第263話

「おい!廊下の奥に巨大な扉が見えたぞ!」


「ならば急ごう!あのモンスターが階段の下まで迫って来ている!」


「ライルさん!私達に風の魔法をお願い致しますわ!」


「わ、分かりました!」


 多種多様な武器を持った鎧を斬り倒しながら廊下を進み階段を駆け上がって行った先にダンジョン特有の巨大な扉を発見した俺達は、ライルさんの魔法で体を軽くしてもらい全速力でその先にある部屋に向かって走り出した!


 その次の瞬間、背後からビックリするぐらい大きな音が聞こえてきたので反射的に振り返ってみるとそこにはっ!?


「ちょ、アイツ!さっきよりも明らかにデカくなってるんですけど?!」


(恐らく倒してきた鎧を吸収して大きくって、そんな事はどうでも良いですから!!今はとにかく走って下さい!このままじゃペチャンコになっちゃいますよ!!)


(そ、そんな最期だけは絶対に嫌だ!!)


 死に物狂いという言葉の意味を体感しながら足を動かしていた俺は、皆と扉を通り過ぎて部屋の中に足を踏み入れた途端にそのまま倒れ込んでしまった!


 ヤバッ!?……そう思った直後、迫って来ていた巨大な塊が扉の手前でバラバラに崩れ去って鎧や武器や盾が勢いそのままに部屋の中まで転がり込んできて……動きを止めたそれらは床を覆っている水の中に吸い込まれる様に消えていってしまった……


「はっはっは、あやつから逃げ切れるとは流石じゃのう。」


「……はぁ……嬉しくもない称賛をしてくれてどうもありがとうよ。」


 モンスターから逃げ切れた事にホッとする暇も無く後ろの方から声が聞こえてきて思わず脱力してしまった俺は、足腰にグッと力を入れて立ち上がると振り返り部屋の奥にある小さな階段の上で拍手をしていたアイツにジトッとした視線を送った。


「ふむ、君がここで待っていたという事は……私達は目的の場所に辿り着けたという認識で良いのかな。」


「あぁ、ここがわしが占った結果のとある場所じゃよ。」


「……それじゃあこの次は。」


「うむ。わしの生み出した傀儡達を退けてここまで来れたお主達には、大いなる者に会う資格があると認識しても問題はないじゃろうな。」


「そうかよ………ったく、出来ればもう少し休ませてほしかったんだがな。」


「こらこら、若者がすぐに休憩しようとするでないわ。そんな事では老いていく一方じゃぞ。」


「や、やかましい!あんだけ全力で走ったら誰でも休みたいと思うわ!なぁ?」


「……私は大丈夫。」


「おーっほっほっほ!私もまだまだ動けますわよ!」


「え、えっと……私は九条さんと同意見ですよ。」


(……どうやら疲れ切っているのはご主人様だけみたいですよ。)


「く、くぅ~!わ、分かったよ!さっさと大いなる相手ってのを連れて来いやぁ!」


「はっはっは、そこまで言うならば対峙させてやるかのう……じゃが、連れて来るという訳ではないがなぁ……」


 そう言ったローブの女の子の口元がニヤリとなったその瞬間、足元まであった水が一瞬にして巻き上がっていき階段の手前で巨大な竜巻となっていった!?


「きゃあああ!!」


「うおっ!?な、何だよコレは?!」


「皆さん!体勢を崩さない様に気を付けて下さいませ!」


「ふふっ、いよいよ本命のご登場と言った所かな!」


「……!」


(もう!ロイドさんもソフィさんもテンションを上げてる場合じゃないですよ!ってそう言えばあの女の子は?!)


 風に舞い上がってバシャバシャと当たって来る水を手で防ぎながら竜巻の奥を見ていると、アイツが羽織っていたローブが物凄い勢いで天井に吹き飛ばされていくのが見えてハッと驚いていると竜巻の中に巨大な影が浮かび上がってきた?!


(え、えぇっ?!アレってもしかして!?)


「おいおいおい!予想してた事とはいえアレは流石にデカすぎるだろ!?」


「はっはっは!この程度の事で驚いてもらっては困ってしまうのう!」


 部屋全体に響き響き渡るぐらいのバカでかい声が聞こえたと思ったその次の瞬間、強風が収まり竜巻が消えたと思ったら……目の前に古物店のお婆さんから貰った本に描かれていたのと同じ青色の龍が姿を現しやがった……!


「アレが……神様……」


「な、何と神々しいお姿なのでしょうか……」


「まさか本当に会えてしまうとはね……流石に驚きを隠せないよ。」


「うぅ……意味も分からず懺悔してしまいそうです……」


「これこれ、取って食おうとしている訳ではないからその様に緊張するでないわ。」


「……いやいや、流石にそれは無理な話だっての。」


 創作の中でしか見た事がない存在が実際に俺達の前に現れるとか……この異世界、色々とぶっ飛びすぎてマジでどうなってんだよとしか言い様がないんですけれど?!


「さてと……それでは早速じゃが、わしからお主に試練を与えるとするかのう。」


「あぁクソ、やっぱりそうなるか……」


(ご、ご主人様!神様に向かってその言葉遣いは失礼ですって!)


「はっはっは!別にそれぐらいの事は気にせずとも大丈夫じゃよ。」


「………は?」


(………え?)


 ちょ、ちょっと待てよ!俺達の会話に参加する様に話しかけてきたって事は………もしかして、アイツにはマホの声が聞こえているっていうのかよ!?


「ロ、ロイド様……あの方は急に何を仰っているのでしょうか?」


「……残念だがそれは私にも分からない。それよりも今は、与えられる試練の内容に耳を傾けてみるとしようじゃないか。」


 冷静さを保ちながら話を誤魔化して視線を送って来たロイドと目を合わせた俺は、小さく頷いてから改めて神様よ呼ばれる存在と向き合うのだった。


「それで?アンタはどんな事をやらせるつもりで俺達をここまで誘い出したんだ?」


「なに、実に簡単な話じゃよ。わしが与える試練の内容とは………」


「うおっ!な、何だ?!」


「くっ、コレは!?」


 神様の胴体から生えている短い両手の中にいきなり現れた光の球体に驚いてると、それは天井までふわっと浮かび上がって行き………階段の上にある祭壇の様な場所にゆっくり落下して動きを止めるのだった。


「……わしの妨害を突破して、この光の中にある物を奪い取るというだけじゃ。」


「それが……試練?」


「あ、あの!どうしてそんな事を……?」


「……理由は話せぬ。じゃがコレを手に入れる事が出来なければ、その者にはわしが占った通りの運命が待っておるというだけじゃ。」


「運命……もしかしてそれは………」


「身を引き裂く程の……心の痛み……」


「うむ……その運命を受け入れたくないと言うのならば、わしからこの光を奪い取り試練を乗り越えてみせよ!」


 咆哮……それに似た神様の声を聞きながら肺の中の空気を一気に吐き出した俺は、気合を入れて強く握り締めたショートブレードの剣先を神様に向けてやった。


「……アンタがどういうつもりでこんな事をやらせるのかは知らないけど、そこまで言うならやってやるよ。」


(ご、ご主人様……)


「俺だって、そんなクソみたいな運命を受け入れるつもりは微塵も無いからなぁ。」


 皆に見守られながらニヤリを笑ってそう告げると……全員が真剣な表情を浮かべて手にしていた武器を構え直し神様と向かい合ってくれた。


「ふふっ、九条さんに襲い掛かる残酷な運命。そんな物は私達が退けてみせるよ。」


「うん。そんな運命は絶対に訪れさせない。」


「おーっほっほっほ!私も全力でお相手させて頂きますわ!」


「わ、私は九条さんに命を救われたんです!だから絶対に護ってみせます!」


「はっはっはっは!それでは人間達よ、わしの与えた試練を見事に乗り越えて運命を切り開いてみせるが良い!!」


 ビリビリと全身が痺れる様な威圧感を全身から放った神様が俺達に向けて雄叫びを聞こえた瞬間、数日前に訳も分からず与えられた試練が始まるのだった!

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