第231話

「つんつん………つんつーん……‥…つんつんつーん………」


「……………んぁ……?」


「あっ、おじさん!おはようございます!」


「…………おはよう。」


 ……少しずつ意識が戻ってきた俺がゆっくり目を開けてみると、そこには俺の頬を人差し指で何度も突いているマホがしゃがみ込んでいた。


「もう、こんな所で寝ていたら風邪をひいちゃいますよ!私は先に戻ってますから、おじさんも早く来て下さいね!」


「あ……あぁ………」


 ニコッと微笑みながら立ち去って行くマホの後ろ姿をぼんやりと眺めていた俺は、何故か微妙に痛む後頭部を擦りながら体を起こして昨夜の記憶を思い出していた。


「えっと……着替える為に……浴室に来て……その後は……………っ?!」


 い、いやそんなハズはない!あの目は疲れた俺が見ちまった幻覚に違いないって!こういう所にはアレが出るってよく噂されてるけど、それは前の世界の事でこっちの世界では関係無いから!そ、そうに決まってるよな!うん!……でも、ずっとここに居るのは良い予感がしないからさっさと出よう!


 俺はすぐ近くに置いてあったバッグを抱えて逃げる様に浴室から出て行くと、皆に挨拶をする為に部屋の奥に目を向けてみたんだが………


「おはよう、九条さん。」


「お、おはよう………ってかあれ?マホとソフィしか居ないのか?他の皆は?」


「情報収集に出掛けた。」


「情報収集?………って、なんの?」


「おじさん!ちょっとこっちに来て頂けませんか?お願いしたい事があるんです!」


「ん?……あぁ、分かった。」


 ソフィが俺の質問に答えようとした瞬間に何故かマホに呼ばれる事になった俺は、首を傾げながらベッドの方に歩いて行った。


「それじゃあですね、ちょっと手を後ろに組んでここに立って下さい!」


「え、何でそんな事をする必要があるんだ?」


「理由は後でご説明するので、お願いします!」


「………よく分かんねぇけど…………これで良いか?」


「はい、ありがとうございます!…………ソフィさん!」


「分かった。」


「な、えっ?!うわっ!?」


 いきなり手と足の自由が無くなって背中を押されてしまった俺はベッドの上に倒れ込むと、必死に拘束を解こうとしながら後ろに目を向けようとした!


「おい!これは一体どういう事だよ?!何でこんな事をすんだ!?」


「………だって、おじさんに逃げられたら困るじゃないですか。」


「に、逃げる?!俺が何から逃げるって言うんだよ!?」


「そうですねぇ………簡単に言ってしまえば、情報収集からですかね。」


「な、なんだそりゃ?!冗談を言ってないで、早く俺を自由に……っ!?」


 もがきながら横に転がって仰向けの体勢になった俺はマホとソフィの方を見て……みたんだが………こ、これは………ちょっとマズいかもしれないなぁ……


「あの……もしかしてだけど…………メチャクチャ怒ってらっしゃいますか?」


「うふふふ、どうしてそう思うんですか?」


「いや……その………これまでの経験と申しますか…………」


 椅子に座って足を組みながら怒りに満ちている瞳を浮かべてるマホからそっと目を逸らそうとしたその時、天井からドタバタと何かが暴れる様な音が聞こえてきた?!


「……情報収集、始まったみたい。」


「ちょ、おいソフィ!それってどういう事だ?!どうして上の階で情報収集を!?」


「おじさん、そんなの私達が言わなくても分かってるんじゃないですか?」


「ひ、ひぃ!?」


「さぁ、シッカリと聞かせて貰いますよ……どうして今朝になって畑を荒らしていた犯人達がすぐ近くの森に捕まっていたのか……そして、昨夜おじさん達はどこで何をしていたのか……ちゃんと答えて下さいね。」


 満面の笑みを向けてきたマホの背後に鬼の姿を見た気がした俺は、エリオさん達の無事を祈りながら真実を話すか誤魔化すか思考をグルグルと回転させるのだった……

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