第500話

 翌朝、目覚まし時計を使って夜明けと共に起床した俺は大あくびをしながら簡単に身支度を整えると朝焼けを浴びながら大通りを歩いて正門前の広場までやって来ると路肩に立って驚いた顔でこっちを見ているルゥナさんに近寄って行った。


「九条さん!一体どうしたんですかこんな時間に……も、もしかして……」


「えぇ、見送らせてもらいに来ました。まぁ、余計なお世話でしょうけどね。」


「そ、そんな事はありませんよ!……九条さん、どうもありがとうございます。」


「いえ、どういたしまして。それともし良かったらコレをどうぞ。さっきそこにある店で買ってきた飲み物です。」


「あっ、わざわざすみません。ありがたく頂きますね……ふふっ、とっても美味しいですよ。」


「そうですか……いやぁ、それにしてもお忙しそうですね。昨日トリアルに着いたと思ったら今日の朝にはもう王都行きの馬車に乗って帰るんですから。」


「あ、あはは……確かにちょっとだけ大変だなって思いますけど、自分がやりたくてしている事ですからね。誰かに文句を言う訳にもいきませんよ。」


「あぁ、なるほど……その気持ち、よく分かりますよ。俺も似た様な考えで行動している所がありますからね。」


「へぇ、そうなんですか?それなら私達、とっても気が合いそうですね。」


「……だと良いですね。ルゥナさんは王都に戻ったら、すぐにあいつ等に会いに行くつもりなんですか?」


「はい、昨日の事も含めて旅行の計画を立てないといけませんからね。九条さんは、この後どうなさるおつもりなんですか?やはりロイドさんのご実家へ?」


「えぇ、家に戻って二度寝をしてからになるかもしれませんけどね。」


「あっ、うふふ。確かにまだ時間的に早いですからね。どうぞ、ごゆっくりお眠りになって下さい。」


「はい、そうさせてもらいます。」


 ルゥナさんとそんな他愛もないお喋りをしていると、馬車の出発時刻がもうすぐだという事を知らせるベルの音が広場に鳴り響き始めた。


「すみません、そろそろお時間の様です。九条さん、わざわざお見送りに来て頂いて本当にありがとうございました。改めてになりますけれど旅行の件、どうかよろしくお願いしますね。」


「分かりました。それではまた後日。お帰り、どうかお気を付けて。」


「はい、九条さんも旅行日が来るまでの間にお怪我などしませんように……それでは失礼します。さようなら。」


「えぇ、さようなら。」


 小さくお辞儀をして歩き去って行ったルゥナさんが乗り込んだ馬車が見えなくなるまでその場に立っていた俺は再び大きなあくびをすると、少しだけ高くなった太陽に照らされながら家に帰って行くのだった。

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