第505話

『九条透さんへ


 以前にご同行をお願いさせて頂いた旅行の日程がお決まりしましたので、ご報告としてお手紙を送らせて頂きました。


 詳細につきましては近日中に生徒達と共にトリアルへ訪れた際にご説明を致しますので、それまでお体にお気を付けてお過ごし下さい。


                           ルゥナ・マルティス』


 ……という内容の手紙が俺の所に届いてから3日後、あいつ等が居なくて物静かだった我が家に大勢の客人達が朝っぱらから押しかける様にやって来ていた。


「九条さん、改めてになりますが今回は本当にありがとうございます。」


「いえいえ、それよりもすみません。旅行の人数、勝手に増やしてしまって……」


「えっと、確か加工屋の娘さんが同行する事になったんですよね?」


「あぁ、話の流れでそういう事になってな……」


「ふーん……ソイツ、もしかしてテメェの恋人か?」


「いや、そんなんじゃねぇ……からっ!無言で近寄って来るなイリス!目が……目がマジで怖すぎるんだよ!」


「うふふ……そうですよね。九条さんが僕を裏切るはずがありませんよね……でもその女性……警戒しておいた方が良いかもしれませんねぇ……うふふふ……」


「おぉ……流石は九条さんですねぇ!いやはや……コレは美味しいネタがゴロゴロ転がってる予感がビシビシしてきますよ!」


「オレットさん、瞳をキラキラ輝かせている所で悪いんだけどソレって俺にとっては過酷な試練にしかならないって分かってます……?」


「えぇ、勿論じゃないですか!九条さん、応援してますから頑張って下さいね!」


「……うん、何1つとして頑張れる気がしてこねぇ……!」


「ふんっ、それならば語らいはこの辺りで終わりとしてそろそろ本題へと入ろうではないか!」


「そ、そうですね……では九条さん、これから今後の予定についてご説明致しますけれどよろしいでしょうか。」


「えぇ、分かりました。よろしくお願いします。」


「はい。まずは明日の予定なんですが、早朝に広場にある馬車に乗って街道の途中にある村へと寄って1泊する事になる。そして翌日にクアウォートに到着するという事なんですが……ここまでに何かご質問はございますか?」


「いえ、大丈夫です。俺もクアウォートには行った事ありますからね、大体はそんな感じなんじゃないかと思ってました。」


「なるほど、確かにこの辺りの事についてはご説明するまでもありませんでしたね。それでは次にクアウォートに滞在する日数なんですが、これは10日となります。」


「10日ですか……まぁ、確かにそれぐらいが妥当かもしれませんね。それ以上は親御さんも心配なさるかもしれませんから。」


「えぇ、帰宅に掛かる日数も考えるとあまり無理は出来ませんからね。」


「そうですね……では、クアウォートでは何をする予定なんですか?やっぱり遊び回ってる感じなんですかね?」


「いえ、そればかりではありませんよ。学園から出されている課題などもありますから、勉学も疎かにさせるつもりはありません。」


「うへぇ……勉強が苦手な私としては、そこがやっぱり辛い所ではありますねぇ……フィオちゃん……一緒に乗り越えましょうね……」


「アッ?オレはもう課題については終わってるぞ。」


「えっ!?そんな!どうして!?何時の間に!?」


「何時の間にって……あんなもん、夏季休暇が始まってから数日で終わらせたぜ。」


「ぐ、ぐぬぬ……!裏切者!フィオちゃんはこっち側の人間だと思ってたのに!」


「何を言っているのか知らねぇが、勝手に仲間扱いすんじゃねぇよ。」


「凄いな……フィオ、悪いんだけど僕の課題を手伝ってもらっても良いかな?後少しなんだがちょっと困っている所があってね。」


「……まぁ、気が向いたらな。」


「そうか!ありがとう、助かるよ!」


「だ、だから気が向いたらって言ってんだろうが!何を勝手に感謝してんだ!」


「うふふ、それなら僕もご一緒しても良いかな。」


「……っ、ああもう分かったよ!まとめて面倒見りゃいいんだろうが!……だが、あんまり出来が悪いと見捨てるからそのつもりでいやがれよ!」


「あぁ、期待は裏切らない様に頑張るよ。」


「僕も精一杯、努力させてもらいますね。」


「……クリフ、お前は仲間に入らなくても良いのか?」


「ふんっ、我も課題については一通り終わっているから問題は無い!」


「なるほどなぁ……だったらテメェも手伝いやがれよ?」


「な、何ッ?!」


「オレだけ苦労するなんて不公平だろうが。しっかり働きやがれよ?」


「……フッ、仕方あるまい!我の力を欲するならば手を貸してやろうではないかっ!フゥーッハッハッハッハ!!」


「……えっと……それでは九条さん、どうかよろしくお願い致します……」


「……はい……了解しました……」

 

 ルゥナさんと一緒に苦笑いを浮かべながら微笑み合った俺は……何と言うか……とりあえずフィオが皆と仲良くやれている姿を見て安堵のため息を零すのだった。

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