第620話

「さぁご主人様!明日を素敵な1日にする為の予定を一緒に考えますよ!」


「えぇ~……なぁ、本当にそこまでする必要あんのか?変に気張ったりしなくても、これまで通りで良いんじゃないのか?」


「もう!何を甘い事を言ってるんですかご主人様!帰り際に見たイリスさんの表情、忘れてしまったんですか!?」


「い、いや……覚えてるけどさぁ……」


「それなら気合を入れ直してください!ほらほら、背筋を伸ばして!」


「はぁ……どうしてこんな事に……」


 セトグリア家を後にしてから何故だかやる気になっている3人に取り囲われながらソファーに腰を下ろしていた俺は、背もたれに体を預けて天井を見上げていった。


「ふふっ、そうは言っても九条さんだってイリスをガッカリさせたくはないだろう?まぁ、もし違うのなら別に良いんだけど。」


「……ロイド、俺の扱い方が本当に上手くなってきたな……」


「うん、長い付き合いだからね。それでどうするんだい。」


「……分かったよ。皆、明日の予定を一緒に考えてくれるか?」


「えへへ~お任せ下さい!」


「あぁ、きっと最高の一日にしてみせるよ。」


「……頑張る。」


 俺の為……って言うよりもイリスの為に頼みを聞いてくれた皆と顔を合わせた俺は両膝をパシッと叩くと背筋を伸ばして短く息を吐き出した。


「それで?まずは何から決めりゃ良いんだよ?お前達も知ってるとは思うけど、俺はこういう事に関しては何の情報も持ち合わせてないぞ。」


「えぇ、そんな事は言われずとも分かっています!そもそも、最初からご主人様には期待なんてしていませんから!」


「……ねぇ、そこまでハッキリ言わなくても良くないかな?もう少しぐらいは言葉を選んでくれても罰は当たらないと思うよ?つーか、マジで俺の心が砕け散るぞ?」


「はいはい、そんなのはどうでも良いですから……えっと、まずは朝食をどのお店で食べるかを考えましょうか。私的には朝日の差し込む爽やかな雰囲気のある様な所が良いと思うんですけど!」


「あぁ、それなら……九条さん、地図を出してくれるかい。」


「へ~い……」


 ロイドの指示に従って腰にぶら下げたままだったポーチから地図を取り出した後、俺達は飯を食べる所やカップルしか立ち寄らなさそうな店なんかを選んで予定に組み込んでいき……


「よしっ、とりあえずはこんな所かな。」


「えぇ、これならきっとイリスさんも喜んでくれるはずです!ただその……えっと、ご主人様……明日はその……ちゃんと私達の所に帰って来てくれますよね?」


「ったく、変な心配をしてんじゃねぇよアホ。さっきも言ったが俺の性格なら何にも起こらないって分かってんだろ?」


「……ですよね!ご主人様はいざという時にヘタレてしまう方ですもんね!」


「……だからさ、もうちょっと言葉を選んでくれないかな?本当に泣くぞ?俺……」


「えへへ、これでもう安心ですね!後はご主人様がこの予定をイリスさんと楽しんでくれば良いだけです!」


「ふふっ、明日はイリスによろしくね。」


「良い一日を。」


「はいよ。お前達に協力してもらった事を無駄にしない様に精々頑張るとするさ。」


 どんな風に展開するかが分からないイベントを控えた俺は、妙に落ち着かない心を鎮めようとしながら小さな笑みを浮かべるのだった。

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