第264話

(ご主人様!来てます!攻撃がすぐそこまで迫って来てますって!!!)


「うおっと!?!ちょ、神様がこんなに強いとか聞いて無いんですけど?!」


 触れたら問答無用で吹っ飛ばされてしまう水の塊と足元を狙う様に出現する水柱を連続して避けまくっていた俺は、何とか神様に攻撃を加えて光の中にある何かを奪い取ろうと頑張っていたのだが……!


「はっはっは!この程度の攻撃に手こずっている様では試練が終わらぬぞ!」


「ちくしょう!魔法は咆哮一発でかき消されちまうし、普通の攻撃は体を水に変えてかわされるってマジでチートすぎるだろ?!」


(しかも神様を出し抜いて光に接近出来たとしても、その瞬間に水の防壁が出現して邪魔をしてくるからね!流石は神様だと感心するしかないよ!)


(いや褒めてる場合か!さっさと打開策を考えないと体力と魔力が切れちまうっ?!)


 すぐ目の前に出て来た水柱を横に避けたと思ったその瞬間、神様の尾が急接近しているのが見えたから反射的にショートブレードで斬り付けようとしてしまった!


「ぐはっ!!」


 水に変化して攻撃を避けられたと理解した瞬間には尾が腹部にぶち当たっていて、痛みと衝撃が体に襲い掛かってくるのと同時に俺は後ろの方に浮き飛ばされていた!


「危ないっ!」


 歯を食いしばりながら何とか魔法を使おうとしていたその時、俺の体を突然強烈な風が包み込んでくれて落下時の衝撃が最低限に抑えられるのだった。


「ぐっ……!あ、ありがとうなライルさん……おかげで助かったよ。」


「い、いえ!九条さんがご無事で何よりです!」


(あっ!水が飛んで来てますよご主人様!!)


 マホの声にハッとして神様の方に目を向けると幾つかの水の塊がこっちに向かって飛んで来ていた!?


 慌てて立ち上がった俺はライルさんの腕を引いてそれらを避けようとしたんだが、腹部に残った痛みのせいで動きが遅れてしまい最後に飛んで来ていた攻撃をかわす事が出来なっ?!


「くらいなさい!」


「ハアッ!」


「フッ。」


 ライルさんだけでも助けようと考え腕を引く手にグッと力を込めた瞬間、目の前に魔方陣が出現して水の塊を一瞬にして凍らせたと思ったら瞬く間に粉々に砕け散ってしまっていた!


「ふぅ……大丈夫かい、2人共。」


「は、はい!皆さん、ありがとうございました!」


「ありがとうな。」


「おーっほっほっほ!当然の事をしたまででしてよ!」


「気にしないで。それよりも今は作戦を考えるのが先。」


「……だな。」


 ライルさんの腕から手を放して改めて皆と共に神様に向き直った俺は、武器を構え直してどうにか現状を打開しようと考えてはみたんだが………


(ヤバいね!どうやってもあの光の中の物を取れる気がしないぜ!)


(ちょ、ご主人様!?何を言ってるんですか!?ふざけてる場合じゃないですよ!)


(別にふざけてる訳じゃねぇよ!でも水着姿で神様に挑んでるって今の状況を冷静になって考えてみたらもう絶望感しかしてこないんだよ!?っていうか、何なのこれ?マジでどういう縛りプレイですか?!俺ってマジでバカなんじゃねぇの?!)


(もう!そんな事は後で後悔して下さい!今は目の前の試練をどう乗り越えるのかを必死になって考えて下さい!)


(そんな事を言われてもって!?)


「神様が来ますわ!皆さん逃げて下さい!」


 リリアさんの言葉を合図にその場から走り出した直後、俺達がさっきまで立ってた場所に大口を開けた神様の様な形をした水が突っ込んできていた!?


「おいおい?!神様ってこんな事まで出来るのかよ?!」


「はっはっは!まだまだ驚くには早いぞ!さぁ、これでどうじゃ!」


 部屋中に響き渡るぐらいの大声で神様が叫んだと思ったら手の形をした水が俺達に向かって次々と襲い掛かってきやがった!


「くっ!まさかこんな芸当まで隠し持っていたなんてね!」


「避け切れない訳じゃ無いけど面倒……!」


「これではキリがありませんわ!早く何とか致しませんと!」


「で、でもどうすれば良いんでしょうか!?」


(あの光の中の物を手に入れたら試練をクリアしたって事になるんでしょうけれど、剣も魔法も神様には通用しませんよ?!)


(分かってる!だからさっき軽く絶望したんだろうが!)


(でも、だからと言って諦めるつもりはないんだろう!)


(当然!ここまでやられて引き下がれるかってんだよ!)


(じゃあどうするの?)


(まだ分からん!だから今はとにかく逃げ切れ!そんで隙を見つけたら行動するぞ!)


(ふふっ、了解した!)


(それじゃあ、私から行ってくる。)


 素早い動きで向かって来る水の手を斬り倒して瞬時に姿勢を低くして神様を眼前に捉えたソフィは、氷を撃ち出すのと同時に力強く地面を蹴って一直線に走り出した!


「正面から向かって来るとは面白い!じゃがそれは無謀と言うものじゃ!」


 全身がビリビリする様な大きな咆哮で襲い来る氷の槍を一瞬でかき消した神様は、メチャクチャ長い尾を上げるとソフィに向かって振り下ろして行った!


「援護しますソフィさん!」


 ロイドとリリアさんに護られているライルさんが杖を両手で握り締めてそう叫んだ直後、全身を風に覆われたソフィは尾をギリギリの所でかわして飛び上がって行った!


 しかしそれも想定済みだったのか神様は体を変化させてソフィの攻撃をあっさりと避け切って反撃を……って、うえええええっ?!


「なんじゃと!?」


 驚きの声を上げる神様の視線の先には、水の防壁を足場代わりにして更なる攻撃を仕掛けようとしているソフィの姿が!


「っ!そうだ!」


 その光景が目にした瞬間にある思い出が頭の中に浮かび上がってきた俺は、武器を持ってない方の手を神様の方に向けてその周囲に魔方陣を大量に出現させた!


(ご主人様?!一体何を!)


(数日前にやったクエストの再現だよっと!!)


 ソフィが手にしたショートブレードを構えて神様に向かって行ったが見えた俺は、魔方陣から水の足場を生み出して次の攻撃に繋がる様にしてやった!


「ぐっ!これはまさか!?」


(九条さん、ありがとう。)


 俺の意図を瞬時に理解してくれたソフィは神様を斬ってその横を通り過ぎて行くとライルさんのサポートと水の足場を利用して連続攻撃を仕掛けていった!


「流石だよ九条さん!神様もソフィの攻撃の速さに対応しきれてないみたいだ!」


「そうだなってヤバッ!?」


「九条さん!?」


 水の手に足首を掴まれたんだと気付いた時には既に手遅れで、地面に倒された俺はそのまま空中に引っ張り上げられて逆さ釣りの状態になってしまっていた!?


(ご、ご主人様!早くその手を斬って下さい!このままだとマズイですよ!)


(言われなくても分かってる!)


 武器をグッと握りしめて上体を起こし水の手を斬ろうとしたその瞬間、別方向からやって来た水の手が俺の右手首を掴んで攻撃を妨害しやがった!?


「クソ!ふざけんなっ!」


 封じられていない方の手で魔法を撃とうと顔を天井の方に向けた直後、俺の近くを沢山の水の手が通り過ぎて行き空中に居たソフィに向かって行ってしまった!


「チッ!させるかよってええええ!??!!?」


 伸びていく水の手に魔法を撃ち込もうと左手を天井に向けたその時、シュダールを使って水の手を滑り落ちて来るソフィの姿が視界に入って来た!?


「フッ!」


「うおおおおおっ!ぐふぉっ!?」


 その光景を見て思わず驚いているとソフィが落下の勢いそのままに手足を掴んでた水の手を斬り放してくれて………俺は無様な格好で地面に着水してしまうのだった。


「……九条さん、大丈夫?」


「あ、あぁ………鼻の中に水が入った以外は問題ない。」


「うん、なら良かった。」


 そう言って手を差し伸べてくれたソフィの力を借りて立ち上がった俺は、階段前で大きな口をニヤリとさせている神様と目を合わせた。


「はっはっは、さっきの連携は見事じゃったのう。わしも少し驚いてしまったわ。」


「そうかよ……だったら、それで合格って事にしてくれても良いんだぞ?」


「いやいや、それではダメじゃ。きちんとお主達の実力で奪い取って貰わねばな。」


「……そう言うだろうとは思ったよ。」


 ため息を吐き出しながら濡れている顔を手で拭った俺は、神様の攻撃が止まってる間にソフィにさっきの戦闘で得た知識を聞いてみる事にした。


「どうだソフィ、あの光の中にある物は奪えそうか?」


「……難しい。特に水の防壁が厄介。」


「なるほどな……やっぱ一番の問題はアレか。」


「うん。だけど何とかすれば突破出来そう。」


「ふむ、そう言う事ならばどうすれば良いのか教えてくれるかい。」


 静かな足取りで近づいて来たロイドがそう尋ねると、ソフィは小さく頷いて神様を真っすぐな視線を見つめた。


「あの水の防壁は神様に連撃を仕掛けている時、少しだけ発動が遅れていた。」


「……つまり神様の注意を逸らしさえすれば、私達にも勝機が生まれる可能性があるという事ですわね。」


「そう言う事。」


「で、でも……そんなのどうすれば……」


「ソフィの攻撃でさえ発動が少し遅れる程度ならば、かなり強烈なダメージを神様に与えなければならないだろうね。」


「はぁ……やっぱそれしかねぇか………」


(うぅ……そんな攻撃方法、本当にあるんでしょうか?)


 神様が水の防壁を発動する隙を与えないぐらいの決定的な攻撃か………あー………思いついたけどコレは後でマホに絶対に怒られるよなぁ…………それにメチャクチャ痛い思いをしそうだし………でもなぁ………確実性はあると思うんだが………それにこれ以上は体力と魔力が減っていく一方で勝機も薄くなりそうだし……………


「さて、それではそろそろ二回戦を始めてもよいかのう?」


「……仕方ねぇ、覚悟を決めるとするか。」


(えっ、ご主人様?)


 盛大にため息を零しながらスマホの入っている特注のポーチを外した俺は、それをロイドの目の前に差し出した。


「悪いんだが、ちょっとコレを預かっておいてくれるか。」


「……九条さん。まさかとは思うけど、何か危険な事をしようとしているのかい?」


「はっはっは……別にそこまでじゃないから心配すんな。それよりも、ほれ。」


(ご主人様!何をするのか分かりませんけど危ない事をしないで下さい!)


(だからそんな心配すんなっての。別に死んだりしねぇからよ。)


(で、でも!)


(そんじゃあ、また後でな。)


 首からぶら下げていたネックレスを取って海パンのポケットに仕舞い込んだ俺は、真剣な眼差しを向けて来るロイドの手に無理やりポーチを握らせた。


「ロイド、ポーチは任せたぞ。しっかり護っておいてくれ。」


「……分かったけれど、後で覚悟しておいてくれよ?」


「はいはい、分かってるよ。」


 これで説教を食らう事は決定しちまったか……どうして俺はいつもこんな事ばっかしてんだろうな……多分、学習能力が無いんだろうね!だったらしょうがない!


「あ、あの……九条さん、何をしようとしているんですか?」


「うーん………まぁそれはさて置いてライルさん、俺が合図したらさっきと同じ様にソフィの援護をよろしくな。」


「え、えぇ……それは構いませんけど……」


「ロイドとリリアさんはそのライルさんの護衛、ソフィは魔法を受けたらすぐ光の中にある物を奪い取りに行ってくれ。それと俺が合図をするまでは全員この場で待機しといてくれ。」


「……分かった。」


「よしっ、そんじゃあ決着を付けるとしますかねぇ。」


「はっはっは!お主が何をしようとしているのかは知らぬが、そう簡単に試練を突破させたりせぬぞ。」


「あぁ、充分に理解してるよ……ただまぁ、こっちもそろそろ限界なんでね!」


 ショートブレードを逆手に構え神様に向かって全速力で走り出した瞬間、地面から水柱と沢山の水の手が出現して目の前からは大量の水の塊が襲い掛かって来ていた!


「うっ、ぐっ!」


「まさか仲間を残し1人で向かって来るとはのう!どういうつもりなのか分からぬが無謀な事をしているとその体に教え込んでやるわ!」


 これまでの戦闘で体に刻み込まれた経験を利用して攻撃を必死に避けながら部屋の奥に向かって走っていると、神様が咆哮をあげて長い尾を俺に振り下ろしてきた!


「っ!!」


 恐怖心を必死に噛み殺しながらギリギリの所で神様の尾をかわした俺は、部屋全体が揺れる様な衝撃と大量の水しぶきに耐えながら手にしたショートブレードの持ち手を口にくわえるとすぐ横に叩きつけられた尾にしがみ付いた!


「なっ!こら、離れぬか!!」


 体を水に変化させて俺から逃げようとした神様の行動を逆に利用してシュダールを使い上体まで駆け上がり腕にしがみ付いた俺は、くわえていたショートブレードを握り締めて待機している皆の方を見た!


「今だ!やれ!」


 大声で合図を出したのと同時に俺はショートブレードで神様の胴体を突き刺そうとしたんだが、予想していた通り体を水に変化させた神様には通用しなかった!


「はっはっは!何をするかと思えば無駄な事をしておるのう!その手の攻撃がわしに通じない事などお主には」


「分かってるっての!本番はこっからだ!!」


「な、なにっ?!ぐあああああああああああ!!!!!」


「あばばばばばばばばばば!!!!!!!」


 ショートブレードと共に水になった神様の体の中に片手を突っ込んだ俺は、そこに魔方陣を出現させて思いっきり電撃を放出させてやったたたたたたた!!!!


「ばばばばばかもものののののの!!こここのようなななななてをををををを!!」


「だだだが!こ、こここれで!おおおれたちののかかかかちだあああああ!!!!」


 強烈な痛みと痺れに襲われながら叫び声をあげた瞬間に神様の背後に眩い程の光が溢れ出したのを見た俺は…………全身から力が抜けて………背中からゆっくり落ちて行くと……バシャンという大きな音と共に水しぶきをあげるのだった…………

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