第663話
ノルウィンドで過ごす最後の3日間をそれなりに充実させて無事に帰宅日を迎えた俺達は、これまで世話になってきた宿屋に別れを告げると昇り始めたばかりの朝日に照らされながら王都行きの馬車が集まっている広場へとやって来ていた。
「……何と言うか、ようやくこの街にも春が訪れたんだなって感じの気温だな。」
「えぇ、いよいよ本格的に暖かい季節がやってきますね。」
「ふふっ、これで九条さんも出掛ける回数が増えてくれるのかな?」
「いやぁ……それはどうだろうなぁ……」
「九条さん、一緒にクエストに行こう。」
「……まぁ、気が向いたらな。」
強敵とも言えるモンスターと何度も戦いまくったってのにまだ満足してないらしいソフィからそっと視線を逸らして苦笑いを浮かべていると、近くにある売店に昼飯を買いに行っていたレミとユキが戻って来る姿を発見した。
「はっはっは、待たせてすまんかったのう。どれも美味しそうで何を買えば良いのか迷ってしまったわ!」
「あーなるほどねぇ……で、迷った挙句どれもこれも買ってきたと?」
「うむ!またこの街に来れるのが何時になるか分からんからな!後悔しない為にも、目についた物は手に入れてきたぞ!」
「……はぁ……ユキ、何とかコイツを止められなかったのか?」
「ごめんなさい……店内にも関わらず大声で駄々をこねられてつい……」
「……そうか……」
「ま、まぁまぁ!見た所、何とか今日中に食べきれそうな量ですから!食べなかった分は晩御飯にしましょうよ!ね?それと御者さんにも分けてあげませんか?」
「あぁ、それは良いね。きっと喜ばれると思うよ。」
「……そうだな。弁当なんて日持ちするもんじゃねぇもんな。」
「えーわしとしては余った分も美味しく頂きたかったんじゃがのう……」
「レミ、それは流石に食べ過ぎよ。今回は皆の言う通りにしなさい。良いわね?」
「むぅ……仕方ないのう……っと、そうじゃ九条よ。ちょっと聞きたい事があるのでこっちに来てくれるか?お主達はそこでしばし待っといてくれ。」
「は、はぁ……私達は良いんですか?」
「うむ、それでは失礼するぞ。」
突然された提案の意図が分からずに困惑してるっぽいマホ達を他所に腕を引かれてその場から離れた俺は、思い当たる節が無い訳ではないのでレミに声を掛けた。
「なぁ、もしかして俺に聞きたい事ってのは……」
「そうじゃ。数日前に教えた例の件についてじゃ。アレから何か変化はあったか?」
「いや、特には何も……つーか、基本的にお前達と一緒に行動してるんだから、俺に何かあればすぐに気付くんじゃないのか?」
「……確かにそうかもしれん。じゃが、そうだとも言い切れん。今回の事はわしにも初めての経験じゃ。用心しすぎるに越した事はあるまい。」
「……そうか、心配してくれてありがとうな。だけど、大丈夫だ。気になる様な事は何も起きてないし、それにお前達が加護を授けてくれた特製のネックレスもこうして首に掛かってるからな。」
「……分かった。すまんな、先程まで寄っていた店の中でその話になってな。ユキも心配しておったから確かめさせてもらったんじゃ。」
「そうだったのか……わざわざ悪いな。」
「いやなに、気にするでない。お主はわしやユキにとって大切な信者じゃからな。」
「……うん、その一言は余計だったかなぁ……」
嬉しい様な嬉しくない様な気持ちにさせられながら皆の所に戻ってその直後、出発時間を知らせる合図が広場に鳴り響いたので俺達は自分達の荷物を持って馬車に乗り込んでいった。
そして暖かい春の風が窓から吹き込んでくるのを肌で感じながら、ノルウィンドをゆっくりと離れて行くのだった。
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