第499話

「初めまして、私の名前はルゥナ・マルティスと言います。九条さんとは王立学園でお知り合いになりました。」


「うむ、そうじゃったのか!わしの名前はレミじゃ!そして隣に居るこやつが……」


「ユキよ、どうぞよろしくね。」


「はい、レミさんにユキさんですね。こちらこそよろしくお願いします。しかし驚きました、九条さんにこんなに可愛らしいお子さんがいらしただなんて……」


「へっ!?いやいや、違います違います!この2人は知り合いのお子さんで、今日はたまたまウチに遊びに来ていただけなんですよ!」


「あっ、そうだったんですか?」


「えぇ!何て言ったって俺はまだ独り身ですからね!」


「それに、アンタにはコレと言って特別な関係になっている相手もいないもんね。」


「……そういう余計な事は言わんでもよろしい。」


 ニヤニヤと笑いながら俺を見て来ているユキをジトッとした目つきで見ていると、ルゥナさんが苦笑いを浮かべながらこっちにし視線を送ってきた。


「あ、あはは……それにしてもすみませんでした九条さん。いきなりお邪魔した上にこうしてお飲み物まで頂いてしまって……」


「あぁいや、ソレはさっき淹れたばかりのヤツが残っていただけなんで気にしないで下さい。それよりも……今日はどういったご用件でウチにいらっしゃったんですか?もしかして、この間のクエストに何か不備でも……」


「いえ、そういう訳ではありません。クエストの結果にも教師陣の全員が満足したと仰っていますから大丈夫ですよ。」


「それなら良いんですが……では、一体どうして?」


「えっと……その……実はですね……今日お邪魔させてもらったのは、私が個人的にご依頼したい事があったからなんですけど……ロイドさん達は、やっぱりお戻りにはならないんですよね?」


「えぇ、さっきも説明した通りあいつ等は旅行に行ってしまったので……もしかして俺だけだと都合が悪いですかね?」


「そういう訳では無いんですけども……あの……」


「ルゥナよ、とりあえずその依頼とやらの内容を言ってみたらどうじゃ?」


「そうね、話を聞いてみない事には判断のしようが無いもの。」


「あのなぁ……お前達にこんな事を言うのは無駄だってのは分かってるけど、初めて会う人に向かってその口の利き方はどうかと……」


「あっ、いえ!私は気にしませんので!………そうですよね、分かりました。まずは私の話を聞いてもらっても良いですか?」


「……まぁ、ルゥナさんがそう言うんなら……それで、頼みたい事って言うのは?」


 勝ち誇った様な顔をしている神様達に少しだけイラっとしながらもそう尋ねると、ルゥナさんは静かに息を吐き出して意を決した様な表情で俺の事を見て来て……


「く、九条さん!」


「は、はい!?」


「私と一緒に……クアウォートへ旅行をしませんか!!」


「「「………はっ?」」」


 ……緊張した面持ちで大声を出したルゥナさんと見つめ合っていた俺が、頭の中で何を言われたのか理解しようとしていると……


「お、驚いたわね……コイツと2人っきりで旅行をしたいだなんて言う奴がこの世に居るだなんて……」


「うむ……しかも先ほどの話では、会ったばかりの関係らしが……よもや一目惚れというやつなのかのう……」


「……えっ!?あっ!す、すみません言い間違えました!わ、私と!ではなくてっ!私達と!でした!九条さんと2人きりで旅行をしたい訳ではありません!!」


「うぐはっ!?」


「おぉ、九条がテーブルの上に突っ伏しおったぞ。」


「……どうやら色々な意味でやられちゃったみたいね。」


「きゃあ!だ、大丈夫ですか九条さん!?」


「え、えぇ……そうですよね……分かってましたよ……ちょっと驚きましたけど……そ、そんな事があるはずありませんもんね……で、でも……どういう事なんですか?ルゥナさん達と旅行……と、言うのは……?」


 人生初のモテ期が来たのかと思ったら、ソレを喜ぶ間もなく特大のナイフで精神をズタズタに切り裂かれた俺は勘違いした事を恥ずかしいと感じてしまう前に頼まれた内容について尋ねてみた……!


「あぁ、えっとですね。実は夏休みに入るちょっと前の話になるんですが、皆さんとご友人関係にある生徒達から旅行に行こうと誘われまして……」


「ご友人関係……って言うと、あの夜に取材へ行った?」


「はい、その時の生徒達です。その子達と一緒にという事だったんですが……」


「ふーん、それじゃあアンタは自分の教え子と一緒に旅行へ行くつもりなのね。」


「えぇ、折角の誘いを断るのもどうかと思いますし生徒達が危険な目に遭わない様に付き添いたいという考えもありますから……ただ、私だけではどうしても不安なので出来れば九条さん達にも同行して頂ければと思ったんですが……」


「ふむ、それならば九条達ではなく他の教職員に頼むのも手では無かったのか?」


「いえ、折角の旅行に教師が2人も居ては生徒達も心から楽しめないでしょうし……だから生徒達と仲の良い九条さん達を頼りたいと思ってお邪魔したんですけど……」


「そうだったんですか……うーん……」


 旅行……旅行ねぇ……しかもクアウォートかぁ……まさかこのタイミングでそこの名前を出されるとは……ここまで来てくれたルゥナさんの頼みを聞いてあげたいって気持ちはあるんだが、あいつ等と旅行ってどう考えてもヤバい気がすんだよなぁ……


「……ふっ。」


「……うふっ。」


「……ん?」


 はてさてどうしたもんか……なんて腕を組みながら悩んでいると、不意に神様達が視線を交わして不敵に微笑んだ気がして……ハッ!?ま、まさかこいつ等?!


「ルゥナよ!安心するが良い!その頼み、九条がしかと聞き届けた!」


「え、へっ?」


「ぐっ!やっぱりかそうきたか……!」


「実はね、アタシ達もついさっきまでクアウォートに旅行へ行きましょうかって話をしてた所だったのよ。」


「えっ、そうなんですか?」


「そ、それは……ですねぇ……」


「ねぇアンタ……まさかとは思うけど、王都からわざわざここまで足を運んでくれたルゥナさんの頼みを断るだなんて薄情な事は言わないわよね?」


「うぐっ!」


「お主を頼って来てくれたか弱きおなごの依頼……まさか、無情にも断るなどと言うつもりではなかろう?」


「えぇ、きっとそうよね!アンタはそんな酷い事をする奴じゃあ無いわよね?」


「うむ!それにルゥナが言っておった生徒達も、きっとお主に会いたいと思っているはずじゃ!そうではないかのう?」


「そうよねぇ?アンタを慕ってくれている子達の信頼、裏切ったりしないでしょ?」


 満面の笑みを浮かべながら打ち合わせをしたかの様に見事な連携を見せてきた神様2人と交互に視線を交わした俺は……ガックシと肩を落としてうつ向くと……


「……はい……ルゥナさんの依頼……喜んで引き受けさせて頂きます……!」


「おぉう!そうかそうか!良かったのうルゥナ!これで安心して旅行が出来るな!」


「え、えぇ………あの、九条さん。本当によろしいんですか?」


「……大丈夫です……任せて下さい……」


「そ、そうですか……?では、どうかよろしくお願いしますね。」


「……分かりました……それじゃあ、旅行に日程について聞いても良いですか。」


 抗った所でどうせ無駄になると思って色々と諦める事にした俺は、どうせならこのイベントを楽しむべく今後の予定についてルゥナさんに尋ねてみる事にした。


「あっ、それなんですが……まだ決まっているのは旅行先と出発日だけでして……」


「ふむ、つまり寝泊まりする宿などはまだ決まっておらんという事じゃろうか?」


「はい、それについては九条さん達が旅行に同行してくれるかが決まってから考える事になっていまして……」


「そうかそうか。ならば寝泊まりする場所に着いてはこちらで用意しておこう。」


「えっ?」


「オイ、まさかとは思うが……あの別荘を使うつもりなのか?」


「うむ、事情を話せばエリオも分かってくれるじゃろう。それに折角の旅行なんじゃから、無駄な費用は出来るだけ抑えるべきだとは思わんか?」


「いや、まぁそりゃそうだけど……」


「それにあの別荘ならば部屋の数も問題あるまい。」


「……分かったよ。明日、俺が直接交渉に行く。」


「ま、待って下さい!流石にそこまでご迷惑をお掛けする訳には……」


「大丈夫大丈夫、コイツはご迷惑についてはかなり慣れているからね。」


「はぁ……どうしてお前がソレを言うんだっての……あっ、そう言えばルゥナさんはこの後どうなさるご予定なんですか?今日来たって事は、帰りは明日ですよね?」


「は、はい。私は明日の馬車に乗って王都に戻る予定です。」


「おぉ、それならばまだ時間はあるという事じゃな!それならばルゥナよ、わし等と昼食を共にしようではないか!九条が手作り料理をふるまってくれるぞ!」


「えっ!?いやいや、そんなの悪いですよ!私は外で頂きますので……」


「そんなに遠慮しないの。どうせ4人分なんて作り慣れてるんだから。でしょ?」


「……はいはい、その通りですよ。だからルゥナさん、口に合うかは分かりませんがここで昼飯を食べていきませんか?」


「あ……は、はい!よろしくお願いします!ですが、ご馳走になるだけでは悪いですので私もお手伝いさせてもらいますね!」


「えぇ、分かりました。それじゃあ……少し早いが取り掛かるとしましょうか。」


 ……その後、ルゥナさんと協力して作った昼飯を食べたり適当に王立学園であった事をレミとユキに話したりしながら時間を潰した俺達は、大通りにある飲食店に足を運んで晩飯を済ませたりして1日を終えていくのだった。

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