第257話

 謎のお婆さんから神様に関する本を受け取るという最大級のフラグが襲い掛かって来てから数日後……頼まれていた素材も集め終わってようやく肩の荷が下りた俺は、窓の外から伸びる朝日を眺めながら紅茶を飲みニヤッと笑みを浮かべていた。


「ふっ、こんなに気持ちの良い朝を味わったのは久しぶりだぜ……」


 こっちに来てから普段の倍以上は働いてたからなぁ……それも何とか片付いたし、後は予言をどうにかするだけなんだが……今日に至るまで何も起きて無いし、これはもしかして予言が外れたって可能性もあるんじゃないのか?!


 いや、絶対そうに違いないって!きっとあの子は俺を驚かせようとしてあんな事をしたに決まってるな!うんうん!


「よしっ!今日は朝から街を見て回るんだし、さっさと着替えるとしますかね!」


 ……いや、俺も分かってんだよ?こんなバカみたいな事を考えたら危ないってさ。でもしょうがなくね?素材を集める為に毎日用にクエストを受けて、ようやくそれが終わったんだ……ちょっとぐらい調子に乗っても良いじゃねぇかよ!!


「お、おじさん!おじさん!こ、これ!これ!」


「おやおや……ふふっ、これは驚きだね。」


「九条さん、やったね。」


「……過去に戻って……思いっきり自分をぶん殴りたい………!」


 抽選カードを握りしている方の腕をマホ掴まれ激しく揺さぶられ続けていた俺は、地面に崩れ落ちて目の前の現実から逃げ出したい気持ちに襲われていた……!


「ほら、ちゃんと見て下さいよ!当選してます!これ、当選してますよおじさん!」


「素材を集め終わった翌日にだなんて、随分とタイミング良いじゃないか。」


「……わくわくしてきた。」


「あぁクソ……どうして俺は……何度同じ失敗をすれば気が済むんだよぉ……」


 掲示板の前で喜ぶ美少女3人と頭を抱えながら泣き言を呟いてるおっさん1人……そんな光景を見ながらざわざわしている人の声にしばらく経ってから気付いた俺は、その場から逃げ去る様に海の近くにある大きな公園らしき所までやって来ていた。


「いやぁ、それにしてもおじさんが当選するだなんて……ビックリしたのと同時に、やっぱりそうなってしまいましたかって思っちゃいましたよ!」


「うんうん、やっぱり九条さんは強運の持ち主だね。」


「はぁ~……俺からしたらそんな風には想えねぇよ……」


「……嬉しくない?」


「ぶっちゃけな……俺以外の誰かが当選したってならまだ喜べるけどさ、俺の場合は例の予言と関わってる気がするからマジで面倒だとしか思えねぇんだよ……ってか、明日の予定を考えると時間的にも大変そうだし……あぁもう!」


 頭をガシガシと掻きながらベンチに腰を下ろした直後、俺の言葉の意味に気付いたマホが慌てた様子で隣に座って来た。


「ちょっと、どうするんですかおじさん!明日ってライルさんやリリアさん、それにアリシアさんやシアンちゃんと食事をする日じゃないですか!」


「だから大変なんだって言ってんだろ……」


「ふむ……食事会が始まるのが午後6時からだから、そこまで焦らなくても大丈夫な気はするけどね。」


「全てが無事に終わればそうだけど……ダンジョンに行って大怪我とかしたら食事会そのものが無くなる可能性だってあるんだぞ。」


「……じゃあダンジョンに行かない?」


「い、いやそれはダメですよ!そんな事をしたらおじさんに神様からの不運が!」


「そんなに必死にるんじゃねぇっての!」


「あいたっ!うぅ……そう言われても心配なんですもん………」


 俺以上に慌てふためいていたマホはチョップを落とされた頭部を撫でながら不安が滲む瞳でこっちをジッと見つめて来た。


「確かに、どんな目に遭うのか分からない以上は試練に挑むしか無いだろうね。」


「大丈夫、絶対に乗り越えるから。」


「……おう、頼りにしてるよ。」


「ふふっ、任せて」


 正直な話、こいつ等を巻き込む事に抵抗が無いって訳じゃないけど、ついて来るなって言った所で聞きやしないだろうし……こうなったら全力で試練に挑むだけだな。


「おしっ、こうなっちまったらもう気持ちを切り替えて行くぞ。」


「了解。それで、まずはどうするんだい?」


「とりあえずは斡旋所に行ってダンジョンに行く為の手続きをする。その後は事情を話す為にリリアさんやライルさん、アリシアさんとシアンの所に寄るぞ。その後は、明日の為にアイテムを揃えたり装備の点検だな。」


「分かった。全力を尽くす。」


「わ、私も出来る範囲でお手伝いします!」


「あぁ、そうしてくれ……さて、そんじゃあ行動に移すとするか!」


「「「おー!」」」


 はっはっは!待ってろよ神様!折角のバカンスを台無しにした責任、絶対に取って貰うからな!こうなりゃ徹底抗戦だこの野郎!相手が何であろうが絶対に勝つ!何に勝つのかはサッパリ分からんがそれぐらいの気合をいれていくぞ!


 全身の血が熱くなるのを感じながら公園を後にした俺達は、明日の為にやれる事を次々と片付けていく事にするのだった。

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