第154話

 【緊急時や扉の開閉をする時以外は仕える主人の前を歩かない事】的な事が手帳の心得に書かれていたので、俺とセバスさんはお姫様から少し距離を取って後ろの方を歩いて階段を降りて2階へと向かっていた。


「九条さん、もしよろしかったらこの後の予定を教えて貰えるかしら。」


「……この後は10時まで勉学の予定は入ってます。その後は礼儀作法を学ぶ時間が30分、ピアノの練習をする時間が30分、そして10分の休憩取った後、12時になるまで国王陛下達と一緒に市民の方達に接見をして頂きます。」


「ふふっ、ちゃんと私の予定を把握している様で何よりです。良く出来ました。」


「……お褒め頂き光栄です。」


 恐らくちょっとした試験だったんだろうが無事に合格する事が出来たらしい俺は、お姫様に対して軽く頭を下げるのだった。


「それでは九条さんに次の質問です。勉学を行うのは一体何処の部屋でしたか?」


「えっ?部屋?そ、それは……あー……」


 階段を上がって2階にやって来た瞬間にいきなりそんな質問をされたんだけど……ちょ、ちょっと待てよ!さっきセバスさんに見せてもらった予定表に部屋の事なんて書いてあったけか?手帳にはそんな情報は何も……まさか書き写し忘れた!?


「あら、もしかして分からないんですか?そうだとしたら、奉仕義務を怠ったという事で期間の延長を考えなくてはいけませんね。」


「い、いや!それはちょっと!」


「九条殿、ミアお嬢様がこれから向かうお部屋は自習室となっております。」


「じ、自習室ですか?その部屋なら確か……この階の奥の方にありますよね?」


「はい、その通りでございます。よくご存じでしたね。」


「まぁ、手帳に載っていた地図を見て大体の部屋の位置は覚えましたから……」


「なるほど、流石でございますね。お嬢様、これで九条様の能力については問題無しという事でよろしいですね。」


「ふぅ、残念ですがそうみたいですね。」


「は、え?ど、どう言う事ですか?」


「ほっほっほ、申し訳ありません。実はお嬢様からご命令を受けまして、予定表から目的地の情報を削除させて頂きました。」


「な、なっ!?なんでまた、そんな事を……」


「お城の中にある部屋の場所をきちんと把握しているのかどうかを確かめる為です。それと……アンタの慌てふためく様を見てみたいと思ったから、かしらね。」


「……おいコラ……」


「ふふっ、そんなに怒らないで下さいませ。ちょっとした冗談じゃないですか。」


「ぐ、ぐぬぬ……!」


 人差し指を唇に当てて悪戯っ子の様に微笑んだお姫様に少しだけドキッとしたが、だからって絶対に油断してたまるか!


 だって今の質問、セバスさんの助けが無かったらこのお姫様は情け容赦なく義務の期間を延長しやがるだろうからな!それに一瞬だけ見えた瞳の奥に、次はどうやって俺を追い詰めるか画策する意思を感じたぞ?!


「さぁ、それでは急いで自習室に向かうと致しましょうか。先生が首を長くして私の事をお待ちしていると思いますから。」


 優雅に廊下を歩き始めたお姫様の後を追いながら油断大敵の文字を心に刻み込んだ俺は、念の為にこの後に使う部屋の場所をセバスさんにこっそり確認するのだった。

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