第392話

 夜が明けてロイドが実家に連絡を取ってから数十分後、俺は飛び込む様に病室までやって来たマホとソフィにめちゃくちゃ怒られまくっていた……!


「本当に……本当に心配したんですからねっ!お、おじさんにもしもの事があったらわ…私……!もう、おじさんのバカッ!どうしていつも無茶ばかりするんですか!」


「……………………」


「わ、悪かった!謝るから泣きながら殴らないでくれって!それにソフィも目に涙を溜めながら睨むのは……あっ、ちょっ!待って!拳を振り上げないでお願いっ!」


「う、うふふ……良かった…‥九条さんがご無事で……本当に……」


「あぁ、そうだな……!」


「あの!嬉しく思ってくれているのは非常にありがたいんですが、マジでこの2人をどうにかしてくれませんかね?!ロイド!お前も笑ってないで何とかしてくれ!」


「ふふっ、感動の再会を邪魔するなんて私には出来ないかな。マホとソフィの愛情、シッカリと受け止めてあげるんだね。」


「いやいや!これが愛情なんだとしたら流石に痛すぎっていたたたた!!」


「もう!もうっ!今度ばかりはどんなに謝っても許しませんからね!ロイドさんの為とはいえ黙って居なくなるなんて……私達がどんな思いだったか分かりますか!?」


「だから、それについては本当に悪いと思ってるって!けど、こっちにも色々と事情みたいなものがあってだな!」


「知りません!うぅ……おじさんのバカ!うぅ、うあああああああああああん!!」


「……………………」


「ま、待て待て!そんな泣くなってマホ!ソフィもほら!俺、生きてる!な、なっ!あぁもう……マジで助けてくれ………!」


「うふふ、仕方ありませんね。マホちゃん、泣きたかったら私の胸の中にどうぞ。」


「うっ、うああああああああ………‥」


「はーいはい、よしよし……もう大丈夫、安心してね。ソフィちゃんも、良かったら私の隣にいらっしゃい。」


「………うん………」


「うぅ……ひっく………ひっく…………」


「おぉ……カレンさん、マジで凄いな……」


「ふふっ、流石は母さんだね。さてと、それじゃあ2人が落ち着きを取り戻すまでの間に……父さん、九条さんに話しておきたい事があるんだろう。」


「……うむ、そうだな。」


 小さく頷きながらそう返事をしたエリオさんは真剣な表情を浮かべながらこっちに向かって歩いて来ると………へっ?


「九条さん……私達の大切な娘を……そしてトリアルの住人達を…………命を懸けて護っていただき………本当に……本当にありがとうございましたっ……!」


「い、いやいやそんな!お礼なんていいんですから!だってその……今回は皆さんに黙って勝手に動いてしまった訳ですし……ヘタをしたら、もっと最悪な状況になった可能性もありますから……だから深々とお辞儀なんてしないで下さいよ!」


「……例えそうだったとしても、貴方が私達にとって命の恩人なのは変わりません。だから何度でも言わせてもらいます……本当に、ありがとうございました。」


「あ、いや……はぁ…………」


「ふふっ、父さん。九条さんが恥ずかしくて困っているみたいだから、それぐらいで勘弁してあげてくれるかい。」


「……分かりました。ですが、このご恩は必ず返させていただきますね。」


「あ、はは……承知しました……」


 ロイドのおかげで何とか頭を上げてくれたエリオさんと目を合わせながら苦笑いを浮かべていると急に扉が開いて……丸眼鏡をかけた白衣姿のやせ細った男性が怪しく微笑みながら看護師らしき女性を数人連れて病室の中に入って来た……?


「んっふっふ~、ご歓談中の所を失礼致しますよぉ。」


「おや、バルネス先生。どうかなさったんですか?」


「いえねぇ、驚異的な速さで目を覚ました患者さんにご挨拶をと思いまして……」


「う、うぉっ!え、えっと……顔が近いんですが………」


「ん~………失礼しました。初めまして九条透さん、私の名は『バルネス』。貴方の治療を担当させていただいた者です。以後、よろしくお願いしますねぇ。」


「は、はぁ………」


 おいおい冗談だろ……?この、いかにも裏でヤバそうな実験をしてた人が俺の事を治療した先生だって言うのか?だ、大丈夫なのかよ……色々と………


「おやおや、どうやら私の事を不審に思っているみたいですね。」


「へっ!?あ、いやそんな!」


「んっふっふぅ~別に隠さなくても大丈夫ですよ。怪しまれるだけの自覚はありますからねぇ。ですが、ご心配しなくてもダイジョブですよぉ。患者さんの事を第一に、それが私の信条ですからぁ。」


「そ、うなんです……か?」


「はぁい……いやぁ、しかし九条さんが目を覚ました事は喜ばしい限りなのですが、少しばかり運が悪いと言わざるを得ませんかねぇ……」


「は、はい?運が悪いって、一体どうしてそんな……」


 いきなりの不運発言に漠然とした不安を感じた次の瞬間、突然バルネスという名の医師が手を叩いたかと思ったら廊下の方からワゴンみたいな物が運ばれてきて……?


「んっふっふ、ロイド様から聞きましたよぉ。九条さんは体に傷跡が残る事を非常に嫌がっていると……だから今回は、特別な塗り薬をご用意させていただきました。」


「へ、へぇ~そうなんですかぁ………で、それがどうして運が悪いと……?」


「いえねぇ、実はコレ王都から取り寄せた物なんですがぁ……」


「九条!わしを助けて、げっ!?お、お主は……!」


「レミ!?お前、どうしてここに……」


「おやおやぁ、レミさんじゃないですかぁ。もしかして、またまた病室を抜け出して来ちゃったんですかぁ?全く、ダメなお方ですねぇ……連れて行きなさい。」


「かしこまりました。」


「くっ!は、離せ!離してくれ!頼む九条!わしを助けてくれ!もう嫌なんじゃっ!あんな、あんなものを口に……あ、あ、いやじゃああああああああ!!!!!!」


「ふぅ、レミさんには困ったものですねぇ……さて、それでは話の続きですが」


「い、いやいや!流石にアレは無視できませんよね!?お前達もどうして平然としていられるんだよ!?」


「ふんっ、アレはレミさんのお仕置きみたいなものですから知りません!」


「お、お仕置き!?って、それじゃあまさか………」


「嫌ですねぇ、九条さん。そんな訳ありませんよ。私達はただ、適切な治療を行っているにすぎないのですからぁ。では、話に戻りますねぇ……この塗り薬なのですが、非常によく効いてどんな傷も綺麗に治るという素晴らしい物なのです……が……」


「………が?」


「これがまた、とぉ~っても傷に滲みるんですよぉ……それはもぅ~ひじょ~に……な~の~で~……やっちゃって下さい。」


「かしこまりました。」


「あ、あ、あの!ど、どうして俺の手足を拘束するんで、ですか?」


「んっふっふ、痛みのあまり暴れられてしまっては治療が滞ってしまいますから。」


「な、なるほどぉ!でも、でもアレかな!こ、今回の傷は強敵と戦った勲章みたいな感じなので、このまま残ると言うのも有りかな!皆もそう思うよなっていねぇ!?」


「皆様なら、先ほど病室を後になさいました。また、数時間後に来るそうです。」


「いやいやいや!どうして数時間後?!それって俺が気絶する事を前提にしてるって意味じゃないんですか?!あっ、ま、待って!そんなに両手に塗りたくらなくても!や、止めて!近寄って来ないで!あ、あ、アアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

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