第612話

「おぉ、こりゃまた凄い人の数だな……」


「ふふっ、今日はBランクの試合だからね。出場している選手も腕に覚えのある者達ばかりだから、面白い試合が見れるのを期待している人が多いんだろう。」


「えへへ、それと新しい王者が生まれるのか更なる連勝記録を伸ばして王者の防衛を達成するのかを楽しみにしている人もいるんでしょうね!まぁ、私達はガドルさんが負けるはず無いって信じてますけどね!」


「うん、絶対に勝つ。」


 ……ソフィの確信に満ちた言葉を聞いて思わず負けフラグが立ってしまったのではなんて考えてしまった俺は、頭を左右に振ってバカな妄想を振り払うと何の気なしに大通りの方に視線を向けた。


「おっ、どうやらイリス達が来たみたいだぞ。」


「えっ?あっ、皆さーん!こっちですこっちー!」


 両手を振りながら大きな声を出して合図を送るマホの姿を見つけたらしい3人は、笑顔を浮かべながらこっちに近寄って来ると揃ってお辞儀をしてきてくれた。


「おはようございます。本日はどうかよろしくお願いしますね。」


「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。それじゃあ早速ですけど、闘技場の中に入りましょうか。なるべくなら良い席で試合を楽しみたいですから。」


「そうですね。私達の場合は仕事の資料集めという目的も含まれていますから、試合会場から遠すぎず全体を見渡せる席を確保したいです。」


「うふふ、それなら急がないといけないね。九条さん、行きましょうか。」


「……イリス、今日はご両親も居るからダメだ。」


「えっ、どうしてですか?」


「ど、どうしてって……分かるだろ?こう……な?」


「九条さん、私は別に構いませんよ?むしろイリスさんと仲良くイチャイチャとしてくれていた方が嬉しいんですが。」


「……イリスの判断に任せます。」


「……と、いう訳みたいですよ?」


「ぐっ……!と、とりあえずダメなもんはダメ!ほら、さっさと行くぞ!……って、何でお前達はそんなジトっとした目で俺の事を見ているのかな?」


「……いや、私達の見てない間に随分と仲良くなったんだなーっと思ってね。」


「今日はダメって事は……おじさんとイリスさんってイベントが始まってからずっと腕を組んでたって意味ですよねぇ……ふーん……」


「……ぷいっ……」


「ちょっ、皆さん?そういう態度を取られると俺も反応に困るって言うか……あの、黙って先に行かないでくれませんかねぇ?!おーい!」


 女心と秋の空……いや、今は冬なんだけどね?そんな言葉をふっと思い出した俺は何故か不機嫌になってしまった皆の事を追いかけて闘技場内に足を踏み入れて行くのだった。


「あらあら、これは強敵揃いみたいですね。イリスさん。」


「うふふ、それぐらい分かっているよ母さん。でも、だからこそ心が躍るんだよ。」


「なるほど。その気持ち、よく分かるわ。」


「……2人共、皆さんの事を見失わない内に私達も行くとしようか。」

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