第502話
仕事に戻ると告げたカームさんと別れてから数十分後、案内された談話室で優雅に紅茶を嗜みながら文学的な本を読むという身の丈に合わない行為をしているとメイドさんがエリオさんの手が空いたと知らせに来てくれた。
慣れない事をしていたせいで何とも言えないむず痒さを感じてた俺はメイドさんに感謝を述べると早足で談話室を後にして、勢いそのままに2階の奥にある執務室まで足を運ぶとエリオさんとカレンさん……そのついでにレミと挨拶を交わすのだった。
「九条さん、本日はよくお越し下さいました。要件はレミさんから聞いていますよ。私達の代わりにクアウォートへご同行して下さる事になったんですよね。」
「えぇまぁ、話の流れでそういう事になりましたね……」
「ありがとうございます。出来る事ならば私達もご一緒したかったのですが、今回はどうしても手を離せない仕事が数多くありまして……」
「いや、別にお礼を言われる程の事じゃありませんよ。エリオさんとカレンさんには何時もお世話になっていますから、これぐらいの事は俺に任せて下さい!」
「ふむ、確かわし達がソレを伝えた時は思いっきり嫌がっておった気がするが……」
「は、はっはっは!それはもう過ぎた事なんだから良いじゃないか!それよりも……エリオさん、レミからもう聞いてますか?クアウォートに行く人数について……」
「はい、九条さんのお知り合いが増える事になったんですよね。それで別荘の客間をその方達の為に使わせて欲しいと。」
「えぇ、大丈夫ですかね?」
「勿論、問題ありませんよ。聞けばその方達はまだ学生さんなんですよね?ならば、宿泊費等の出費はなるべく抑えてあげて持っていったお金はクアウォートで遊ぶ為の費用に回してあげた方が良いでしょう。」
「ありがとうございます。ふぅ、その言葉を聞けて安心しました……」
「いえいえ、これぐらいの事はお安い御用ですよ。」
優しく微笑んでいるエリオさんを見て抱えていた不安が無くなったのでホッと胸を撫で下ろしていると、目の前にあるテーブルの上に綺麗に盛り付けられてる手土産と高貴な香りが漂ってくる紅茶の入ったティーカップがそっと置かれた。
「九条さん、レミさん、どうぞお召し上がり下さい。」
「おぉ、すまんのうカレン!では早速………うむ、美味い!流石はカレンじゃのう!それに九条、お主が持ってきた菓子も中々なもんじゃ!褒めてやるぞ」
「……そりゃどうも。すみませんカレンさん、わざわざ俺の分まで……」
「うふふ、お気になさらないで下さい。それよりも九条さん、もうここに来た用事というのは終わりましたか?」
「え?まぁそうですね。今日は別荘の使用許可について聞きにきただけですから……あっ、もしかしてもう帰った方が良いですかね?」
「い~え、そうでは無くてですね……九条さん、もしよろしかったら本日はこちらにお泊りになりませんか?」
「……はい?」
「ですから、今日はここに泊まっていきませんか?」
「……えっと……?ちょーっとお話が急すぎてよく分かんないんですけども……一体どうしてそういう事に……?」
「そんなの決まっているじゃないですか。ロイドちゃんについて語り合う為ですよ。何時もだったらあの子が一緒だからそんな事は出来ませんけど、今は旅行に出掛けているから思う存分お話が出来ます。そうですよね?」
「いや、そこで俺に同意を求められても困るんですけど……」
「……ふむ、確かにロイドの一番身近にいる男性の意見を聞くと言うのも貴重な機会かもしれませんね。」
「エ、エリオさん!?」
「あの子の事をどう思っているのか……今一度、詳しく聞かせて貰いましょうか。」
「うふふ、楽しみですねぇ。九条さんがあの子に対してどんな想いを抱いているのかバッチリ聞かせてもらいましょうか。」
「えっ、いや、それは……!」
「……九条よ、誘いを断って別荘を使えなくなるのも面倒じゃ。ここは覚悟を決めて2人の言う通りにするしかないじゃないかのう。」
「ぐっ、どうしてこんな事に……!」
恐らく全く違う意味合いで微笑みかけて来ているエリオさんとカレンさんと視線を合わせながら口元を引きつらせた俺は、用事を済ませたらさっさと帰れば良かったと後悔しながら2人の圧に負けて提案を受け入れる事にするのだった……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます