第171話
事前の下調べが完璧だったのか何度もこういった事をしているのか分からないが、巡回の警備兵と遭遇しないまま慎重に廊下を進んで来た俺達だったが2階へと降りる階段がある目前の廊下の先にゆらゆらと動いている灯りみたいな物を発見した!
「お、おい!アレって!」
「静かに!こっちに来なさい!」
マスターキーを使って近くにあった扉の鍵を外したお姫様と一緒に部屋の中に逃げ込んで行った俺達は、息を殺しながら灯りの行方を視線で追いかけ続けて……それがゆっくりと離れていくのを確認してホッと胸を撫で下ろすのだった。
「あ、危なかった……ったく、巡回については把握してるんじゃなかったのか?」
「うっさいわね、見つからなかったんだから文句を言うんじゃないわよ。それよりも早く移動するわよ。あの警備がまた戻って来ないとも限らないからね。」
そう告げて真っ先に部屋を出て行ったお姫様に聞こえないレベルのため息を零してから彼女の後を追い掛けて、何とか誰にも見つからず1階まで来た訳なんだが……
「おい、出入り口はあっちだろ?なんで反対後方に行こうとしてんだよ。」
「そっちに行ったら警備が厳重になってるからに決まってるでしょ。アンタ、まさか堂々と正面から外に出て行くつもりだったの?そんなの少し考えれば無理な事ぐらい分かるでしょうがこのバカ。」
「バ、バカってお前な……それじゃあ何処に向かおうとしてるんだよ。」
「食糧庫にある勝手口よ。そこから裏庭を通って街道に出るの。」
「なるほど……でもさ、勝手口や裏庭にも警備兵が巡回してるんじゃないのか?」
「当然、巡回しているわ。だけど安心しなさい。勝手口には特殊な鍵が掛けられてるからそこまで厳重に警備されている訳じゃないの。だから見つからない様に街道まで出るのなんて楽勝よ。」
「そうなのか?って、どうしてそんな事まで知って……いや、それよりも特殊な鍵?そんなの掛かってるなら簡単には外に出れないんじゃないのか?」
「余計な心配はしなくていいわよ。ほら、鍵ならこうして持ってるから。」
お姫様はスカートのポケットに手を突っ込んでマスターキーとは形が違う鍵を取り出すと、勝ち誇った様な笑みを浮かべながらソレを俺に見せびらかしてきた。
「……お前、お姫様じゃなくて本職は怪盗なんじゃないのか?つーか、そんな大事なもんを勝手に持ち歩いたりして大丈夫なのかよ……?」
「問題無いわよ。コレは本物の複製品だから。」
「複製だって?……そんな物、どうやって用意したんだ?」
「それはまぁ……色々と手を回してね。」
「……マジかよ……」
うわぁ、物凄く悪い顔で微笑んでらっしゃるわぁ……ったく、どんな手を使ったか知らないけど絶対に教えないで欲しいな!聞いちまったら、確実に後悔する事になりそうだし……触らぬ神に祟りなしってな。
余計な情報を得ない様に話をそこで終わらせた後、巡回の目を掻い潜って目的地である厨房横にある食糧庫に辿り着くとお姫様が振り返ってこっちを見て来た。
「ねぇ、今の時刻は?」
「ん?………1時32分だ。」
「ありがとう。それじゃあ行くわよ。」
「お、おう。」
部屋の一番奥にある頑丈そうな木製の扉に掛かっていた鍵を外したお姫様と慎重に出て行くと、ちらほらと手持ちライトと思わしき光が揺れ動いているのが見えた。
「警備が手薄って言ってもそれなりに人が居るからサッサと抜けるわよ。姿勢を低くしてアタシに付いて来なさい。」
「はいよ。」
言われた通り屈み込んでお姫様と一緒に走り抜ける様にして視線の先に存在してる城壁の方に向かって行くと、そこには街に出る為の鉄製の扉が存在していた。
お姫様は当たり前の様にポケットの中からさっきとは違う鍵を取り出すと、それで錠を開けて路地の方に出たので俺もその後を追って行った。
「ふぅ、どうやら誰にも見られず抜け出せたみたいだな。で、次は何処へ?」
「この後は街の東門に向かうわ。だから……フッ!」
「……えっ?」
威勢の良い掛け声と共に地面を蹴って走り始めたお姫様は建物に沿う様に置かれていた大小様々な木箱を足場にして、そのまま飛び上がって行ってしまった!?
「ほら!ボーっとしてないでアンタもこっちに来なさい!」
「き、来なさいって!?危ないだろ何をしてんだよ!」
「うっさい!大きな声を出すんじゃないわよ!ってか急ぎなさいよ!そっちの方から警備兵が来てるから!」
「はぁっ?!」
お姫様が指を差した方向に目を向けてみると、薄ぼんやりとしたライトの明かりが近付いて来るのが見えたので俺は慌てて木箱を足場にしてお姫様の所まで向かおうとしたんだが……!
「うぉっとと!」
「危ない!」
「っ!」
建物の屋根に着地した直後にバランスを崩しそうになっていると、お姫様がグッと俺の手を掴んでくれて何とか落下せずに済んだ!マ、マジで死ぬかと思った……!
「ヒ、ヒヤヒヤさせんじゃないわよ……!アンタのせいで城を抜け出した事が警備にバレちゃう所だったじゃないの!」
「す、すみません……って、俺よりそっちの心配ですか……」
「当たり前でしょうが……それよりもコレ、貸し1つだからね。」
「ぐっ……分かりましたよ……」
「なにを不服そうにしてんのよ。って、本当に急ぐわよ。合流時間に遅れちゃったら迷惑掛かっちゃうから。」
「はい……ん?合流?一体誰と……も、もしかして……」
「察しの通りよ。ほら、今度は落ちそうになるんじゃないわよっ!」
「あっ、おい!……あぁもう、とんだお転婆だな……!」
建物の屋根を飛び移っていくお姫様の後を追い掛けて王都の東門付近まで来た後に門番の監視の目を掻い潜って王都を抜け出す事に成功した俺は、月明かりが照らしている街道を進み続けた……そうしたら1台の馬車と一人の顔見知りが……
「ほっほっほ、お待ちしておりましたよ。」
「……やっぱり貴方でしたか……セバスさん……!」
朗らかに微笑みかけてくるセバスさんの姿を目の当たりにした俺は、ガクッと肩を落として盛大なため息を吐き出すしか無かった……
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