第687話

「それじゃあエルアちゃんとクリフ君の指導が無事終わった事、そして私の初仕事が何とか仕上がった事をお祝いして……かんぱーい!」


「「「「「「かんぱーい!」」」」」」


 オレットさんの掛け声を合図にしてグラスの中に入ってる飲み物に口を付けた後、俺達は3人をお祝いする為に用意をしたそれなりに豪勢な料理に手を伸ばし始めた。


「うーん!どのお料理も凄く美味しいです!コレって全部皆さんの手作りですか?」


「あぁ、食材だけはロイドに用意して貰ったんだけどな。」


「ふふっ、実家から幾つか分けて貰ってきただけだよ。」


「……つまり、これらの料理に使われている食材は……」


「か、かなりの高級食材って事だね……あはは……僕達が食べて良いのかな……?」


「勿論、良いに決まっているだろ?皆に食べて貰う為に用意したんだからね。」


「えへへ、ご遠慮なさらずにどうぞ!」


「はい!それではお言葉に甘えて遠慮なく!……ん~うま~い!!ほらほら2人共!食べないんなら私が全部頂いちゃうよ?」


「ふんっ、そんな事をさせる訳がないだろうが!」


「あぁ、折角皆さんが僕達の為に作ってくれた料理だ。オレットにだけ食べさせる訳にはいかないよ!」


「こらこら、行儀が悪いから争うんじゃないっての。」


 若さゆえの勢いみたいなものを感じさせる勢いでガツガツと俺達が用意した料理を食い進めていく3人を呆れながら見つめていた俺は、静かにため息を零していた。


「……そう言えば、2人は武器が仕上がったらどうするつもりなんだい?しばらくはこの街に滞在しているのかな?」


 他愛もない雑談と思い出話で盛り上がりながら料理が半分以上無くなってきた頃、ロイドにそう聞かれたエルアとクリフは互いの顔を見合わせてから持っていた食器をテーブルの上にそっと置いた。


「いえ……非常に名残惜しいですが、お願いしている盾の強化が終わったら僕は街を離れようかと思っています。」


「我も同じだな。指導を受ける過程で本格的に旅を始められるだけの金を貯める事が出来たから、トリアルを離れるつもりだ。」


「あ~やっぱりそうなんだぁ~……ねぇねぇ、私の為にもう少しだけこの街に残ってくれないかなぁ?2人に会えなくなったら寂しくなっちゃうよ~」


「ごめんねオレット。僕達も寂しいけれど、やっぱりコレは決めていた事だから。」


「ふんっ、より大きな力を手に入れる為には世界を巡る旅は避けては通れない道だ。貴様も一人前の記者になるんだろう。それならその想いも記事にすれば良い。何時か誰かの役に立つ時がくるかもしれないからな。」


「うぅ~……」


「何を泣きそうになっているんだ。別にもう二度と会えなくなる訳ではないだろ。」


「そうだね。別にそこまで遠くに行く訳じゃないんだ。それに王都にだって戻る事もあるだろうから、その時はまた一緒に遊びにでも行こうよ。ね?」


「……うわぁ~ん!」


「うおっ!?お、おい!いきなり抱き着いて来るんじゃない!」


「絶対!絶対だよ!王都に戻って来たら絶対に連絡をしてよね!約束だよ!」


「わ、分かった!分かったから!」


「全くもう、仕方ないなぁ。」


「……ふふっ、何とも微笑ましい光景だね。」


「うん……私達もする?」


「いや、やらんわ……」


「えへへ、恥ずかしがらなくても良いんですよ?」


「アホか、変な事を言ってないで……しばらく3人だけの世界に浸らせてやれ。」


 若干顔を赤くしているクリフと少しだけ困り顔とエルア、そして涙目になりながら2人を力強く抱きしめているオレットさんを俺達は静かに見守り続けるのだった。

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