第501話

「おはようございます。」


「おや、九条様。おはようございます。今日はどういったご用件で?」


「あぁ、実はエリオさんに用があって来たんですけが……お会い出来ますかね?」


「そうですね……少々お待ち下さい、すぐに確認してい参ります。」


「はい、よろしくお願いします。」


 ここに来る途中で買ってきた手土産を持ち直した後に軽く頭を下げてから数分後、少しだけ不安に思いながら待っていると門番の人がカームさんと連れて戻って来た。


「お久しぶりでございます九条様。本日はご当主様にご用事があってお越し下さったという事ですね。」


「はい、もしご迷惑な様なら日を改めますけど……」


「いえ、その必要はございませんよ。ご当主様と奥様も九条様にお会いになりたいと仰っていましたからね。しかしお仕事の関係で今しばらくお待ち頂きたいのですが、それでもよろしいでしょうか?」


「えぇ、勿論ですよ。いきなりお邪魔してしまったのはこっちですから、何時までもお待ちさせてもらいます。」


「ふふっ、どうもありがとうございます。それでは談話室にご案内を致しますので、私の後について来て下さい。」


「はい、分かりました。」


 ニコッと微笑みかけてきたカームさんに案内されるがまま門を通って中庭まで足を運んで来た俺は、相も変わらず働いてる執事さんやメイドさんの姿を目撃して静かにため息を零すのだった。


「それにしても、こうして九条様がお1人でお屋敷にいらっしゃるのは初めての事でございますね。」


「あぁ、そう言えば何時もはロイドが一緒ですもんね。」


「えぇ、ですので……たまには本日の様にお1人でお遊びに来てはいかがですか?」


「いやいや、流石にそれは……何の用事も無いのに俺だけが来るって訳にはいかないじゃないですか。エリオさんとカレンさんもご迷惑に感じるでしょうからね。」


「いえ、そんな事は無いと思いますよ。もしご迷惑だと感じてるのならば、こうして九条様に会いになろうとは思わないのではありませんか?」


「あ、あはは……まぁそうかもしれませんが……やっぱりこの場所に1人で来るって言うのは難しい気がしますね。お2人も貴族としての仕事が忙しいでしょうし、俺もその邪魔はしたくありませんから。」


「なるほど。そういう事でしたら九条様が遊びにいらしても大丈夫な日をお聞きしておきましょうか。」


「ちょっ、そこまでして頂かなくても大丈夫ですから!いや、本当に!」


「そうですか?それは残念。九条様にお時間があれば是非とも手合わせをしてみたいなんて思っていたものですから。」


「へっ?!そ、そんな恐ろしい事は時間があったってやりたくありませんよ!ってかどうして俺と手合わせをしたいなんて思ってるんですか!?」


「ふふっ、私も武人の端くれですからね。腕に覚えのある九条さんとならいい試合が出来ると思いまして。それにお屋敷の中には護衛部隊用の訓練所もございます。そこならば思う存分戦えますからね。あっ、良かったらこの後いかがですか?」


「そんな軽いノリで誘ってこないで下さい!ついうっかり良いですよなんて言ったらどうするんですか!絶対にお断りです!」


「そうですか、それならば試合はまたの機会にという事で。」


「……お願いですからそこは諦めて下さいよ……」


 常識人だと思っていたカームさんに少しだけソフィの影を見た気がしてほんの少し恐怖を感じた俺は、絶対に1人で屋敷を訪れない様にしようと心に誓うのだった……

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