第662話

「ユキさん、レミさん、行ってらっしゃい。」


「えぇ、お昼前には戻れると思うからアンタ達の方も頼んだわね。」


「分かってるよ、そっちもシッカリとな。」


 昨夜あった事を気付かれない様に神様としての役目を果たして来るフリをしている2人と大通りで別れた俺達は、御者さんが待機をしてくれている宿屋に向かいながら様々な店を巡り歩いていた。


「うーん、こうして見ると色々とあって悩んでしまいますね。」


「あぁ、幸いな事にクエストをやりまくったおかげで金だけはあるからそこの心配はしなくても良いんだが……やっぱり無難な所で食べ物系を買ってくか?」


「そうだね。ただ日持ちも考えないといけないから、お土産を購入するのはこの街を離れる前日で良いんじゃないかな。」


「あーそれもそうか。ノルウィンドで売ってる物ってどれもこれも美味しいんだが、そこまで日数が持たないのが厳しいんだよなぁ……トリアルに戻ってすぐにお土産を渡せれば良いんだがそれも難しいだろうし……」


「皆さんお忙しい方達ばかりですもんね。実際にお手に渡るのは何時頃になるのかが分かりません。」


「ふむ、父さんに頼んで都合を付けてもらう事は出来るだろうが……相手方の予定を考えるとやはり何日かは待たないといけない可能性があるね。」


「はぁ……となると、ここは日持ちとか関係ない小物系が良いのか?」


「いや、どうですかねぇ……そういうのは貰って嬉しい場合もありますけど、困ってしまう方が多いんじゃないですか?」


「……リリアはロイドから貰える物なら何でも喜びそう。」


「ふふっ、例えそうだとしてもあまり困らせたくはないかな。感謝の気持ちを込めて贈る物のならきちんと喜んでもらいたいからね。」


「あぁ、今回の旅行はリリアさんが準備してくれたからこんな豪勢なものになったんだからな。お礼も兼ねてそれなりに値段のする物を買うつもりではあるが……本物のお嬢様に気に入って貰えるかって部分がなぁ……」


「そこはロイドにお願いするしかない。」


「ですね……ロイドさんから直接リリアさんにお土産を手渡してもらえれば、きっと大丈夫だと思います!」


「おやおや、それは責任重大だね。」


 ……そんな他愛もない雑談をしながら御者さんの元を訪れてトリアルに戻りたいと告げた俺達は、準備に3日程掛かると聞かされてからその場を後にした。


「3日か……体感的に長い様で短いんだよなぁ……」


「ふふっ、どうやって時間を潰そうか?」


「クエスト、行く?」


「いや、行く訳ないだろ……今日までどんだけ働いて来たと思ってるんだよ。馬車の出発日を迎えるまではのんびりとする。俺はそう決めた。」


「……そう……」


「……ねぇ、分かりやすくションボリするの止めてくれます?俺の心に罪悪感というトゲがチクチクと突き刺さってくるんですけど……」


「えへへ、それならおじさんが諦めるしかありませんね。」


「……ったく、明日1日だけだぞ。それ以降は街から出ないからな。」


「……うん。」


 嬉しそうに返事をしてきたソフィに呆れながら自分の甘さに対してため息を零した俺は、そのまま皆と一緒に街をブラブラとして昼前まで過ごしていくのだった。

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