第15章 白銀の守護神

第394話

「……なぁ九条よ、わしらは何時まで病院におらねばならんのだ……?」


 病院の中庭にあるベンチに座って意気消沈しながら空を見上げていると、隣に居たレミがそんな事を言ってきたんだが………


「そんなの俺が聞きてぇよ……つーかさ、あの件ってマジで無理なのか?ほんの少しだけでも……ってか、せめてコアクリスタルのほうだけでも良いんだが……」


「ふぅ、お主も諦めの悪い男じゃな……武器が2つとも壊れてしまった事には同情をしてやるが、力の結晶もコアクリスタルも再び生み出すのにはそれ相応の時間が必要なんじゃと何度も言っておるじゃろうが……」


「やっぱりそうか……あーあー……どうしてこうなったかなぁ……」


 まさか虎徹丸と紅鬼の刀身が死神との戦いでどっちも粉々になっちまうなんて……一応、欠片らしき物は幾つか回収する事が出来たからソレを再利用して新しい武器を作れるかもって見舞いに来てくれたシーナと親父さんが言ってくれたけどさぁ………


「そう落ち込むでない……わしまで気分が沈んでくるじゃろうが……」


「そう言われてもなぁ…………」


「「はぁ………」」


「あっ、九条さんにレミさん。こんな所に居たんですね、探しましたよ。実は」


「ふっ!」


「逃がすかっ!!」


「ぐっ!離さんか九条!お主、こんな事をしてただで済むと思っておるのか!?」


「はっはっは!地獄に1人で落ちてたまるかよ!それに死地へ赴こうとしている奴を黙って見送る様な薄情者にはなりたくないんだろ!?さぁ、俺と一緒に行こう!!」


「いーやーじゃー!看護師!治療をするのは九条だけで良い!わしはもう見ての通りピンピンしておるからな!」


「そんな言い訳が通じると思うなよ!看護師さん!治療をする為に俺を病室に連れて行くならレミも一緒にお願いしますっ!」


「え、えっとぉ~………」


「ははっ、しばらくお会いしない間に随分と元気になられたみたいですね。」


「「……へっ?」」


 看護師さんに声を掛けられた瞬間に立ち上がったレミを逃がさない様に……ってか道連れにする為に手首を掴んでいると、背後から不意に聞き覚えのある声がしたのでそっちの方に2人揃って顔を向けてみるとそこには……


「エ、エリオさん!?どうしてここに……」


「驚かせてしまって申し訳ありません。実は九条さんとレミさんにお伝えしたい事が出来ましたので、今日はここに来たという訳なんです。」


「伝えたい事じゃと……?も、もしやとは思うが入院の期間が長引くといった話ではなかろうな!?もしそうならば、わしは今すぐ病院を抜け出すぞ!」


「いえいえ、そういう事ではありません。私が言いたい事はむしろ逆の事でして……実はつい先ほど、バルネス先生からお2人の退院許可を頂いてきました。」


「えっ!?た、退院許可って……それじゃあ、家に帰っても良いって事ですか?」


「はい、その通りですよ。」


「ほ、本当かエリオ!?その言葉に嘘や偽りはなかろうな?!」


「えぇ、勿論ですよ。」


 エリオさんに優しく微笑みかけられながらそう告げられた俺達は、ゆっくり視線を合わせると大きく腕を広げて……!


「レミ……!」


「九条……!」


 ヒシッという効果音がしそうなぐらい力強く互いの体を抱きしめ合い……それからしばらくしてから静かに離れていきエリオさんの方を見るのだった。


「……それにしても、どうしてエリオさんが退院の許可を?って言うか、治療の方はもう大丈夫なんですかね?いや、まだ入院していたい訳じゃないんですけどねっ!」


「ははっ、分かっていますよ。実は退院の日取りに関しては数日前に既に決まってはいたんですが、お2人を驚かせたくて黙っている様に頼んでいたんです。」


「な、なんじゃと!?どうしてその様な事を?!」


「すみません、ロイドから頼まれて仕方なく。」


「あぁ、なるほど……そういう事でしたか……」


「なんと……困った奴じゃな……まぁ良い、それで治療の方は?」


「そちらも問題はありません。ですが九条さんはまだ少しだけ傷が残っているという話だったので……看護師さん、お願いします。」


「はい。九条さん、こちらはバルネス先生からお預かりした塗り薬です。これまでの物とは違って効果は落ちますが、低刺激で傷薬としてもご利用できます。ですので、もしよろしかったらご使用になって下さい。」


「あっ、どうも……ってそうだ、帰れるなら病室に残してきた荷物を片付けないと!色々と持ってきてるから運び出せるものを用意して……いや、そのまえに連絡……」


「九条さん、荷物はこちらの方で片付けをして自宅の方にお送りしますのでご安心をしていただいて大丈夫ですよ。それよりもこの後の予定になるんですが、レミさんと我が家に来て頂いてもよろしいですか?色々とお話したい事がございますので。」


「は、はぁ……分かりました。それじゃあ、えっと……看護師さん、バルネス先生に別れの挨拶していきたいんですけど今って大丈夫ですかね?」


「はい、この時間なら問題ないと思いますよ。」


「そうですか、ありがとうございます。レミ、一緒に来るか?」


「うむ、礼も言わずに立ち去るのは良くないからのう。そんな訳じゃからエリオよ、すまぬが少しだけ待っていてくれるか。」


「分かりました。外の方に馬車を停めてあるので、挨拶が終わったら来て下さい。」


「あぁ、それでは行くとするかのう。看護師よ、これまで世話になったな。」


「いえいえ、それでは九条さんもレミさんもお元気で。また怪我をしたりして病院のお世話にならない様にして下さいね。」


「あはは……気を付けます……」


 看護師さんの言葉に苦笑いを浮かべながら中庭を後にした俺達は、バルネス先生に感謝を伝えて別れの挨拶をして病院を出て行くと外で待ってくれていたエリオさんと一緒に馬車に乗り込んでいき彼の屋敷へと向かって行くのだった。

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