第8・5章
第179話
【拝啓 マホさん ロイドさん ソフィさんへ
こちらの事情で大変申し訳ないのですが、奉仕義務の期間が5日程延長される事になりました。
それで非常に心苦しいのですが、もうしばらくの間だけ家事の方をよろしくお願い致します。
九条透より】
……ってな感じの手紙を送ってから数日後、俺は荷造りをしながら窓の外に浮かぶ月をぼんやりと眺めてため息を零していた。
「やっぱりあいつ等からの返事は帰って来なかったか……」
多分色々と察しちまって怒ってるんだろうけどさぁ、思ってたより大怪我だったらしくて治療の為に時間が必要ですって医者に言われたんだからしょうがなくね?
まぁ、安静にしてたのは屋敷に帰って来た日とその翌日だけで、その3日目からは普通に奉仕業務をこなしてたんだけどな……何もしないで居座り続けるのはちょっと気まずいから……
「いやはや、それにしてもマホ達にどうやって言い訳をしたものか……深夜に城内を探検してたら階段から足を踏み外したんだよ!……いや、これはマヌケ過ぎるか……あーマジでどうやって言い訳すっかなぁ……」
立ち上がって思いっきり背伸びをしながらそんな事をぼやいていると、扉に掛けてあった鍵がガチャッと開かれて誰かが部屋に入って来た!……いや、誰が来たのかは大体予想出来てるから別に驚く事でも無いんだけども。
「ちょっとアンタ、荷造りは順調に進んでるの?」
「まぁな……ってかそうじゃなくて、せめてノックをしてから俺が出迎えるまで少し待ってくれよ。いきなり入って来られると心臓に悪いだろ。」
「ほっほっほ、申し訳ございません。」
「ふんっ。私がアンタの怪我の事とか色々誤魔化しながらお父様に説明したおかげでまだこの部屋を使う事が出来てるんだから、ぶつぶつと文句を言わずに感謝の言葉を口に出しながらアタシ達を出迎えなさいよね。」
「いや、そもそも俺が大怪我をしたのはお前が身勝手な理由であの屋敷に行ったからなんですけど……あ、待って!謝る!謝ります!本当、わざわざ会いに来て下さって心の底から感謝を致します!」
「分かれば良いのよ。」
な、なんて横暴なお姫様なんだ!?ちょっとでも反抗的な態度を見せようものなら黄金色の魔方陣を出現させやがって!斬られる事は無いと思うけど怖いものは怖いんだよ!ちきしょう!!良いなぁ!俺も欲しいな伝説級の武器!!
なんて考えながらジト目で2人を睨み付けていると、お姫様は我が物顔で置かれていたソファーに腰を下ろして行った。
「……ってか、マジでこんな時間にどうしたってんだよ。まさかとは思うけど、またどっかに行くからついて来いって話じゃないだろうな。」
「それも考えてはいたんだけどね。今日は別の用事で来たのよ。」
「か、考えてはいたのかよ……」
あれだけ危険な目に遭ったってのに懲りないお姫様だなぁ……そう思って顔が若干引きつっていると、セバスさんが微笑みながらお姫様の隣に移動してきた。
「九条殿、私が今朝したお話を覚えておいででしょうか。」
「え?今朝って……明日は早朝から国王陛下達に予定が入ってるから、最後の挨拶をする事が出来ないとかって話でしたっけ。」
「はい、それでこんな時間に申し訳ないのですがご挨拶が出来ない代わりにと陛下がこちらをお渡しして来てほしいと姫様と私に申し付けてきたのでございます。」
セバスさんはそう言って上着のポケットに手を入れて王家の模様が描かれた小さな白い封筒を取り出すと、こっちに歩み寄って来てそれを手渡してきた。
「えっと、これは……?」
「そちらには九条殿が本日まで働いた分の報酬分の小切手が入っております。」
「報酬って……あぁ、そう言えばまだ貰ってませんでしたっけ。」
「えぇ、渡す予定の日にごたついてたからね。それよりもほら、どれだけ稼げたのか確かめなさい。後で少ないとか言って文句を言われても困るから。」
「そんな文句なんか言わねぇっての!えっと、どれどれ………あれ、おかしいな……
目の錯覚かな?えっと………………セ、セバス……さん?あのですね、1つ、お尋ねしたい事があるのですけども…………」
「おや、どうかなさいましたか?もしや小切手に不備がございましたか?」
「いやいや!そういう訳じゃないんですが………これ、金額が間違ってませんか?」
「ほっほっほ、そんな事はございませんよ。。」
「いえ、でも……だ、だってこれ……切手に書かれている金額……ご、50万Gってなってますけども!?!」
お、おかしくねぇか!?だって1日奉仕して貰える金額って1万Gちょいぐらいのはずだろ!?それなのにどう考えても丸の数が多すぎるんですけども!?まさかコレ俺を試しているのか?!そうなのか!?そうなんだろ!!?
「九条殿、ご安心下さいませ。報酬がその額で間違いございませんよ。」
「そ、そんなはずは!だって延長してこの城に滞在していた分の報酬は無いって事になっていたはずですよね!?」
「はい、ですから基本的な報酬額は10万と5千Gになります。」
「で、ですよね?!じゃあ、どうしてそれが50万Gに!?」
「……なるほど、やっぱりお父様にはバレちゃってた訳ね。」
「えぇ、そう言う事でございます。」
「な、何が?!」
困惑しながら2人を交互に見ていると、お姫様が盛大なため息を零してやれやれといった感じの表情を浮かべながら肩をすくめて始めた。
「アンタが怪我をした原因、多分だけとお父様達に気付かれたみたいよ。」
「け、怪我をした原因って………まさか、幽霊屋敷の事か?!」
「そうよ。まぁ、アンタが大怪我をしたその翌日に行方不明だった人達が発見されたからそれで色々と察したんじゃない。」
「で、でも、それはちゃんと誤魔化せたはずって……説明したって!」
「えぇ、ちゃんと説明したわよ。夢の中だと思って城内を徘徊してたら階段の途中で足を踏み外してそれが実は現実だったって。」
「なっ!?そ、そんな無茶苦茶な事を言ったのか?!」
「これで上手く誤魔化せると思ったんだけど、どうやら失敗したみたいね。」
「いや、そりゃそうだろよ……」
お姫様のあまりに突拍子もない話を聞いてガックシと肩を落としていた俺は、手にしていた小切手を改めて見つめてみた。
「おや、どうかなしましたか。」
「……その、念の為に確認させてほしいんですけど……本当にこんなに貰って良いんでしょうか?何だか悪い様な気が……」
「バカ、いちいち気にしてんじゃないわよ。巻き込んだアタシがこんな事を言うのも何なんだけど、アンタは大勢の人を救ったのよ。だからそれは正当な対価として受け取りなさい。分かった?」
「……分かった。」
ぶっちゃけ最後に止めを刺したのは目の前に居るお姫様なんだが……それを言った所で納得はしてくれないだろうから、この高すぎる報酬は受け取っとくとするか。
「それじゃあお父様からの預かり物も渡したしアタシ達はこれで失礼するわね。」
「あぁ、そうか……わざわざありがとうな。」
「ふんっ、礼なんて要らないわよ。それじゃあ、またね。」
「ほっほっほ、失礼致します。」
そうしてお姫様とセバスさんが部屋を去った後、小切手入りの封筒をカバンの中に入れた俺は少しだけ名残惜しい気持ちになりながら眠りにつくのだった。
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