第468話

「……と、という訳で……俺が冒険者になったのはかなり遅いんだけど……えっと、ここまでの流れで質問とか聞いてみたい事なんかは……」


「うふふふ、それでしたら九条さんの好みのタイプを教えてくれませんか?他には、好きな食べ物とか来て欲しい服の種類とか知りたいです。」


「……イリスさん、悪いんだけど授業と関係ない事は教えられないかなぁ……」


「そんな、イリスさんだなんて呼ばないで下さい。何時もの様にイ・リ・スって……うふふふふ……」


「は、はは……はははは……そ、そういう訳にいかないだろ?今日ここに来たのは、あくまでも講師としてだからな……分かるだろ?」


 1時間目、最初に訪れたクラスで俺達を待っていたのは最前列の席に座って満面の笑みを浮かべながらイリスだった……!って、初っ端から難易度が高すぎじゃね!?


「えぇえぇ、とてもよく分かりますよ。教師と生徒による禁断の愛……僕、以前から憧れていたんですよね。」


「……つ、次の話にいきたいと思いますっ!えっと、ロイド!頼む!」


「了解した。さて、次は私が冒険者になった経緯を説明していくよ。分からない事があれば好きな時に質問してきてくれるかい。」


「「「「はぁ~い!」」」」


(……凄いですね、ロイドさんに対する女の子達からの人気。)


(あぁ……一瞬すぎてマジで恐ろしいわ……そんでもって……)


「なぁ、本当にあの子が?」

「あぁ、闘技場で実際に戦ってる所を見たから間違いない……!」

「そうなのか……どうしよう、後で握手とかしてもらえるかな?」


(ソフィさんはソフィさんで、男の子から人気みたいですね。)


(まぁ、男ってのは強い人に憧れるもんだからな……)


(それで言ったらご主人様はソフィさんと戦って勝ったんですから、そこそこ人気があっても良さそうなものですけどね。)


(いやぁ、確かに勝ったけど王者にはなってないからなぁ……って、そんな事よりも問題なのはイリスだっての!ほら、見てみろあの目!ロイドの話なんかそっちのけで俺の方を……!ど、どうしよう?無視しても大丈夫だと思うか?)


(そ、それはちょっと……イリスさんが可哀そうですし、何よりもご主人様を慕っているからこそ見つめて来ているんですよね?それなら男としてきちんと反応するのが礼儀ってものだと思いますよ。)


(は、反応?急にそう言われてもな……)


 マホの提案にどうしたもんかと思いながら視線を少しだけ上げてみると、ねっとりとした瞳でこっちを見つめて来ているイリスと目が合ってしまった……!


「………うふふっ。」


「は、はは……」


(ダメだマホ、色々と怖い!あの目、まるで獲物を狙う捕食者だ!)


(……が、頑張ってくださいご主人様!えっと、もしもの時は優しく慰めてあげますから!)


(いやいや!もしもの時が起きる前に助けてくれよ!)


 応援してるフリをしながら俺を諦めようとしたマホに頭の中で助けを求めていると不意に誰かから名前を呼ばれた気がしたのでハッと意識を戻してみると……


「九条さん、大丈夫かい?何やらボーっとしているみたいだが、具合でも?」


「あっ、いや!大丈夫だ!それでどうしたんだ?」


「あぁ、実はこれから私達が初めて出会った時の事を話そうかと思っていてね。もし良かったら一緒に思い出してくれるかい。刺激に満ち溢れていたあの冒険を。」


「お、おう!分かった!えっと、確かお前と初めて出会ったのは……クエスト斡旋所だったよな?」


「うん、九条さんのパーティ募集の張り紙を私が見つけた事が始まりだね。そこからこうして一緒にギルドを組む事になるなんて……ふふっ、運命を感じてしまうよ。」


「「「「「きゃぁ~!」」」」」」


「おまっ、ちょっ!い、いきなりそんな小っ恥ずかしい事を言うんじゃねぇよ!」


「……ロイド、九条さんとの出会いは私の方が運命的だと思う。」


「ソ、ソフィさん!?」


「ふむ、それならばどちらが運命的だったか生徒の皆に決めてもらうかい?」


「ロ、ロイド!何をアホな事を言ってんだ!それよりも……!あの、ダンジョンの事とか説明をだな!」


「うふふ、ちょっと待ってくれませんか?その勝負、僕も乗らせて下さい。」


「イリス!?」


「九条さん……いいえ、九条先生の事について負ける訳にはいきませんから。」


「ふふっ、そうかい?」


「……負けない。」


「えっ、ちょっと皆さん?当事者である俺を放っといて、バチバチとするのは止めてもらえませんかね!?つーか冒険者としての講師活動は!?」


(あー……とりあえず、私は静かにしておきますね……)


 勝手に盛り上がり始めた3人と生徒達の声に俺の意見はかき消されてしまって……それから授業が終わるまでの間、逃げ場を失った俺は何とも言えない羞恥心に襲われながらこの地獄の様な時間が早く終わってくれる事を祈り続けるのだった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る