第393話

「……もう嫌じゃ……あんなマズイ薬はもう飲みたくないわ……」


「お前はまだ良い方じゃねぇか……こっちには激痛の走る塗り薬があるんだぞ……」


「2人共、文句を言わないで下さい!飲み薬の方は失った体力と魔力の回復の為に、塗り薬は傷跡を残さない為の物なんですからね!」


「そ、それならそれで……もう少し優しめの薬をくれよ……」


「ダメ、それだとお仕置きにならない。」


「うぅ……酷い仕打ちじゃ……絶対にそっちが目的なんじゃろうが……」


「ふふっ、確かにそんな思惑もあったりするけれど薬がよく効くのは本当だからね。そんな訳ですまないが、もうしばらくの間は我慢してくれるかい。」


「「……はぁ~……」」


 バルネス先生と看護師さん達による治療が終わってから数時間後、ロイドに微笑みかけられがらそう言われてしまった俺とレミは夕日が差し込んできている病室の中で2人揃って肩を落としながらため息を零すのだった。


「ほらほら!何時までも落ち込んでないで、元気を出して下さいよ!って、そうだ!おじさんとレミさんに幾つかご報告しなければならない事があるんでした!」


「……ん?報告って……なんの?」


「あぁ、それについては私の方からご説明致します。実は今回の事件を引き起こしたアレクシス親子の事なのですが、彼らが裏で繋がっていたとされる者達の情報が私の所に送られてきたんです……1通の手紙と共に。」


「えっ!それってつまり、犯罪者達の情報って事ですよね?そんなの誰が……」


「それがですね!仮面のメイドさんからなんですよ!」


「はっ?アイツが?どうしてまたそんな事を……ってか、何の目的で?」


「お詫び……そして九条さんとレミさんに対する感謝の印として、悪い人達の情報を集めてきてくれたみたいですよ。」


「……どういう意味じゃ?あやつに感謝される覚えは無いぞ。お主はどうじゃ?」


「いや、俺も心当たりはないな……確か、手紙が添えられてたんですよね?そこには何が書いてあったんですか?」


「そうですね……後で手紙をお渡ししますが簡単に要約させて頂きます。まず初めに書いてあったのは今回の騒動で何の役にも立てなかったというお詫びの言葉……その次に命懸けで事件を解決してくれた事に対する感謝の言葉がつづられていました。」


「ほほぅ……って、仮面のメイドが感謝をしている理由がいまいち分からんな。別にあやつが被害を受けたとかそういった事は一切なかったはずじゃろ?」


「あぁ、そのはずだけど……そこまで気にしなくても良いんじゃねぇか?そもそも、アイツの素性すらよく分かってない訳だしさ。気にするだけムダだろうぜ。」


「……うむ、それもそうじゃな。ではエリオ、話の続きを頼んでもよいか。」


「分かりました。現在、私達は仮面のメイドさんから貰った情報を元にして警備隊と連携を取りアレクシス親子と繋がっていた者達を捕まえる為の準備を始めています。その為、カームには色々と動いてもらっている状況です。」


「へぇ……あっ、だから今日はご一緒じゃなかったんですね。」


「はい、それでカームからお見舞いに行けず申し訳ありませんとの伝言が……それとロイド様を救っていただきありがとうございました、との事です。」


「ふっ、別に礼など良いと言うのに律義な奴じゃのう。」


「まぁな……むしろ感謝したいのはこっちの方だってのになぁ……」


「おやおや、それは屋敷を抜け出す所を見逃してくれた事についてかな。」


「…………あれ?もしかして……カームさんから………全部、聞いてる?」


「勿論、それとレミからも……森の奥で何があったのか色々と聞いているよ。」


「な、なるほどぉ………そうかそうか……聞いちゃったかぁ………」


 ん~?おかしいなぁ……さっきまで許された的な雰囲気だったのに、またまた皆が怖い目つきで俺の事を睨んでいる気がするぞ?


「……すまん、あまりの迫力に全て白状してしまった……」


「……その迫力ってのは……今の状態みたいな事か……」


 だとしたら、レミを責めるのは……どう考えてもムリだよねぇ……だってもう……胃がキリキリするぐらい怖いんですもの……!皆、笑顔なのに……おかしいね……!


「……まぁ、おじさんには退院後に色々覚悟しておいてもらうとして……レミさん、幾つか聞きたい事があるんですが良いですか?」


「な、なんじゃ?」


「ご主人様の腕、悪い神様に斬り落とされたって言ってましたけど……ソレって本当なんですか?バルネス先生はそんな傷跡は見当たらなかったって言ってましたよ。」


「あ、あぁそれは当然じゃ!なにせこのわしが治したんじゃからな!半端な事をして今後の日常生活に影響を残す訳にはいかんから、完璧に治療してやったわい!」


「……要するに、腕については大丈夫って事か?」


「その通りじゃ!ついでに言うと、お主に与えた悪しき神の力は綺麗さっぱり浄化をしてあるから体を乗っ取られるだとかの心配は不要じゃ!」


「そ、そうか……って、体を乗っ取られる可能性があったのかよ!?危ねぇな……」


「だからその心配は不要じゃと言っておるじゃろうが!まぁ、もし不安に感じておるならば念の為に聖水を用意してやっても良いが……」


「あっ、それじゃあお願いしますレミさん!もし悪い神様に体を乗っ取られるなんて事があったら、おじさんはきっと黙って私達の前から居なくなりますから!」


「い、いやいや!それは流石に考えすぎ………はい、黙ってまーす……」


「……確かにマホの言う通り、九条さんは私達の前から消えるだろうね。」


「うん。何の手掛かりも残さずに居なくなると思う。」


「そんな訳なので、聖水をたっぷり用意してあげて下さいっ!おじさんの体を綺麗にする為にも!」


「その言い方だと、俺がめっちゃ汚れてる的な意味合いに聞こえるんですが……」


 って言うか、どうして満場一致で俺が居なくなることが決まってるのかしらねぇ?そんなに俺って信用無い?別に自己犠牲が大好きな訳じゃないよ?知ってる?


「……分かった。それでは後でわしの病室に聖水を入れる容器を持ってきてくれ。」


「はい!おじさん、心も体も頑張って綺麗になりましょうね!」


「いや、だからね…………うん、もういいや……」


 色々と諦めてベッドに倒れ込んだ俺は、皆の話し声を聞きながらずっと続いてきたイベントが終わっていくのを肌で感じながら静かにため息を零すのだった。

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