第11章 中二病患者の夏休み
第277話
疲れた体を癒しながら数日掛けて旅行の後片付け終わらせた俺達は、頼まれていた素材とレミから貰った黒い結晶と金色と紫色のコアクリスタルを持って加工屋に行きシーナと親父さんにそれらを見せてみたのだが………
「うぇええええええええ!?ちょ、ちょっと九条さん!何なのさコレ!?もうマジでヤバすぎなんですけど?!え、これ現実?え、もう訳が分かんなくなってきた!?」
「やかましい!店の中で騒ぐんじゃねぇ!」
「いやいやそれは無理だって!だってこんな……こんな上質な素材が3つもあるのに落ち着いていられるはずないじゃんか!って言うかもう……最っ高……!」
シーナは3つの素材を手に取り見つめながらうっとりした表情を浮かべていて……何と言うか………いや、これ以上は考えるのを止めておこう……どう取り繕ったって良い感じの言葉が思いつきゃしないからな!
「ったく……それにしても九条さん、こんな最上級レベルのコアクリスタルや鉱物を一体何処で手に入れてきたんだ?」
「それはその……あんまり聞かないでくれると助かります……あっ、言っときますが違法な手段で手に入れた訳じゃないですからね!そこだけは信用して下さい!」
「別にそっちの心配はしちゃいねぇけどよ………九条さん、本当にこの素材の加工をウチの店で頼むつもりなのか?」
「えぇ、そうしたいと思ってたんですけど……何かマズいですかね?」
俺がそう問いかけると親父さんは腕を組んで難しい顔をすると、静かに目を閉じて顎髭を触りながら唸り声を上げ始めた……
「そう言う訳じゃ無いんだが……これだけの素材、加工をするとなるとかなりの額になっちまうな。」
「ふむ、どれだけの額になるのだろうか?」
「そうだな……ざっと計算して結晶の加工に30万、コアクリスタルの方は20万は掛かるだろうな。」
「えっ、そんなにお値段がするんですか?!おじさんの武器をコアクリスタルで加工する時はもう少しお安かったと思うんですけど……」
「前回のコアクリスタルは低品質でかなり小さかったからな。それに加工に関してもウチにある道具だけでどうにかなったから、それなりに安い値段だったんだよ。」
「……今回はそうじゃないの?」
「あぁ、こんだけ上等な素材を加工するってなるとウチの店にある道具だけだったら厳しいだろうな……それなりの道具、設備を用意しねぇと素材をダメにする可能性があるのは間違いない。」
「なるほど……」
「新米冒険者ばっかりのこの街だとそこまで上等な道具も設備も必要が無くてな……悪いが、ここで加工を頼むとなると手間賃や何やらでそんぐらいの額になっちまう。まぁ、アンタらにそんな負担を掛ける訳にはいかないから別の案はあるんだが……」
「別の案……って、それはどんな?」
「簡単に言っちまえば王都の加工屋に頼むって事だ。色んな客を相手にしてるだろうから道具も設備もバッチリ揃ってってうぉ!?」
「なっ、何を言ってんのさ親父!私はそんなの絶対に認めないからね!こんな上質な素材を何処の馬の骨とも分からない加工屋に任せるなんて嫌なんだから!!」
「
「うぅ……でもでも!」
「でもじゃねぇ!ほら、九条さんに素材を返すんだ。」
「ぐ、ぐぐぐぐっ………!く、九条さんは私の意見に賛成してくれるよね!」
「へっ!?ちょ、うぇ?!」
シーナは悔しそうに呻きながら親父さんを睨みつけた後にバッと俺の方を見ると、物凄い勢いで駆け寄って来ると俺の手をギュッと握り締めて顔を近づけてえええ!?
「九条さんだってこれまで仕事を頼んだ事の無い見知らぬ加工屋に仕事を頼むより、こんなに可愛い美少女職人が居る加工屋に仕事を依頼したいって思うよね!ねっ!」
「あ、いや!そ、それは何と言うか!ってかちょっとマジで近いから!!マホ!頼むからシーナを!」
「うーん……私にはどうこう言う権利は無いので頑張ってください!」
「マホさん!?じゃ、じゃあロイド!ソフィ!」
「ふふっ、私はこの店以外で加工を頼むつもりは無いよ。金額に関してもそれなりに貯金があるから問題なく支払えるしさ。」
「私もここで依頼する。お金についても問題なく払える。」
「ほらほら!後は九条さんがうんって言ってくれるだけなんだって!お願い!絶対に満足いく、ううん!それ以上の物を造り上げてみせるから!だから!」
「わ、分かった!この店で加工を依頼するから!だからグイグイ近づいて来るな!」
「ほ、本当!やったぁ!!九条さん、大好き!愛してるよ!」
「ちょ、うぇええええ?!?!!!」
え、抱き着かれたっ!?何これ!?どういう状況?!ってか何かとっても柔らかいのが体に密着して心臓ががががががががががが!?!??!?!!
「いい加減にしろこのバカタレがぁ!!!」
「あいってえええええ!!?!」
「おら、九条さんからさっさと離れろ!!」
「あぁそんな!まだロイドさんとソフィさんに感謝を伝えてないのに!」
「おやおや、九条さんの次は私達だったのか。これは残念だね。」
「……私はホッとしてる。」
「……おじさんは死にかけていますね。」
「はぁ……はぁ……今、人生で経験した事の無い様な感覚が………あ、あの柔らかいのは……も、もしかして!?」
「ていっ!」
「ってぇ!………マホ?」
「おじさん、色々と大丈夫ですか?」
「……あ、あぁ……何とかな………」
「それでしたら、お仕事の話に移った方が良いと思いますよ。」
「そ、それもそうだな………」
バクバクと激しく動いてる心臓を落ち着ける為に何度か深呼吸を繰り返した俺は、左胸を軽く叩いてからシーナを捕まえている親父さんと目を……合わせ………て?
「……九条さん、仕事を受ける前に1つだけ言っておく事がある。」
「は、はぁ……それは……?」
「……娘が言った大好きだのって言葉の意味は親愛であって決して男女間のソレではないからな!良いか、絶対に勘違いするんじゃねぇぞ!!!」
「は、はいいいい!!!!」
怖っ!?え、ちょっとマジで目つきが殺意に満ち溢れているんですけど!?マジでヘタすりゃ殺されそうな感じってかさっきのとは別の意味でドキドキするんだが?!いやでも、もしかしたらって可能性が無い事も……
「んー!もう、そんなの九条さんに言わなくても分かってくれてるって!ね?」
「あ、も、勿論だよ!……うん……勿論………理解……してる……」
まぁ……現実なんてのはそんなもんだよな……だけど、女の子から生まれて初めて大好きと愛してるを言われたのは大切な思い出として取っておこう!!
「……九条さん、ハンカチを使うかい?」
「い、いらねぇよ!それよりもほら、さっさと依頼の話をするぞ!」
「おっと、そうだったなぁ!それじゃあこの素材をどうやって加工して欲しいのか、詳しく教えてくれるか!」
「は、ははは……分かりましたよ……」
……露骨に機嫌が良くなった親父さんに少しだけイラっとしながら無理やり笑顔を作った俺は、ポーチの中から一枚の紙を取り出して受付の上に置いた。
「えっと……九条さん、これは?」
「それは、俺が加工して作って欲しいと思っている物だ。」
「ほほう、どれどれ…………ふむ、これはもしかして武器か?」
「えぇ、今回はその黒い鉱石を使ってその武器を作って欲しいんです。」
「なるほど……ここに描かれている武器を………」
「うーん……ねぇねぇ九条さん、これって何て言う名前の武器なの?こんな形をした武器は初めて見るんだけど……」
「あぁ、それは刀って名前の武器だよ。」
「は、えぇっ!?」
「おや、いきなりどうしたんだいマホ?」
「い、いえ!何でも!……そ、それよりもおじさん!本当にソレを作って貰うつもりなんですか?」
「勿論だ!男ならば誰しもが憧れた事のある武器………ソレを手が手に入るかもしれない絶好の機会を俺が逃すはずないだろうが!」
その為に経験値10倍の力を利用して俺の画力をメチャクチャ上げたんだからな!おかげで幼稚園児の落書きレベルから神絵師……よりちょっと劣るぐらいまでに成長する事が出来たぜ!……何と言うか、力の無駄遣いって気がしないでもない!
「はぁ……おじさんの使う武器ですから別に良いんですけどね………」
「おう!それじゃあ、この絵を参考にしてコレを作って下さい!」
「あいよ……こりゃ久しぶりにやりがいのある仕事になりそうだぜ。」
「親父!」
「叫ばんでも分かってる。ただ任せる以上、半端な物は作るんじゃねぇぞ。」
「了解!……それじゃあ次はロイドさんとソフィさんだね!2人はコアクリスタルを使って加工をするって事で良いのかな?」
「あぁ、私達はその素材を使ってくれ。」
「うん、分かった!それで?この素材を使って何を作るの?」
「それなんだが………そのコアクリスタル、武器を強化したりするのにも使えたりはするのかい。」
「当然!九条さんが使ってる武器もコアクリスタルで強化したからね!」
「ふむ、それならばこの武器の強化を頼めるだろか。」
ロイドは腰からぶら下げていたブレードを鞘に納めたまま取り外すと、凄く丁寧に受付の上に置くのだった。
「これって……ロイドさんがいつも使ってるブレードだよね?」
「あぁ、それは私が冒険者になった時に父から譲り受けたものでね。それ以外は使うつもりが無いからコアクリスタルで強化して欲しいんだ。」
「へぇ、なるほどね!そう言う事なら任せといてよ!バッチリ強くするからさ!」
「ふふっ、楽しみに待っているよ。」
「よぉし!それじゃあソフィさん、アナタはどうするの?武器を作る?それとも腰にある2つのショートブレードを強化する?」
「私も強化。」
「分かった!……もしかして、それも大切な人から貰った物なの?」
「……ぱぱとままから貰った。」
「きゃー!なんかもうソフィさんって可愛いすぎる!これはもう本気を出して強化をするしかないね!」
「うん、よろしく。」
ソフィは腰にあった2つの武器を静かに外してシーナに手渡すと、受付から離れて店の中を歩き回り始めた……恐らく、代わりになりそうな物を探しているんだろ。
「さてと、それじゃあ料金についてなんだが最初に説明した通り……って言いたい所だが、九条さんのは1から作る必要があるから少し値段が上がっちまうぞ。」
「あぁ、分かりました。それで幾らになるんですか?」
「料金は九条さんが35万G、ロイドさんとソフィさんは変わらず20万Gだ。」
「5万も上がったか……まぁ、それも仕方がないか。」
「あっ、そうだ九条さん!クアウォートで集めて貰った素材で作ったアクセサリーは欲しくない?今ならお安くしておくし、マホちゃんにピッタリのを用意するから!」
「え、そんな!おじさんに悪いですよ!」
「……よしっ、そんじゃあ2万ぐらいで良さそうなのを作ってくれるか?」
「ちょ、ちょっとおじさん!今回はお金をいっぱい使ったんですからこれ以上は!」
「まぁまぁ、俺が欲しいと思っただけだから気にするな。」
「……もう、おじさんったら。」
「えへへ、毎度あり!」
「おう!ただその……支払いはまた後で良いか?ちょっと銀行に行って金を下ろしてこないといけないからさ。」
「うん、流石に30万もの大金を持ち歩いているとは思わないもん!」
「ははは、助かるよ……あっ、それと聞いておきたいんだが頼んだ物が仕上がるのはどれぐらい先なんだ?」
「えーっとねぇ……どれぐらいだと思う、親父?」
「そうだな……道具と設備を買い揃えるのに4,5日ぐらい掛かるとして……多分、全ての品が仕上がるのは1ヶ月ぐらい後って所だな。」
「ふむ、やはりかなりの日数が掛かるみたいだね。」
「これだけ上質な物を加工するとなるとやっぱりなぁ……仕事が終わったら手紙でも送らせて貰うからその時になったら取りに来てくれ。」
「分かりました。それじゃあ銀行に行ってきます。」
「あいよ、また後でな。」
「絶対に後悔させない物を作るから、楽しみに待っててよね!」
やる気に満ちた職人2人に見送られながら店を出て行った俺達は、銀行で言われた通りの額を引き下ろすと正式に加工の依頼をするのだった。
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