第467話

 学園に向かって歩く生徒達がこっちを見ながらひそひそ話しているのを気にしないフリをしながら正門前まで辿り着いた俺達は、警備の人達に身分証明のカードを確認してもらい敷地内に入るとそのまま階段を上がって行き学園長と顔を合わせた。


「おはようございます学園長、今日からしばらくの間よろしくお願いします。」


「はい、よろしくお願い致します。皆様、早速ではありますがまずは職員室に行って先生方に挨拶をしてきてもらってもよろしいでしょうか。何か困った事が起きた時に力になってくれるはずですから。」


「あぁ、分かりました。それでは失礼します。」


 挨拶程度の短い会話を終わらせて学園長室を後にした俺達は言われた通りに職員室まで足を運び、そこに居たルゥナさんの手を借りつつ教師の方達に簡単に自己紹介をしていくのだった。


「いやはや、それにしても不思議な気分です。数年前に私の授業を受けていた君が、今度は教える側になって学園に戻ってくるだなんて。」


「ふふっ、私もそう思いますよ。今日はあの頃の先生を思い出しながら、生徒の皆に冒険者として授業をしたいと考えています。」


「はははっ、相変わらず口が上手いですね。」


「いえいえ、コレは私の本心ですよ。」


「なるほど、そういう事ならば期待させてもらいますよ。」


「えぇ、望む所です。」


 複数人の先生に囲われて笑顔で話をしているロイドの様子を職員室の壁際に立って静かに見つめていると、ルゥナさんがニコっと微笑みながらこっちに近寄って来た。


「皆さん、おはようございます。改めてになりますがよろしくお願い致します。何か分からない事があれば何でも聞いて下さいね。」


「あぁ、ありがとうございます。つっても、今の段階ではどんな事を聞いたら良いかすら分からないんですけどね。」


「うふふ、最初は皆そんなものですよ。」


「ははっ、そんなもんですか。」


「はい!あっ、そう言えば皆さんが最初に授業を行う場所は確か……」


「2科の4年3組。」


「そうでしたね。私、隣のクラスで魔法学の授業をしていますので困った事があればすぐに頼って下さいね。」


「うん、そうさせてもらう。」


 ルゥナさんとそんな話をしていると職員室にキーンコーンカーンコーン……という何とも懐かしい鐘の音が鳴り響き始め、先生方が一斉に動き始めて同時にさっきまでお喋りをしていたロイドがこっちに戻って来た。


「2人共、そろそろ授業の時間だ。私達も行くとしようか。」


「おう、それじゃあルゥナさん。俺達は……って、確か隣のクラスでしたよね?もし良かったら一緒に行ってくれますか?」


「えぇ、勿論ですよ。シッカリと案内させてもらいますね。」


 ……ルゥナさんの笑顔にほんの一瞬だけ胸をドキッと高鳴らせながらルゥナさんと共に職員室を出た俺達は、2科に通じている階段を降りて目的のクラスに向かった。


「はぁ……ヤバいなぁ……今になって緊張してきた……」


(ご主人様、ファイトですよ!)


「大丈夫、九条さんは1人じゃないよ。」


「私達が一緒。」


「うふふ、皆さんは本当に仲が良いです、すす……キャッ?!」


「っぶな!?」


 俺達の方を見ていたせいでローブに足を取られたのかいきなり両手を動かしながら前のめりに倒れそうになったルゥナさんの姿を視界に捉えた次の瞬間、俺は反射的に彼女が倒れない様に支え……てえっ!?


「ひゃうん!」


「ふぇあっ!?す、すみませんいきなり!」


「あっ、いえ!そんな!え、えっと……助けてくれてありがとうごじゃいました!」


 自分が授業をするクラスにルゥナさんが飛び込む様に入って行った直後、部屋の中から何があったのかを尋ねる生徒の声が廊下まで聞こえてきた訳なんだが……そんな事よりも!い、今……腕に何かが……!!つーか、あの人ってまさかドジっ子か!?


「九条さん、良い思いをして嬉しいのは分かるけれど目の前の事に集中しないと。」


「なっ!?何を言ってんだロイド!良い思いなんてちっともしてない!俺はただ人を助けようとしただけだ!それ以上でも以下でもない!」


「ふふっ、そうかい?」


「そ、そうだ!あんまりアホな事を言ってんなよな!」


(……アホなのはご主人様の方だと思いますけどね。)


(オイ!それはどう言う意味だ!)


(さぁ?自分のお胸に聞いてみれば良いんじゃないですか?お・む・ね・にっ!)


(な、何でそこを強調するんだよ!?)


(ふーん!知りません!)


(あっ、マホ!おいマホ!くっ、無視かよ……!)


「九条さん、もう良い?」


「へっ?あっ、おう!……よしっ、今日やる事の内容は頭に入ってるな?」


「あぁ、問題ないよ。」


「……任せる。」


「……何とも不安になる返事をありがとうよ……さてと、行くか。」


 両頬を軽く叩いて気合を入れなおした俺は、2人と目を合わせて小さく頷くと目の前にある扉を開いてクラスの中に入って行くのだった……!

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