第21章 未来への希望、不安の前兆

第664話

 大陸中を白銀の世界へと変えた冬が終わり心地よい春風と共に季節が移り替わってから数週間後、素材集めの報酬として軽くて座り心地抜群のレジャーシートを貰った俺達は討伐クエストついでに景色の良い小高い丘に来てピクニックを楽しんでいた。


「えへへ、こうして天気の良い青空の下で食べる弁当は格別ですね!」


「あぁ、たまにはこういうのも悪くはねぇな。」


「ふふっ、そうだね。っと、そうだ九条さん。気付いているかい?ここ最近になって街に若い冒険者が増えてきた事に。」


「……まぁ、そりゃあな。今日だって、斡旋所に冒険者になりたてホヤホヤみたいな奴らがいっぱい居たし……ロイド、どうしてだか理由を知ってるのか?」


「うん、恐らくだけど彼らは王立学園の卒業生達だと思うよ。」


「卒業生?……あーそう言えばもうそんな時期か……なるほど、だからレベル上げの為にザコモンスターばっかりが出現するトリアルに集まって来ていると……こりゃ、しばらくクエストはお預けになるのかねぇ……」


「多分ね。先輩冒険者として後輩冒険者が成長する機会を奪ってしまうという訳にはいかないからさ。」


「……世の中の厳しさを教えてあげるの先輩冒険者の務めだと思う。」


「止めなさいっての。そんな事したら心が折れちゃう奴が出て来ちゃうかもしれないでしょうが。」


「おぉー!ご主人様が若い人に気を遣っています……これは驚きですね!」


「……どういう意味だ?」


「そのままの意味ですよっ!これまでのご主人様でしたら、若い人達を目の敵にしてそんなの気にしないぜって感じだったじゃないですか!それなのに……私は……私はご主人様の成長が嬉しいですよ!おめでとうございます!」


「……それは褒めてるのか?それともバカにしているのか?」


 わざとらしく瞳をウルウルとさせながら拍手をしているマホにジトッとした目線を送っていると、何故だか今度はロイドから微笑みを向けられた……


「ふふっ、良かったね九条さん。一体どういう心境の変化なのかな?」


「……別に心境に変化なんかねぇよ。ただまぁ、理由を上げるんだとしたらお前達と一緒に冒険をする様になって心に余裕が出来た……とか、そんな感じじゃねぇのか。知らんけど。」


「おやおや、嬉しい事を言ってくれるね九条さん。」


「ちょっ、すり寄って来るんじゃねぇよ!ソフィも無言で近寄って来るんじゃない!ほ、ほら!さっさと弁当を食って街に戻るぞっ!クエストはもう片付けたんだから、俺はもう家に帰って休みたいんだ!」


「えへへ、はいはい分かりましたよ。ご主人様ってば、そういう恥ずかしがりやな所だけは何時まで経っても変わらないですよね。」


「うん、少しはこういう事にも慣れてきて欲しいんだけどね。」


「九条さんは照れ屋。」


「や、やかましいわ!ったくよぉ……」


 自分でもそう思わなくはない所を責められてしまい思わずそっぽを向いてしまった俺は、その後もからかってくる3人を適当にあしらいながら弁当を食べ進めていくのだった。

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