第621話
翌朝、これまでとは違って皆に見送られる形で宿屋を出発した俺は貧弱な見た目になってしまった財布を銀行で復活させてから待ち合わせ場所に向かっていた。
「……あぁもう、いい歳して何を緊張してんだよ俺は……」
デートプラン……じゃなくて今日の予定が書かれた紙を握り締めているせいなのか変にソワソワとしている自分自身に対してため息を零した俺は、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けてから王都の南側にある広場へと足を踏み入れた。
そしてイリスが待ってくれているであろう方向に視線を向けてみると……そこには広場に集まった男女問わず大勢の人達から注目を集めている美少女の姿が……って!冷静になるんだ俺!ここで動揺を見せたら何かもう、色々と終わっちまうぞ!
「すぅ……はぁ……よしっ、行くか……!」
少しでも気を抜けば後戻りできない道に行ってしまいそうになる予感がしたので、両頬を軽く叩いて改めて気合を入れなおした俺はニコっと笑顔を作りながらイリスの方に歩いて行った。
「あっ、おはようございます九条さん。」
「おはよう、イリス。もしかして待たせちまったか?」
「いえ、僕もついさっき来た所ですから大丈夫ですよ。それよりも九条さん、今日は髪型をセットしてきているんですね。」
「あ、あぁ……今朝、マホ達に無理やりな……やっぱり変だよな?」
「うふふ、そんな事はありません。何時も素敵ですが、今日は一段と格好良くなっていますよ。」
「そ、そうか?なら良かった………えっと……そう言うお前も何て言うか……あの、綺麗……だな。」
「っ!……ありがとうございます。九条さんにそう言って頂けると嬉しいです。」
「お、おう!そうか……うん、そうか……」
えっ、何この空気?ってか、イリスってこんな風に照れ笑いするタイプだったけ?どうしよう、非常に気まずい……つーかやだ恥ずかしいっ……!
「おいおいおい、ちょっと見てみろよあの2人……」
「うん……見てるこっちの体温が上がって来ちゃうね……!」
「やっべぇ……何か俺、あの人達の事を応援したくなってきた……」
「ダメだよ!2人の世界を邪魔したら迷惑になっちゃうよ!」
「え、えっと……九条さん、そろそろ行きましょうか。」
「だ、だな……変に注目を集めちまってるみたいだし……あぁそうだ、今日の予定についてなんだが……俺に決めさせてもらっても、良いか?」
「は、はい。お僕は九条さんと一緒ならそれだけで嬉しいですから……」
「へっ!?あ、うん……ありがとな……それじゃ……ほら……」
「えぇ……うふふ、失礼します。」
周囲の人達から漏れ聞こえてくるヒソヒソ話に耐えられず広場から離れる事にした俺は、これまでの習慣のせいか反射的にイリスと腕を組んでから最初の目的地である朝飯を食べる為の店に向かって行くのだった。
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