第614話

「ガドル!今日こそはアンタを倒して王者の座を頂くから覚悟しやがれ!」


「えぇ、出来る物ならどうぞ。」


『挑戦者と王者っ!両者共に気合は充分の様ですねぇ!それでは、何時までも皆様をお待たせするのも申し訳ありませんので……試合、開始ですっ!!!』


 実況の叫んだのと同時にブザー音が場内に響き渡った直後、剣士の野郎が一直線にガドルさんへと斬りかかって行った!


「はあああああっ!!!」


『おぉっと!仲間の魔法に寄ってステータスを強化された挑戦者!ブレードを構えて真正面から王者に挑みかかっていったぁ!そして背後からはもう一人の仲間が放った矢が王者へ襲い掛かっていくぅ!』


 熱狂した実況の言葉通りの展開が俺達の目の前で繰り広げられる中、ガドルさんは表情も変えずに飛んで来る矢を弾き落とすとショートブレードで振り下ろされてきたブレードを小さな動きで受け流した!


 そこから即座に反撃……とはいかず、剣士の野郎はガドルさんからの攻撃が始まる前に体を捻ると一瞬で体勢を立て直して更なる攻撃を仕掛けていった!


「うへぇ、何なんだよあの対応力……しかも……ガドルさん後ろ!!……っぶねぇ!もう少しで矢が胴体に突き刺さる所だったぞ……!」


「ふむ、彼が剣を振り回して注意を引いている間に死角から攻撃……流石はここまで勝ち上がってきただけの事はあるね。」


「感心してる場合か!ったく……ガドルさん、大丈夫だろうな……」


「おじさん!心配している暇があるなら応援して下さい!」


「あ、あぁそうだな!悪い……ガドルさーん!頑張って下さーい!」


 いい歳して大声を張り上げるのも恥ずかしい……なんて感情が無い訳じゃないが、そんな事を気にしている余裕はねぇ!ここはいっちょ、気合を入れて応援すっか!!


 そう意気込んで同じくガドルさんを応援してくれている周囲の人達と一緒になって声援を送っていると、ガキィンという金属の弾き合う音が聞こえてきて剣士の野郎とガドルさんが同時に後方へと飛び下がって距離を取る姿が視界に入って来た。


「……なるほど、以前の君達とは比べ物にならない程に強くなったみたいですね。」


「あぁ、アンタに負けたのが悔しくてガッツリ修行してきたからなっ!……2人共、準備は良いか!」


「は、はい!」


「えぇ!任せなさい!」


「へへっ、それじゃあ行くぜ!作戦開始だっ!!」


『何だ何だぁ!?挑戦者、何やら作戦がある様子!これは一体どうなる事かっ!目が離せなくなってまいりましたぁ!』


 実況のそんなの声がスピーカーから聞こえてきた直後、どういう訳か剣士の野郎はさっきと同じ様に一直線にガドルさんの方に突っ走っていった?


『一体どうしたというんだ!?挑戦者の動きは先程と一緒ではありま……いやぁっ!コレはああああっ!!?』


 俺と実況の考えている事が重なった次の瞬間、剣士の野郎と対峙しようとしていたガドルさんの真正面にある地面に突如として魔方陣が出現してそこから石柱が生えてきやがった!?


「あらあらまぁまぁ、そうきましたか。」


「うふふ、凄い荒業だね。」


「あぁ、信頼関係が無ければ出来ない連携だね。」


 アシェンさん、イリス、ルバートさんから漏れ出したのであろう感想を聞きながらハラハラとしている俺の視線の先では、石柱を利用してガドルさんの視界から逃れた剣士の野郎が素早い身のこなしで右側から回り込む様にして斬り込んでいく姿がっ!


「ぱぱ……!」


「ガドルさんっ!」


 ギリギリの所で剣士の野郎に気が付いたのか薙ぎ払われたブレードを何とか防いだガドルさんは距離を取ろうと思ったのか後ろに下がろうとしたんだが、今度はソレを邪魔する感じで石の壁が出現して退路を塞ぎやがった!


 そのせいで動きを止められてしまったガドルさんの正面からは剣士の野郎が止めを刺そうと襲い掛かって来ていて、がら空きになっている左右からは弓使いが放ったであろう無数の矢が魔法使いに操られるように飛んで行き……!


「コレで終わりだぁっ!!」


 勝利を確信した剣士の野郎が叫び声を上げながら腰の辺りで構えていたブレードを斬り上げようとした……そして俺達以外の誰しもが王者の敗北を見届けるしかないと心の中で諦めた……次の瞬間!


「ふっ!」


「っ!?んなっ!!」


 ガドルさんは自身を斬り裂こうと迫りつつあるブレードへ一瞬にして自分の方から接近して行くと、長い刀身の上に乗って振り上げられた勢いそのままに大空へと跳び上がっていった!?


「ハァッ!」


「「え、きゃあっ!!」」


「ふ、2人共!ぐはっ!!」


 優勝者も含めた闘技場内に居る全員がガドルさんの姿に目を奪われていると、彼は空中に幾つもの魔方陣を展開してそこから鋭く尖った氷の塊を射出した!


 そして瞬く間に視界が真っ白な景色に覆われてしまったかと思ったら……次の瞬間には突風が吹き荒れて視界が晴れ渡り、シーンと静まり返った俺達の目の前には鞘に武器を収めるガドルさんと地面に倒れ伏している挑戦者達の姿があって………


「「「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」」


『な、な、な、何と言う事でしょうかっ!!圧倒的に不利と思われていた状況から!一瞬にして勝負をひっくり返してしまいましたぁ!!流石は負け知らずの絶対王者!ガドル・オーリア!!今後も彼の活躍からは目を離せそうにありません!!』


 実況、そして観衆の人達が席を立ちあがり盛大な拍手と称賛をガドルさんに送っている中……俺は座席に座ったまま動けずにいた……


「ぷはぁ……マ、マジで心臓に悪い……」


「で、ですね……私……呼吸をするのを忘れてました……」


「ふふっ、時間にすればあっと言う間なんだろうけど凄く濃い時間だったね。」


「うふふ、手に汗握る素晴らしい戦いでしたね。」


「うん……やっぱりぱぱが最強……!」


「えぇ、良かったですねソフィさん。あっ、ルバートさん。資料の方は?」


「問題ありませんよ。きちんと記憶してありますから、家に戻ったらすぐにでも。」


「うふふ、お願いしますね。さて、それではこの後はどうしますか?」


「……そうですね……とりあえず、この場が落ち着くまで待ちましょうか……」


 何はともあれ負けフラグが回収される事も無く無事にガドルさんの勝利をこの目に納める事が出来た俺は、バクバクと脈打つ心臓が元に戻るまでのんびりしたいと心の中で思うのだった……

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