん、マホさん。今日までお世話になりました。」


「いえいえ、どういたしまして!」


「……一応、礼は言っておこう。」


「もう、クリフ君ってばこんな時ぐらい素直になれば良いのに。」


「ふふっ、構わないさ。」


「うん、これもクリフらしさ。」


「あぁ、コイツは小生意気ぐらいが丁度良いってもんだ。」


「ふんっ、やかましい……だが、そうだな。3人共、感謝している。貴様達に教えて貰った事を大切にしながら、俺は大陸中を旅してくるつもりだ。」


「……おう。」


 エルアとクリフから送られた感謝の言葉を聞いて心の内に温かさを感じていると、オレットさんがハンカチを取り出してわざとらしく泣き真似を始めた。


「およよよよ……それにしてもついにこの日が来ちゃったんだね……エルアちゃんとクリフ君も立派になって……私、とっても嬉しいよ……!」


「はぁ……貴様は我らの母親か……」


「ははっ、オレットだって初めての仕事をやり遂げたんだろう?そっちだって立派になったじゃないか。」


「あはっ、それ程でも……あるけどね!でも、まだまだこれからだよ!何時かは旅をしている2人にも届いちゃうくらい凄い記事を書いてみせるからね!だから楽しみに待っててよ!」


「ふんっ、その前に次の春が訪れてしまうかもしれないが……分かった、貴様の書く記事を読める日がくるのを心待ちにしていよう。」


「頑張ってね、オレット。まぁ、別に大陸の外に行く訳じゃないから読む機会自体はありそうだけどね。」


「それは言わないお約束って事で!よしっ、それじゃあ2人の旅立ちを記録する為に記念写真でも撮ろうか!」


「……集合写真?」


「うん!皆、お忘れかな?ここに超一流……になる予定の記者が居る事を!さぁさぁ全員こっちに並んで並んで!ほらほらほらほら!」


「おっとっとっと!」


「おやおや、コレは断る訳にはいかないね。」


「えへへ、最初からそんなつもりはありませんよ!」


「うん、エルアとクリフもこっちに。」


「……し、仕方あるまい。だがオレット、記念撮影だと言うのなら貴様も写真の中に入るべきではないのか?」


「えっ?」


「うん、そうだね。私達は皆で頑張ってきたんだから、オレットも一緒にだよ。」


「えっ、いやでも……そうしたら撮影する人が……」


「御者にでも頼めば良いだろう。あっちで暇そうにしているぞ。」


「こらクリフ、そういう事を言うのは失礼だよ。でもまぁ……確かに御者さんに頼むのは有りじゃないか。それともオレットは、私達と一緒に写真を撮りたくない?」


「~っ!そんな事ない!ちょ、ちょっと待っててね!すぐにお願いしてくるから!」


 とびっきりの満面の笑みを浮かべながらオレットさんが御者さんの方へ駆け寄ってからしばらくした後、広場のど真ん中に俺達は集められた。


「えっとですね、ここの覗きながらここにあるボタンを押せば写真を撮れますかのでよろしくお願いしますね!」


「かしこまりました……それでは皆さん、準備の程はよろしいでしょうか?」


「はーい!大丈夫でーす!皆さん、笑顔を忘れないで下さいね!特にクリフ君!」


「……分かっている。」


「えへへ~それじゃあお願いしまーす!」


「はい。いきますよ~……せーの!」


 御者さんの掛け声を合図にそれぞれがポーズを決めた後、御者さんにお礼を言っていると出発時間になった事を知らせるベルの音が広場に鳴り響いた。


「それでは皆さん、馬車に乗り遅れない様にお願い致しますね。」


「はい!どうもありがとうございました!……いよいよなんだね。」


「あぁ、しばらく会う機会は無いだろうな。」


「うん、今度は何時会えるか分からないけど……オレット、皆さん、お元気で。」


「おう、そっちも達者でな。」


「ふふっ、トリアルに来たら顔を出してね。歓迎するからさ。」


「どれだけ強くなったか確かめる為に手合わせをしてあげる。」


「えへへ、エルアさん!クリフさん!頑張って来て下さいね!」


「えぇ、それでは失礼します。」


「またな。」


 その後、2人が乗った馬車が見えなくなるまでその場に留まってた俺達は静けさを取り戻した広場で互いに顔を見合わせた。


「さてと、それじゃあ俺達も帰るとするか。」


「うん、そうだね。オレットはこれからどうするんだい?もし良かったらウチで朝食でもどうだい?」


「えっ!良いんですか!?」


「勿論ですよ!遠慮なくどうぞ!」


「あはっ!それじゃあお言葉に甘えさせてもらいますね!」


「うん、いらっしゃい。」


 太陽が昇り始めて少しずつ人々が動き始めたのが見える大通りを歩いて我が家へと帰って行った俺達は、2人の旅路が良いものになる様に心から祈るのだった。

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