第174話

「ふーん、外観はこんな感じなのね。そこまで荒廃している感じはないみたいよ。」


「……よって言われましてもですね……」


 すぐ隣で何故だか笑みを浮かべているお姫様にジトッとした視線を送った後、俺は目の前に存在している紅い満月に照らされた不気味な屋敷を見上げてみた。


 その時、不意に嫌な気配を感じてジッと目を凝らして窓の方に視線を向けてみるとそこには沢山の人形がビッシリと張り付いていて!!?!?


「うおおおおっ!!?!?」


「だから急に大きな声を出すんじゃないわよ!ビックリするじゃない!」


「い、いやだって!アレを見てみろよ!」


「アレ?………ふーん、やっぱりそういう事だったのね。」


「な、なんでそんなに冷静でいられるんだ!?ってか、やっぱり?それってどういう意味だよ!?」 


「ギャーギャー騒ぐんじゃないわよ煩いわね。アンタには言ってなかったけど、実はウチの書庫にある古い資料とかを探ってみたらこの屋敷に関してそうな資料を幾つか見つけたのよ。」


「資料だって?って事はこの屋敷が生まれた理由……とか………」


 ギィ……という軋む音が鳴り響いたのと同時に古ぼけた木製の扉がゆっくりと開き始めて……そこから生暖かいんだが肌寒いんだかよく分からない風が吹いてきて……


「ふふっ、どうやらアタシ達の事を歓迎してくれているみたいね。すぐにでも期待に応えてあげたい所だけど、その前に屋敷の事について軽く説明してあげるわ。コレをどうやって出現させたのか、その方法についてもね。」


「……その台詞、やっぱりこの事態を引き起こしたのはお前だったのか……」


「えぇ、上手くいくかどうか不安だったけど成功してくれて本当に良かったわ。」


「……………」


 良い事なんて1つもねぇよ!……なんて言ったら面倒な事になるのは分かりきっているので、俺は混み上がって来る様々な感情を落ち着けながら口を閉ざし続けた。


「それじゃあ簡単に説明すると、この建物は今から数百年前頃にとある商人が建てたみたいよ。」


「数百年前!?そんなに昔の建物なのか?ってかとある商人って……そこに関しては情報とか無かったのか?例えば名前とかさ。」


「残念だけど古い資料にはそれらしい名前は1つも載ってなかったわね。それで話を続けるけど、商人はそれなりに名が知られてた奴だったみたいでソイツには奥さんと娘さんが居たみたいなの。」


「ふーん、要するに勝ち組中の勝ち組だったって訳か……」


「えぇ、アンタとは正反対って訳ね。」


「余計なお世話だ!それよりもサッサと教えてくれ。さっきからこっちを見て来てる人形とその商人には何の繋がりがあるんだ……!」


 屋敷から出られないのか何なのか分からないが窓に張り付いたままジッとしている人形達を不気味に思いながらそう尋ねると、お姫様短く息を吐き出した。


「……商人は大陸のあちこちを旅しては、お土産として高価なお人形さんを娘さんに買ってきていたみたいよ。それが悲劇を招く結果になるとは思わずに……」


「悲劇だって?……この家族に何かあったのか?」


 突然聞こえて来た不穏な言葉に眉をひそめていると、お姫様は真剣な眼差しで紅く染まる屋敷をジッと見上げ始めた。


「……あまりにも大昔の話だからコレが真実かどうかは確かめ様がないけど、商人と奥さんはここに押し入って来た強盗に殺害されたわ。」


「っ!?さ、殺害って……一体誰に!?」


「……名も知らぬ強盗によ。さっきも言ったけどこの屋敷には希少価値のある人形が幾つもあった。どうやらそれを狙った奴らに襲われて命を落としたみたいよ。」


「…………」


「幸いな事に娘さんは咄嗟に身を隠したおかげで助かったみたいだけど、両親が目の前で殺害される現場を目の当たりにしてショックのあまり心を閉ざして家の中に閉じ籠る様になったそうよ。」


「………いてっ!いててっ!ちょっ、何すんだよ!?」


 淡々と語られる衝撃的な話を聞きながら複雑な心境になっていたら、突然お姫様が人差し指で胸をトントンと勢いよく突いてきた!?


「そうやって感傷的になったり同情したりしてると、そこを付け込まれる事になるんだから気を付けなさい。コレは大昔のアタシ達には関係のない話なんだから。」


「……そう、だな……悪い。」


「謝んなくても良いわよ。それでご両親を亡くした娘さんは莫大な遺産を手に入れる事になった訳なんだけど……話はここから更にぶっ飛んでくるわよ。」


「……は?ぶ、ぶっ飛んで……?」


「えぇ、その娘さんなんだけど莫大な遺産とやらを使って色々とヤバい事に手を出し始めたみたいなのよね。」


「ヤバい事……?えーっと、何だか聞きたくない様な………」


「聞かなきゃこの屋敷がどうしてこんな場所になったのか分からないわよ。娘さんはまず大陸の中と外に関わらず怪し気な人形をバカみたいに集め始めたみたいでね……そして最後には何を思ったのか生きている人を人形にしようと考えたらしくて……」


「マ、マジかよ……それは確かに……ぶっ飛んでるな……」


「でしょ?そんな考えを持った頃からなのか失踪事件が起きる様になってね。それで最終的には屋敷は火を付けられて娘さんや人形も炎と一緒に……」


「も、もういい分かった!……ついでにこっちを見てる人形が何なのかもな……」


「ふふっ、娘さんに命を奪われてしまった人達の怨念って所かしらね。」


「く、口に出してそう言う事を言うんじゃない!ひっ!!」


 ……カナシイ……サビシイ………


         ……ダレモ……イナイ………


                ……ズット……ヒトリ………カナシイ……


「あら、どうやら早く来いって催促されてるみたいね。それじゃあ最後に屋敷を出現させる条件を教えてあげるわね。」


 ぐうっ!なんでこのお姫様はこんな声を聞いても満面の笑みを浮かべながら平然としてられるんだよ!?どう考えなくたってヤバい状況過ぎるでしょうが!


 そんな事を考えながら今すぐこの場から逃げ出したい思いに駆られていると、急にお姫様が俺の目の前に人差し指をピンっと立ててきた。


「屋敷を出現させる条件は3つ!1つ目は満月である事!2つ目は女性がいる事!

3つ目は何でも良いから人形を持っている事!以上!それじゃあ屋敷に」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!心の準備をする時間が欲しいから、その条件についてもうちょっと詳しく!」


「満月である事ってのは屋敷が焼き払われた日に満月が浮かんでいたから。2つ目の条件は娘さんが人形にする為に殺害していたのが女の人ばかりだったから。3つ目の人形についてはさっきの話で察しなさい!さぁ、それじゃあ行くわよ!!」


「いや、ちょっと待って!お願い!さっきの話を聞いてからだからまだ覚悟がっ!あ、あ、あああああああああああ!!!!!!」


 不気味な声を聞いて何故だかテンションが上がったお姫様に強引に手首を掴まれた俺は、可愛い女の子と接触しているというドキドキよりも恐怖心が勝って涙目になりながら屋敷の中に引きずり込まれて行くのだった!!ってかマジで助けてくれぇ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る