第153話

「皆様、お待たせ致しました。九条殿をお連れして参りました。」


「うむ、ご苦労だった。九条透、朝早くからの呼び出しに答えてもらい感謝する。」


「い、いえいえ!これぐらい何でもないですから!はい!」


「そうか、そう言ってもらえると助かる。」


「は、はは……それはどうも……」


 昨日に引き続き息が詰まりそうな空気感を放ちまくる玉座の間でド緊張するあまり変な返事をしてしまったと思いながら、俺はセバスさんの隣に立ちながら高い所からこっちを見下ろしてくる国王陛下達の方を苦笑いをしながら見上げていた。


「それでは、奉仕義務の件もあるので早々に本題へ入るとしようか。」


「本題……えっと、すみません具体的な事をまだ何も聞いてないんですけどコレから俺は自己紹介とかをすれば良い感じなんでしょうか?」


「その通りだ。お主の事については調査資料に目を通しているのである程度は把握をしているのだが本人の事については直接聞くのが一番だからな。」


「は、はぁ……って、調査資料?お、俺のですか?」


「うむ、簡易的ではあるが兵を使って調べさせてもらった。」


「……………」


 国王陛下は何枚かの紙を重ねて手に持ちながら俺に見せてくれた……って言うか、昨日から今日に掛けての短い間にマジで俺の資料を作成したってのか!?いやいや、マジで怖すぎなんだが個人情報漏洩しまくりじゃねぇかよ!


「今からここに記されている事を読み上げていく。間違いが無いか確認してくれ。」


「……は、はい……分かりました……」


 こっちの世界に来てから別に問題行動とかはしてないから別に大丈夫だとは思うんだけど……正直に言うと、あんまり良い気はしないわな……声を大にしてそんな事を言うつもりはないけどさ、怖いから。


「それでは、基本情報から読み上げさせてもらおう。名前は九条透。年齢は30歳でレベルは……15?これは本当なのか?」


「え、えぇまぁ……ここ最近は冒険者カードを見ていなかったので、正確かどうかは断言できませんけど……多分、間違いないと思います。」


「そうなのか……いやすまない、年齢が30にしてレベルが15と言うのは平均的に考えると少し低い様な気がしてな。」


「あ、あぁ……そう、なんですか……」


 ヤッベェ!やっぱり俺ぐらいの年齢でレベルが15は低すぎんのか!どうする!?これ以上掘り下げられたら色々と面倒な事態に発展する様な気がする!お願いです!これ以上は聞いてこないで下さいませ!


「申し訳ないが、これ程までにレベルが低い理由を聞かせて貰ってもよいだろうか。それとトリアルに訪れる以前の情報が何処にも無いとの報告もあったのだが、もしやその事と何か関係があるのか?」


「あっ、えっと、その、ですねぇ……」


 やっぱダメでしたか!そりゃそうですよね!つーかトリアルに来る以前の事なんてどう説明したら良いんだよ!?実は俺、異世界から来たんですよ!なんて言ったら、確実に俺はどっかの病院にぶち込まれちまうんじゃねぇか!?ぐっ!こうなったら!


「じ、実はですね!トリアルの街に住む以前は森の奥の人里から離れた場所で両親と自給自足の生活をしていたんですよ!」


「……ほぅ、珍しいな。何故その様な生活を?」


「そ、そのですね!俺、幼い頃はとても小さな村で暮らしていたんです!でも、その村がモンスターの大群に襲われてしまって……!それで住む所が無くなって……!」


「何だと?それは本当なのか?一体何という名の村なのだ?」


「あぁいやぁ、それが両親に聞いてみても教えてくれなくて……俺自身も、幼い頃の記憶なのでその時の事は何も……すみません……」


「謝らないで下さい、九条さん。きっとご両親は、貴方の辛い記憶が呼び起こされてしまうと思ったから何も教えなかったのでしょう。」


「うむ、きっとそうなのであろう……ぐっ、まさか私の知らない所でその様な悲劇が起きていたとは……!」


 お姫様の成長後の姿みたいな黒髪ロングのおっとり美人系の王妃様が慈愛に満ちた瞳でこっちを見つめながらそう呟くと、国王陛下は自分の不甲斐なさに怒りを覚えた様に悔しさを滲ませていて……


 ほ、本当にごめんない!!嘘です!全部嘘!それらしい事を適当に言っただけですので、そんな辛そうな表情をしないでくれませんかね!?俺の良心がズタズタになりますので!


「すまなかった……お主の辛い記憶を呼び起こす様な真似をしてしまい……」


「い、いえいえいえ!全然問題ありませんよ!今はこうして元気に生きてますから!そ、それでえっと!そんなこんなでこの歳になるまで暮らして来たんですが、両親が揃って亡くなってしまって……!で、生きる為にトリアルに来たという訳です!」


「ご両親が……お悔やみ申し上げます…」


「お、お心遣いありがとうございます……あっ、それで俺のレベルが低いのは家族の中では農作業が俺の担当でして、時々現れるモンスターを討伐をするのは父親の役割だったからです、はい。」


「そうだったのか……無神経な質問をしてしまって済まなかった。」


「ぜ、全然!どうかお気になさらずに!もう吹っ切れてますから!はい!ですので、そろそろ次に行きましょう!皆さん、予定が詰まっていますからね!」


「……うむ、お主がそう言うのなら次の質問に移ろう。」


「は、はい……」


 良心を削られながら苦笑いを浮かべた俺は、これまで黙っていたお姫様に一瞬だけ視線を送ってみたのだが……うわぁ、国王陛下と王妃様にバレない様に微笑みかけてきやがった……これはまずいぞ……嘘がバレてる可能性がメチャクチャ高い……


「おほん、それでは読み上げを再開させてもらう……現在はトリアルの街に一軒家を持っており、そこで生活をしている……髪色がピンクで推定15歳程度の少女と共に暮らしているとあるが……これは間違いないのか?」


「あ、はい。実はその、女の子は両親の友人の娘さんなんですけど……その子も俺と同じで身寄りがなくなってしまって……面倒見てるって感じです……」


「うふふっ、九条さんはお優しい人なんですね。」


「や、優しいだなんてそんな事は……」


「謙遜する事は無い。お主の行いは誇るべきものだ。」


「あ、あはは……ありがとうございます……」


 もしかしてこの人達は今までの話が全部嘘だって分かっていて、俺を罪悪感で押し潰そうとしているのかしら?もしだとしたら、成功しそうなんでそろそろ手加減して欲しいなーとか思ったりするんですけども……


 みたいな現実逃避をしながら確認作業が行われていったんだが、その後は特に嘘を吐く必要がある様な場面は訪れなかった。


 まぁ、ロイドの実家で会った襲撃事件の件とかテーマパークでの一件とかちょっとヒヤッとする瞬間もあったが、それらについても別に普通に受け答えするだけでまぁ何とかなった……はずだ。

 

「……これにて確認作業は終わりだ。朝早くからの協力、感謝するぞ。」


「いえ、お役に立てた様で何よりです……」


 自己紹介という名の取り調べがやっと終わった事に安堵しながら頭を下げた直後、玉座から少し離れた所に立っていた若くてイケメンの執事さんがススっと国王陛下の傍に歩み寄って行った。


「国王陛下、そろそろお時間となります。」


「ふむ、もうそんな時間なのか……九条透。」


「は、はい!何でしょうか!」


「突然課してしまった奉仕義務に困惑していると思うが、娘のミアの事を頼んだぞ。それと困った事があれば、お主の隣に居るセバス・チャンを頼るが良い。必ずお主の力になってくれるはずだ。そうであろう?」


「はい。勿論でございます。」


「うむ。それではセバス・チャン。後の事は頼んだぞ。」


「かしこまりました。それではミアお嬢様、九条殿、参りましょうか。」


「えぇ、そうですわね。それではお父様、お母様、失礼致します。」


 セバスさんがそう言うとお姫様は優雅に座っていた椅子から立ち上がると、2人にに深々とお辞儀をしてからこっちに歩み寄って来た。


 その後、俺とセバスさんも国王陛下と王妃様にお辞儀をしてから緊張感の包まれたままの玉座の間を後にするのだった。

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