第176話
「……うーん、薄暗くて部屋の中がよく見えないな……とりあえず広いって事だけは分かるんだが……」
「ゴチャゴチャ言ってないでサッサと入りなさいっての!」
「うおっ!ちょ、背中を押すなって!!うわっ!」
痺れを切らしたらしいお姫様に無理やり背中を押されてバランスを崩しそうになりながら部屋の中に足を踏み入れた次の瞬間、真正面に存在する巨大なステンドグラスから真っ赤な光が差し込んできて部屋全体の様子が見えるようになったんだが……
「へぇ、ここってそう言う部屋だったのね。」
「……マジかよ……」
部屋の奥に置かれた木製の古ぼけた椅子に座らされた異様な存在かを放つ不気味な子供ぐらいの大きさがある人形とその周りに乱雑に居る小さな人形達、そして周囲に目を向けると焼け焦げた背の高い棚に横たわっているコレまた大量の人形……
「目に見える範囲で大体100体ぐらい居るのかしら。」
「うへぇ……こんなのに一斉に襲い掛かられたらヤバ過ぎるぞ……」
「ふんっ、その時はアタシの力で全てぶっ壊してやるわ。それよりもオレット先輩が居るかもしれないから早く探すわよ。」
「探すわよったって、それらしい人影なんて何処……にも……………」
「ん?何よ急に黙っちゃって、天井に何かある、の…………っ!?」
何気なく見上げた視線の先、そこには透明なショーケースみたいな物が大量に存在していて……その中に入っていたのは………
「な、何だよ……コレは……!」
「オ、オレット先輩!?一体どうしてあんな所に……!もしかして人形に捕まって、あの中に閉じ込められたって事なの?!」
「お、俺に聞かれても分かんねぇよ!でも、その考えは間違ってないと思う!見ろ!他のショーケースの中にも人が居るぞ!この人達ってもしかしなくても今まで屋敷に行って消えちまった人達なんじゃねぇのか!?」
「えぇ、そうだと思うわ!アンタ、周囲を見張ってて!アタシはオレットさんを助け出すから!」
「わ、分かった!」
鬼気迫る表情でそう告げたお姫様は魔法を使ったのか一気にショーケースの方まで飛び上がって行くと、振り上げたエクスカリバーで瞳を閉じたままピクリともしないオレットさんを捕らえている物を斬り壊そうとした!
「きゃあっ!」
「はぁっ!?」
突如として叫び声をあげながら後方に吹き飛んでくお姫様の姿を目の当たりにした俺は、頭で理解するよりも前に走り出して落下してくる彼女を抱き留めていた!
「うっ……」
「お、おい、大丈夫か!」
「えぇ、なんとかね……ありがとう、おかげで助かったわ。」
「あ、あぁ……」
素直に感謝を伝えて来たお姫様に戸惑いつつ彼女を地面に降ろしてやると、すぐにキッと目付きを鋭くしてショーケースを睨み付けた。
「全く、何なのよアレ!斬ろうと思ったら急に身体が弾き飛ばされたんですけど!」
「いや、俺に文句を言われても困るんだが………って、なんだ!?」
感情的になっているお姫様をどう落ち着かせようか考えていると、いきなり部屋の中にあった人形が一斉にガタガタと揺れ始めた?!
おいおいちょっと待ってくれよ!これってかなりマズイ状況なんじゃないのか?!つーか洒落にならないレベルでメチャクチャ怖いんですけども!!
『……ダメだよお姉ちゃん、私のお人形さんを勝手に持っていこうとしたら。』
「誰っ?!」
頭の中に直接響いて来る様に聞こえてきた謎の少女の声に一切臆する様子も見せる事なくお姫様が怒鳴り返すと、古ぼけた椅子に座らされていた人形の首がカタカタと激しく動き始めた!?
「ちょ、ちょちょっ!な、なな、なんだよアレは?!」
「うっさい!狼狽えてないで武器を構えなさい!」
目の前で起きてる現象とお姫様どっちにビビるべきなのか困惑しながらブレードを構え直した直後、人形がゆっくり空中に浮かび上がりながらその姿を変え始めた!?
短かった手足は少しずつ伸びていき、焦げ跡だらけでボロボロだったドレスは新品同然になって美しい純白へ……そして顔は人形のものではなくなって……
「……アンタ、何者?」
『うふふっ、説明しなくても分かってるんじゃないのかな?お姉ちゃん。』
「そ、それじゃあやっぱり……アンタはこの屋敷に居た……」
『うん、数百年前に人々に焼き殺された可哀そうな少女だよ。うふふふふ。』
ゾクッとする様な明るい声でそう答えた人形に嫌悪感を睨み付けたお姫様は、手に持ったエクスカリバーの剣先を真っすぐ目の前の存在に突き付けた。
「ふんっ、人の事を人形に変えようと外道な事をしてた奴が可哀そうな少女だなんて笑わせるんじゃないわよ。」
『うふふっ、外道だなんて酷いよ。私はただ、お友達をたーくさん増やしたかった。それだけなんだよ?』
「ハッ、何がそれだけよ。だったら好きなだけ人形を集めてたら良かったじゃない。そこからどうして人間を人形に変えるだなんて発想に至るのよ。」
『それなら簡単!私はね、生きているお人形さんが欲しかったの!』
「……はぁ?」
『私の事を大切にして、私の事を愛してくれて、私の事を決して裏切らない、傷付けたりしない、そんな生きているお人形さんが欲しかったの!でも、どれだけ探してもそんなお人形さんは見つけられなかった……だからね、自分で作る事にしたの!』
色々な意味で壊れてやがる……嫌ってぐらいそう思わせる様な事を楽しそうに語る少女の話を聞いていたお姫様は心の底から理解出来ないと言った表情を浮かべて……そして俺も、彼女と同じ気持ちになりながら静かに武器を持ち直した。
「……アンタの目的は分かった。でも、そんなものは今日で終わりにするわ。今すぐオレット先輩と他の人達を開放しなさい。さもないと……」
『さもないと、どうするの?』
「……アンタを跡形も無く消し飛ばすわ。」
「へぇ……それは怖いなぁ……」
エクスカリバーが放つ光とお姫様の言葉が脅しではない事を感じたのか、人形から楽しそうだった雰囲気が消え去り部屋の中が異様な空気に包まれ始めた………
「さぁ、どうするの?」
「うーんどうしようっかなぁ……………あっ、良い事を思いついちゃった!」
「……良い事?」
「うん!あのね、手に入れたお友達を返すのも私が消えるのも嫌だから……」
「っ!」
「おいおいおいおい!」
言葉を途切れさせた人形が何十本も指のある両手をバッと俺達の方に向けた瞬間、乱雑に置かれていた全ての人形が浮かび上がった?!
「お姉ちゃんを新しいお友達として迎え入れてあげる!ついでに隣に居るおじちゃんもね!」
嬉しくないお誘いをしてきた少女が高く上げた右手を振り下ろした次の瞬間、宙に浮かび上がっていた人形達が一斉にこちらの方に突っ込んできやがった!
「ふんっ!上等じゃない!アンタの大切な友達、全部ぶっ壊してやるわ!!」
「おわわっ!!」
その場で華麗に一回転しながら放った光の斬撃で周りに居た人形を一気に破壊したお姫様の姿をしゃがみ込みながら見つめていると、彼女は上空に浮かんでいる少女の魂が宿った人形に対しても同じ攻撃を仕掛けていった!
コレまでの経験上、それだけでアッサリ決着が付くもんだと思っていたんだが……そんな甘々な予想は簡単に覆されてしまった……!
「なっ?!」
『うふふっ、残念だねお姉ちゃん。その程度の攻撃じゃあ、私に傷を付ける事なんて出来ないよ。』
バラバラに砕け散って地に落ちて行く人形で斬撃を防いだのであろう悪霊は本当に楽しそうにそう告げると、俺達を見下す様に邪悪な笑みを浮かべていた。
「なるほどね、だったら直接叩き斬って真っ二つにしてやるわよ!」
『へぇ、そんな事がお姉ちゃんに出来るのかなぁ?』
「舐めんじゃないわよっ!」
「あっ!だから1人で突っ走るなってうおっ!?」
攻撃を防がれた事とオレットさんの事が原因で頭に血が上ってしまったのか地面を蹴って悪霊の方に向かってしまったお姫様を引き留めようとした直後、小さな人形が刃物を握りして次々と襲い掛かってきやがった!
『私とお姉ちゃんの遊びを邪魔しないでよね!』
「くっ!どいつもこいつも!」
一直線に突っ込んで来るだけだから刃物を避けて反撃をする事は出来るがその数が多いせいで足止めをされていた俺は、精細さに欠ける動きで悪霊を倒そうとしているお姫様の姿に嫌な予感がしまくっていた……!
「チッ!ちょこまかと動くんじゃないわよ!このっ!」
『うふふふっ!ほらほらこっちだよお姉ちゃん!そんなんじゃ私を消せないよ!!』
「っ!ハアアアアアッ!!!」
「おい!冷静になれ!!」
「うっさい!ザコ相手に手こずってるアンタが偉そうに指図すんじゃないわよ!」
「指図してるんじゃねぇ!そのまま勢い任せに暴れてたら!」
『あはははっ!仲間割れだなんてみっともないなぁお姉ちゃんは!』
「黙りなさい!アイツは仲間でも何でもないわよ!!」
「へぇ、そうなんだ!?じゃあ………あのおじさん、壊しちゃっても良いよネ?」
「っ!?アンタ何を言って?!」
とんでもなく恐ろしい会話が聞こえてきた次の瞬間、いきなり左脇腹に鋭い痛みが伝わってきやがった……!?
「ぐっ!」
『あはははっ!ねぇ痛い?痛い?でもしょうがないよね!おじさんは壊して良いってお姉ちゃんが言ったんだから!』
「か、勝手な事を言ってんじゃないわよっ!アタシはそんな事は!」
「ソイツの話を聞くな!俺の怪我は大したことない!だからっ!!?」
お姫様を落ち着けようと声を荒げたその直後、視界の端にキラリと光る物が見えて反射的に顔を横に反らすと今度は右頬に痛みが……!
あの野郎、人形を囮にして刃物を投げて来るとかなんつー面倒な事を……!いや、考えるのは後だ!今はお姫様に声を掛けねぇと……いけねぇのに喋る暇を作らせない様に人形共が生意気にも連携しながら攻撃をしてきやがる……!
『ねぇねぇ!おじさん、お姉ちゃんのせいで怪我をしちゃったよ!えへへっ!もっともーっと沢山の傷を作ってあげるね!簡単には殺さないよ!どうせだったらジックリ時間を掛けて壊してあげないと!折角お姉ちゃんが許可してくれたんだから!!』
「違う!アタシはそんな許可してない!勝手な事ばっかり言ってんじゃないわよ!」
『違わないよ!だってお姉ちゃん言ったもん!あのおじさんは仲間じゃないってネ!だから壊すんだよ!殺すんだよ!あはははははっ!!』
「黙れ!黙れ黙れ!!アンタなんかすぐにでぶっ壊してやる!!」
『うふふっ、そんな事はさせないよ。もしも私を壊すって言うんなら……この子も、一緒に連れて行っちゃうからね。』
「なっ!きゃああああああああああ!!」
「ミアっ!!」
お姫様がエクスカリバーを勢いよく振り下ろそうとしたその時、彼女と悪霊の間にショーケースから解放された状態のオレットさんが突如として姿を現した!?
それに動揺してお姫様が動きを止めてしまった直後、何処からともなく伸びて来た無数の意図みたいな物が彼女を縛り上げ始めた!!
「ぐうっ!!邪魔、すんじゃねぇよ!!」
今度はふとももが斬られる様な痛みが伝わってきたがそんなものは無視して自分の周りに突風を作り出して人形を蹴散らした俺は、両脚に力を入れて走り始めた!
「ダ……メ………逃げ、て……!!」
「っ!がはぁっ!!」
宙に浮かんでいる悪霊の前に吊るされた苦痛に満ちた表情でそんな叫び声をあげた次の瞬間、彼女の手に握り締められていたエクスカリバーが振り下ろされ光の斬撃がこっちに向かって飛んできた!
咄嗟に躱そうとしたが斬撃の余波に耐えきれず身体は吹き飛ばされて、気が付いた時には人形が並べられていた棚を壊して壁に叩きつけられていた……!
『あははははっ!面白いねお姉ちゃん!おじさんがゴミ屑みたいに飛んでったよ!』
「ふ、ざけん、じゃない、わよ……!この……クソ人形……!」
『うふふっ、そんな状態なのにお姉ちゃんってば反抗的だね!でも良いのかなぁ~?そんなんじゃ、あのおじさんの事を助けてあげないよ?』
「な、なんです、って?」
『あれれ、どうしたのお姉ちゃん?仲間じゃないって言ったのに、あそこで転がっているおじさんの事が気になるの?』
「う、うっさい……!そん、なことより、アイツを、助けるって……!」
『うん!つまりはここから逃がしてあげるって事だよ!お姉ちゃんが私に心と身体をくれたら……だけどね。』
「こ、ころと、からだ……?」
『そう!今の体も好きだったんだけど、ずっと使ってて飽きて来ちゃったの!だからお姉ちゃんの体と心を私にちょうだい!そうしたらおじさんは勿論、他の人達も解放してあげるよ!どうかな?結構良い交換条件だと思うんだけど?』
「ほ、本当に……それで、皆を、助けてくれるの……?」
「うん!約束してあげる!」
「……………」
「……っ!……がっ……!」
マズい……マズいマズいマズいマズい……!止めないと……!助けないと……っ!
ちきしょう……!まともに呼吸が出来なくて……声が出ねぇ……!ざっけんな……!こんなの……認める訳にはいかねぇってのに……!
「……わかった、わ……あたしのこころと、からだ……あげるわ……!だから……!アイツを……みんなを……!」
『やったぁ!それじゃあ契約は成立だね!ほらっ、扉を開けてあげたからおじさんはもう帰っていいよ!あっ、だけど最後のお別れぐらいはちゃんとさせてあげるから!ほら、お姉ちゃんも最後伝えたい事を言って良いよ!』
瓦解した棚の残骸に埋もれながら歯を食い縛って顔を上げていくと……真っすぐにこっちを見つめてきているお姫様と目が合って……
「ごめんなさい九条さん……アタシの我が儘に付き合わせてこんな目に遭わせて……もしも無事にここから脱出する事が出来たらセバス・チャンに事情を説明をして……それとお父様とお母様にごめんなさいって伝えておいて……それと……それと………今まで、本当にありがとう……感謝しているわ、心の底から……」
恐らく少しずつ自由を奪われているのであろうお姫様は儚げに微笑みながらそんな事を伝えてきて……悪霊はそれを聞いて楽しそうにしていやがって……そんな状況を目の当たりにした俺は、プッツンと頭の中に何かが切れる音を聞いた気がした。
『良かったね!これでおじさんは助かったんだよ!さぁ、分かったら早くこの屋敷をら出て行って!私は今からお姉ちゃんと一緒に遊ぶんだから』
「やかましいぞ……死にぞこないの悪霊風情が……」
『……はっ?』
激痛の走る身体を無理やりたたき起こして壁伝いに扉の方に向かって行った俺は、ありったけの魔力を込めた右足で扉を蹴り飛ばして逃げ道を消してやった。
「な、何してんのよアンタ……!折角、コイツが見逃してくれるって……!」
「はぁ……お前も少し黙ってろこのバカが。」
「ば、ばッ?!」
「さっきから聞いてりゃ勝手な事ばかりゴチャゴチャ言いやがって……本当にお前は自分勝手にも程があるだろうが……!」
「っ!だ、だってそれは……!」
「今まで散々俺の事を好き放題振り回してきやがった癖に最後の命令がそれか……?人の事、舐めるのも大概にしろってんだよ……!」
「そ、そんな事を言ったって……!それじゃあどうしろって言うのよ!?そんなに、ボロボロになっちゃったアンタの事を助けるには、他に方法なんて……!」
後悔の念に押し潰されそうになっているお姫様とその後ろで無表情のままこっちを睨み付けてきてる悪霊、そんな2人の姿を目に焼き付けながら大きく吸い込んだ息を吐き出した俺は剣先を視線の先に居る敵に突き付けた。
「そんなもん簡単だろうが……お前は何時もみたいにこう言えば良いんだ……私を、今すぐ助け出しなさいってな……!」
「っ!?」
「……なっ、簡単だろ?」
俺がそう告げるとお姫様は目を見開いたまま固まってしまい、その背後では悪霊がケタケタと耳障りな笑い声をあげていた。
『あはははっ!そんなにボロボロになっちゃってる癖に随分と格好つけるんだねっ!どうしてそんなに頑張れるのか全然分かんないよ!』
「ハッ、そりゃそうだろうよ。テメェみたいな人の心だけじゃなくて色々と無くしちまってそうな奴には理解なんて出来る訳がねぇ。」
『ふーん、生意気なおじさんだなぁ……で、どうするのお姉ちゃん。まさかとは思うけどそんな命令を本当にするの?あんなに傷だらけになったおじさんに。』
「そ、れは……」
『まぁ私はどっちでも良いんだけど、もし命令しないって言うならもう一度だけ扉を開けておじさんが逃げれる様にしてあげるよ?でも、もし助け出してって命令するんだったら………今度こそ本当におじさんを壊すからネ。』
囁かれる様にそう告げられたお姫様はバッと振り返りしばらく固まった様に悪霊と目を合わせ続けると、不安や恐怖といった感情が入り混じってる瞳で静かに俺の方を見つめてきた……そして……
「……分かった……アンタに、最後の命令をするわ……今、すぐに……」
『あはははっ!!どうやら心は決まったみたいだね!さぁ、言ってあげて!この屋敷から出て行けーって』
「私の事を、助け出しなさい!!」
『……………ハァ?』
「了解しましたあっ!!うおおおおっ!!!!」
命令された事を何時もの通り遂行する為に武器を構えながら地面を蹴って一直線に悪霊の方へ走り始めた直後、甲高い悲鳴みたいな音が部屋全体に響き渡り始めた!?
『ただの人間が調子に乗るなっ!お姉ちゃんが私に逆らうって言うんなら、あんな奴グチャグチャにしてやるんだからあああああ!!!』
「ダ、ダメッ!!うあああああっ!!!」
「っ!?ぐうっ!!」
四肢に絡み付いている糸に操られたお姫様が連続して放って来る光の刃を文字通り命懸けで何とか避け続けていた俺だったが、回避行動を取った直後に生まれてしまう隙を狙って人形達が死角から投げてくる刃に何度も身体を傷付けられていた……!
『あはははっ!ほらほら!もっと必死になって逃げ回らないと死んじゃうよ!』
「チッ!!ふざけやがって……!」
少しずつ積み重なってきている経験値のおかげで無駄な動きが無くなってきている事は自覚しちゃいるんだが、攻撃が激し過ぎるせいでお姫様に近付く為のチャンスが無さ過ぎる……!このままじゃ体力も魔力もいずれ切れちまう……!
『さぁさぁ!早くしないとお姉ちゃんの全てを奪い取っちゃうよ!それともその前におじさんが死んじゃうのが先なのかな?あはははははっ!!』
「クソがっ……!オラァッ!!!」
エクスカリバーを無理やり振るわされているせいなのか苦悶の表情を浮かべる様になってきたお姫様の事が気になりつつバク転をして後ろに下がった俺は、上の方から降って来た人形数体を斬り壊すと歯を食い縛りながら思考をフル回転させていった!
「はぁ…はぁ…はぁ……!」
『あーあ、情けないなお姉ちゃん。もう魔力が切れそうなの?でも、まだまだ許してあげないよ?だってまだおじさんが壊れて無いんだもん!えへへへっ!どっちが先に限界を迎えちゃうのか楽しみだね!』
マズい、アイツが言っている事が本当なんだとしたら残されてる時間はもう無い!早い所ケリを付けないとお姫様の全てが奪われちまう……!考えろ……考えるんだ!どうすればこの場を切り抜けられる……!どうすれば悪霊を倒す事が…………っ!
「うっ……あっ……!」
『苦しそうだね、お姉ちゃん!だったら早くおじさんを壊さないとだよ!そうすればすぐにでも楽になれるんだから!ほらほら!!』
目の前から迫りくる光の刃を見つめながら思い出す……どうしてアイツはお姫様と人形、両方を同時に操って攻撃を仕掛けて来ないのか……どうして、回避後に出来る隙を狙うだなんて面倒な真似をするのか……!考えらえる理由は……ただ1つ……!
「っ、うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」
「ば、ばか……!アンタ、一体なにをして……!?」
『あははははっ!凄い凄い!おじさんってばお姉ちゃんの攻撃を真正面から受け止めちゃったよ!もしかして最後に良い所を見せたかったのかな?でーも、無駄だよ!』
「がはぁっ!!」
死に物狂いで耐えていた時に刃物で脇腹を刺されて放たれた光の斬撃に押し潰され吹き飛ばされ後ろにあった扉に叩きつけられていた俺は、全身を激痛に襲われながら途切れそうな意識を何とか繋ぎ止めて正面に目を向けた……
『ふふっ、うふふふっ、あははははっ!どうやら先に終わりを迎える事になったのはおじさんの方だったみたいだね!』
「は、はは……確かに、そうらしいな………でもまぁ、これで、お前の負けだ……」
『はぁ?何を寝ぼけた事を言ってるのかな?私が負けるだなんて、もしかして夢でも見ちゃってるのかなぁ?』
部屋のど真ん中でふわふわ浮かびながら心底バカにする様に俺を見下してきている悪霊に対して、俺はニヤリと笑いながら人差し指を伸ばしていき……
「これ……一度でいいから、言ってみたかったんだよなぁ……それは、どうかな?」
力の入らない声でそう告げた次の瞬間、部屋の中に物凄い衝撃と眩いばかりの光が溢れ出して断末魔みたいなものが部屋中に響き渡ってきた。
『えっ!?ど、どうしてっ……?!』
「……ちょっと待ってなさい、すぐに終わらせるから。」
抱えていたオレットさんを優しく床の上に置いて静かな声でそう言ったお姫様は、普通の言葉には聞こえない何かを唱え始めた……そうしたら、いきなり悪霊の四方に金色に輝く魔法陣が出現した!?
「ガアアアアア!!!キ、キサマアアア!!ワタシニナニヲオオオオオ!!!?」
「黙りなさい、アンタの声って聞いているとイライラしてくるのよ。」
「ギャアアアアアアア!!!!!」
「……わーお……」
空中に飛び上がり一瞬にして悪霊の手足を斬り落として跡形も無く消滅させてったお姫様の姿を呆然と眺めていると、壊れて地面に転がっていた人形が一斉にガタガタ動き始めたんだが……
「無駄よ。」
たった一言、お姫様がそう呟いたら今度は床一面にバカでかい金色の魔法陣が出現して人形は大人しくなっていった。
『グガガガガガ!コンナ、コンナコト、みとめラレない!ありエ、なイ!ワタしは!わタシはまだ!キエルわけにハ!』
「いいえ、アンタはもう……消え去るべき運命なのよ。」
眩いぐらいの青白い光を放っているエクスカリバーをゆっくりと振り上げていったお姫様は断末魔の叫び声をあげている悪霊を真っすぐ見据えると、力強く踏み出していきながら刃を降ろしていった……そして部屋全体が光に包まれていき…………
「………は、ははっ、こりゃすげぇ……や………」
意識が薄れゆく中、俺が目にした光景は……肩から真っ二つに斬り裂かれて消えていく悪霊と……崩壊したステンドグラスと壁の向こうで光る綺麗な満月だった………
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