第265話
「ぐっ……まさかわしの体内で魔法を使うとは……流石に驚いてしまったわい……」
「ははは……その痛みが人に試練を押し付けた天罰だと知るがいい………」
全身を襲う痺れに耐えながら膝に手を置いて動けなくなってる神様を見てニヤリと笑みを浮かべていると、後ろの方からバシャバシャ音を鳴らしながら皆が歩いて来る足音が聞こえてきたので俺はゆっくりと振り返ってみた。
「だ、大丈夫ですか九条さん!?お怪我はありませんか?!」
「あぁ……体が少し痺れてる以外は特に問題ないよ……そっちはどうだ?」
「ふふっ、私達も怪我1つ無いよ……それよりも九条さん?」
「え、ど、どうした?そんな怖い顔して……」
「今回も随分と無茶な事をしたね……別荘、戻ったら覚悟しておいてね。」
「……は、はい。」
「ロ、ロイド様がお怒りに!?この様な表情は滅多に拝見出来ませんのに、どうして私はカメラを忘れてしまったのでしょうか!い、一生の不覚ですわ!」
……こっちの気も知らないで悔しそうにしているリリアさんをどんよりした視線で見つめていたその時、腕の中に光り輝く何かを抱えたソフィが静かに近寄って来た。
「九条さん、コレがさっき手に入れた物。」
「おっ、それが……って、何なんだそれ?」
「……分からない。触れられるけど見えない。」
「どういうこっちゃ………神様、俺達が奪い取った物ってぐほっ!?」
後ろを向いた瞬間に神様の全身を覆う様な水の竜巻が視界に入って来た直後、体に軽い衝撃が走り俺は巨大な扉の近くまで吹き飛ばされていた!
何が起きたのか分からないまま水に濡れた顔を手で拭っていると、武器を手にした皆がこっちに向かってやって来ていた。
「すまない九条さん、急な事だったから魔法を使って移動させたよ。」
「そ、そうだったのか……ありがとうな。」
「いや、それよりも神様は一体……」
「あっ!た、竜巻の中の影が小さくなっていきます!」
「……まさか、第二形態に突入するって展開じゃないよな?」
おいおいそんなの冗談じゃねぇぞ……軽く麻痺ってる状態でそんな事になったら、もう負けイベント確定だろうがよ?!いや、この世界で負けたらマジで終わりなんだけどさ!ちきしょう!マジでどうすりゃ良いんだよ!?
「はっはっは!お主達、そう慌てるでないわ。」
「……風が収まってきた。」
ソフィが静かな声で告げた通り水の竜巻の勢いが弱まってくのが分かった俺達は、緊張した面持ちで武器を構え神様が存在していた場所を睨みつけて…………えっ?
「うむ、やはりこっちの姿の方が楽でいいわい。さてと、それでは質問に……って、お主達どうしたんじゃ?」
「……いや……そのですね………神様が………」
「ち、小さな女の子になってしまいましたわ……」
「ん?それの何を驚いて………あぁそうか、お主達にはローブを羽織った状態でしか会っておらんかったか。いやぁ、実にすまん事をしたのう。」
髪と瞳が綺麗な海の色をしている少女………いや、幼女?もうどっからどう見ても小学生低学年ぐらいの女の子は手を合わせてウィンクをすると……こっちに向かってゆっくりと歩いて来て俺達の目の前でニコっと微笑みながら立ち止まった。
「まさかあの神様が、こんなに可愛らしい少女の姿に変わってしまうとはね………」
「……それが本当の姿?」
「いや、わしがこの姿になったのはその者の影響じゃよ。」
「………は、俺の?どういう事だ?」
「わしは予言を与えた者の頭の中にある神の心象を借りて姿を形作っておるのじゃ。なのでこの様に幼き姿になったのは、お主の影響と言う訳じゃな。」
「な、なるほ………え、何なのその視線は?違うよ?別に神様が幼女だったら良いなとか思った事は無いからね!?」
「……はい、分かりました。」
「いや!ライルさん、絶対に分かってないだろ?!」
「ロイド様、九条様とは少し距離を置いた方がよろしいかと思いますが。」
「ちょ、お願いだから話を聞いてくれ!あ、ほらアレだよ!本!俺がつい最近読んだ本の中にそれっぽい登場人物が居たんだよ!きっとその影響に違いない!うん!」
「ふふっ、そんなに慌てて否定しなくても大丈夫だよ。私は信じてるからね。うん、私は何時まで経っても九条さんの味方だよ」
「………なぁ、どうしてそうやって追い詰めてくるんだ?もしかして俺をからかって楽しんでんのか?」
「いやいや、そんな事は無いよ。それよりも今は、手に入れた物が何なのか神様から聞こうじゃないか。」
「よかろう。ではソフィとやら、その手に抱えている物をわしに渡してくれるか。」
「うん、分かった。」
「くっ、勝手に話を進めやがって……!」
この後で絶対に誤解を解いてやる決意して事の成り行きを黙って見守っていると、神様に渡された光の中にある物がいきなり強く輝き始めた!?
あまりの眩しさに思わず目を反らしてしまってから数秒後、少しずつ光が収まってきたので改めて神様の方を見てみると………
「ふぅ……これが、試練を乗り越えたお主達が手に入れた物じゃよ。」
「これって………コアクリスタル……じゃないのか?」
静かな足取りでやって来た神様が俺に差し出してきたのは、コアクリスタルの様に見える大きな漆黒の物体だった……
「うむ、これはわしの力の結晶の様な物じゃよ。」
「……神様の力?」
「それは……何とも凄そうな代物だね。」
「確かにそうだが……どうしてそんな物を奪い取らせようとしたんだ?」
「……さてな、それはわしにも分からぬ。」
「わ、分からないって……どういう事ですか?」
「九条様に予言を与え、ここまで誘い出し、命を懸けさせてまで試練を突破させたというのにそうさせた理由が謎では納得出来ませんわ。」
「うーん、そう言われてものう………わしに分かっておるのは、この結晶で造られた武器がいずれこの者に必要になるのではという事だけなんじゃよ。」
「ず、随分と曖昧だな……未来が見られるって占いをした時に言ってなかったか?」
「アレはお主をここに来させる気にさせる為の方便に決まってるじゃろう。わしにはそこまでの力は無い。この結晶もお主が必要とする日が本当に来るのかどうか……」
「え、えぇ………だったら俺は何の為にこんな苦労を………」
「まぁ、神の
「……はは……ははは………はぁ………」
神様が高笑いする姿を目の当たりにして一気に全身の力が抜けた俺は、膝から崩れ落ちると心の底からのため息を吐き出すのだった………
「く、九条さん!元気を出してください!ほら、頑張った成果としてこんなに素敵な物を頂ける事になったんですから!ね?」
「ふふっ、確かにこんなに良い物を貰えるんだから喜ぶべき事だと思うよ。」
「……それもそうか……って、コレは俺が貰っていも良いのか?」
「えぇ、試練を与えられたのは九条様ですからね。受け取るべきなのは、貴方様だと思いますわよ。」
「わ、私もリリアさんの意見に賛成です!」
「そう言う訳だから、遠慮せずに受け取ると良いよ。」
「……おう、ありがとうな。」
励ましてくれた皆に感謝をしながら立ち上がった俺は、改めて神様が手にしていた力の結晶とやらを受け取るのだった。
「……さて、それでは次にお主達に褒美を授けるとしようかのう。」
「え……本当に良いんですか?」
「うむ、何でもという訳にはいかぬがのう。さぁ、欲しい物を申してみるが良い。」
「……私は力の結晶が欲しい。」
「あー……いきなりで申し訳ないんじゃが、アレは1つしか無いんじゃよ。」
「……そう。」
「まぁ待て、結晶はやれぬがコアクリスタルならばやれるぞ。」
「じゃあそれ。」
「そ、即答かよ……まぁ、良いけどさ。」
「はっはっは。では次の者、欲しい物を申してみるが良い。」
「私かい?そうだね…………特には無いかな。」
「おや、そうなのか?遠慮せずとも良いぞ。」
「いや、本当に思いつかないんだ。」
「ふむ……ならばお主もコアクリスタルでどうじゃ?」
「……そうだね。今後の為に武器を強化するのも悪くないかな。」
「分かった。では次の者は何が」
「ロイド様と2人きりでお出掛け出来る時間を頂きたいのですが!!」
「お、おぉ………いや、それはわしに言わず本人に頼めば」
「直接お願いするだなんて出来ませんんわ!」
「そ、そうか……な、ならばわしが代わりに頼むという事で……」
「はい!お願い致しますわ!」
「う、うむ……近頃の者は何を考えておるのかよく分からんな………ロイドとやら、そこの者が一緒に出掛けたいと申しておるのだが……」
「あぁ、喜んで行かせて貰うよ。今日のお礼もしたいからね。」
「……そういう訳じゃ、良かったのう。」
「はい!それではロイド様、後でお出掛けの日にちをお決め致しましょう!」
「うん、分かったよ。」
「で、では次の者……お主の願いを……」
「わ、私もロイドさんと2人きりでお出掛けを!」
「お、お主もか!?むぅ……まぁそれで良いなら構わぬが………ロイドよ、その者もお主と出掛けたいと申しておるのだが……」
「ふふっ、それじゃあ後で予定を決めようか。」
「は、はい!ありがとうございます!えへへ!」
ライルさんとリリアさんを見て困惑の表情を浮かべた神様が小首を傾げながら指をパチンと鳴らした瞬間、ロイドとソフィの頭上に淡い光に包まれている金色と紫色のコアクリスタルが出現してゆっくりと落っこちてきた。
「うん、これでもっと強くなれる。」
「ふふっ、シーナに良いお土産が出来たね。」
コアクリスタルをポーチに入れたのを目にした俺は、全身の痺れが無くなった事を確かめる様に体を大きく伸ばすと開いている扉の方に目を向けた。
「よしっ、そんじゃあそろそろ戻るとするか。約束の時間がくるまでには体力を回復させておきたいからな。」
「はい。それに体に付いた海水も洗い流したいですから。」
「うむ、それでは地上へ行くとするかのう。これから世話になる者達に挨拶をせねばならないからな!」
「あぁ、そうだな………ん?」
「ん?どうかしたのか?」
「…………今、何て言った?」
「いや、じゃから地上に行って世話になる者達に挨拶をとな。」
「………地上に?」
「うむ。」
「……世話になる者達に挨拶?」
「そうじゃ。」
「……………もしかして、俺達について来るつもりなのか?」
「あぁ、何か問題でもあるのか?」
「………いやいや……いやいやいやいやいやいや!?ちょっと待てやオイ!そんなのダメに決まってるだろうが!」
「おや、どうしてじゃ?」
「だって、そんなの!なぁ?」
「……父さんと母さんにどう説明したものか。」
「アレ?!意外と乗り気!?」
「九条さんの隠し子という事に。」
「あぁ、確かに見た目から考えればそれもアリですわね。」
「いや無しだろ!?どんな重荷を俺に背負わせる気だ?!」
「まぁ父上よ。こんなに可愛らしい娘がおるという事実を誇りに思えばよかろう。」
「誰が父上だ!?って言うか、見た目は少女でも実年齢は数百歳を超えている婆さんぶべらあああああああ?!!?!!!!」
「く、九条さあああああん?!?!!」
「はっはっは……言葉には気を付けるんじゃな小僧。次は容赦せぬぞ?」
明らかに威力の上がっている水の塊を至近距離からぶち当てられて大回転しながら廊下の奥に吹き飛んで行った俺は、グラグラと揺れる視界の先で黒い笑みを浮かべる神様に恐怖を……
「それと忠告じゃが、外したネックレスはきちんとつけ直しておいた方が良いぞ。」
「…………あっ。」
体力、魔力、精神力、その全てが完全に無くなってしまった俺は現実から逃げ出すかの様に意識を手放すのだった………
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