第391話

「あー……えっと………落ち着いた……か?」


「………うん………すまなかったね………」


「いや、別に…………」


「………………」


 うおぉ……き、気まずい……!どうやってこの状況を打開すれば良いんだ……!?自分のせいで泣いてる女の子を慰める方法とか学校で習った事が無いんですけど?!しかもその……なんだ……今のロイドには…‥庇護欲をそそられる様な可愛さが……ってそうじゃねぇだろ!バカな事を考えてないでこの空気を何とか……!そうだっ!


「そ、そう言えば!まだ聞いてなかったんだが、ここって一体何処なんだ?見た感じ病院なんじゃねぇかなーって思ってるんだが………」


「……その通りだよ……ここは大怪我をして命の危機に瀕している急患の治療を主にしている貴族街の病院だ……」


「へ、へぇー……そうなのか……って事はつまり………なるほど………‥」


「………………」


 ヤ、ヤバい!完全に自爆した!部屋の中の空気が更に重たくなって……うぅ………心臓と胃がキリキリしてきやがった……!と、とりあえず別の話題に逃げなくては!


「あ……あー……その……なんだ?お、俺ってさ……どうやってここまで来たんだ?気づいたらベッドの上だったんだが……それにレミの奴は何処に………」


「……2人を病院に連れて来たのは……私達だよ……」


「そ、そうだったのか……えっと………なんだ…………あ、ありが」


「私達がっ!」


「うおっ……ロ、ロイド……?」


「………私達が……森の奥で……ボロボロになって倒れている2人を発見した時……どんな気持ちだったか分かるかい……?」


「…………ぁ………」


「レミは幾ら呼びかけても目を覚まさないし……く、九条さんは………赤く染まった地面の上で………倒れていて…………!」


「………………」


「私……目の前が真っ暗になって………本当に………怖くて…………!」


 震える声でそう告げたロイドは、自分の体を抱きしめながらうつ向いていって……小さな水が……ぽたぽたと足元に落ち始めて…………


「…………心配を掛けて………悪かったな………」


「う……うぅ……‥……」


 謝る以外の言葉を口に出来なかった俺はしばらくの間、ロイドが泣き止んでくれるまで静かに待つ事しか出来なかった………そして………


「……落ち着いたか……って、この台詞も2回目だな。」


「す、すまない……どうにも感情が上手くコントロール出来なくて………」


「まぁ、病み上がりなんだから仕方ないだろ。ってか、まだ聞いてなかったが俺ってどれぐらい寝てたんだ?今の時間から考えると……5,6時間ってところか?」


「いや……3日だよ。」


「………はっ?み、3日って……えっ、冗談だろ?」


「ううん……冗談でも何でもないよ。レミはここに運ばれて来た翌日に目を覚ましたけれど、九条さんはそれだけの期間を眠り続けていたんだ。」


「マ、マジかよ………」


 これまでにも何度か意識を失った覚えはあるが……それだけヤバい状態に陥ってたって事なのか……本当、主人公でも無いのによくまぁ生き残ったもんだぜ………


「って、そういや……ロイド、どうしてこんな朝早くにお前がここに居るんだ?何か用事でもあったのか?」


「ふふっ、その通りだよ。九条さんのお見舞いに来るっていう大事な用事がね。」


「あ、あぁ……そうなのか………でも、流石に早すぎないか?」


「うん……でも、どうしても……九条さんの近くに居たかったから……」


「ほっ!ふ、ふ~ん……そうなのね……それは、どうも………」


 ちょっ、いきなり美少女の顔で微笑みかけてくるのは止めてくれませんかねぇ!?不覚にもドキッとしてときめいちまったじゃねぇか!ったく………


「さて、それじゃあ少しだけ失礼させてもらうよ。実家に連絡をして九条さんが目を覚ました事を皆に伝えないといけないからね。」


「えっ!?い、いやそれはまだちょっと早いと言うか……だってほら!絶対にマホやソフィに怒られちまうと思うし、もう少しだけ心の準備をだな!?」


「ダメだよ、2人共とっても心配していたんだから。」


「そ、そこを何とか!ほら、後で何でもしてやるからさっ!なっ!」


「……その言葉、偽りは無いかい?」


「あ、あぁ勿論だとも!だから頼む!せめて夜が明けるまでの間、それまでは連絡をしないでいてもらえると……な?」


「……ふふっ、分かった。それなら夜が明けるまで……2人だけで話をしようか。」


 そう言って優しく微笑みかけてきたロイドに感謝をしながらホッと安堵のため息を零した俺は、窓の外が明るくなるまで話を続けるのであった。

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