第613話

 全16組のギルドによって繰り広げられた激闘を時間が経つのも忘れるぐらい熱中して見続けた俺達は、興奮冷めやらぬままの状態で優勝者とBランク闘技場の王者であるガドルさんの試合が始まるのを心待ちにしていた。


「いやぁ、ここまで長い様であっという間だったな……」


「そうですね!特に決勝戦はどちらのギルドが勝利するのか最後まで分からなかったですからハラハラドキドキしっぱなしでしたよ!」


「ふふっ、これは王者決定戦も目を離せそうにないね。」


「うん、一瞬も見逃せない。」


 真剣な眼差しで試合会場を見つめながらそう告げた父親想いのソフィの事を何だか微笑ましく感じていると、すぐ隣に座っていたイリスが俺の腕を軽く触ってきた。


「九条さん、ガドルさんはお1人で戦うんですよね?」


「あぁ、奥さんであるサラさんは試合には出ないからな。それがどうかしたのか?」


「いえ、少し気になったものですから。今回、優勝したギルドの編成は前衛と中衛と後衛の3人だったのでどうやって戦うのかなって……連携の練度が凄く高かったのでもしかしたら追い込まれたりしてしまうんじゃないですか?」


「……確かに優勝したギルドの連携はかなり凄かったな。ブレードを持ってガンガン斬り込んでくる野郎を相手にしてたら弓使いと魔法使いの攻撃が襲い掛かって来て、そいつ等を何とかしようとしたら他の2人がってな感じで……」


「えぇ、だからお1人では厳しいんじゃないかと思うんですけど……」


 これまでの戦いをシッカリ見てきたらこそ感じる不安をイリスから教えられたその直後、アシェンさんがスッと体を前のめりにして俺達の方へと視線を送ってきた。


「うふふ、きっと大丈夫ですよイリスさん。ですよね、ソフィさん?」


「うん。心配しなくても良い。ぱぱはこういう状況を何度も乗り越えて来た。だからずっと王者で居続けてる。」


「……そうでしたね。試合前に変な事を言ってすみませんでした。ソフィさんが心の底からお父さんの事を信じているんですから、僕がこんな事を思ったりするのは失礼でしたよね。」


「ううん、そんな事は無い。勝負は時の運だから負ける時もある。私も九条さん達に負けたから王者じゃなくなった。」


「……ソフィさん……」


「……でも、ぱぱならきっと大丈夫。そう信じてる。だから……一緒に応援して。」


 願い……と言うか、祈りにも似た想いが伝わってくる声色でソフィにそう頼まれたイリスは一瞬だけ間を置いた後にニコっと微笑むと……


「うふふ、分かりました。父さん、母さん、皆さん、力の限り応援しましょうね。」


「ふふっ、了解した。」


「えへへ、頑張りますっ!」


「まぁ、断る理由も無いわな。」


「アシェンさん、ここはイリスさんの期待に応えない訳にはいきませんね。」


「えぇ、たまには大声を出すのも良いかもしれませんね。」


 ガドルさんを応援するという気持ちで一致団結したその時、周囲に設置されているスピーカーからノイズ音が聞こえ始めた。


『闘技場へお越しになっている皆さん!お待たせ致しました!いよいよトーナメント優勝者と絶対王者の試合が始まりますっ!さぁ、盛大な拍手でお迎えして下さい!』


 とびっきり良い声のアナウンスが会場内に響き渡った直後、割れんばかりの拍手と歓声が周囲から聞こえてくるのだった!

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