第151話
女王様的なポーズで椅子に座るお姫様と対峙した俺は、苦笑いを浮かべながら拘束されてる手首と一緒に両肩をガクッと落としていた……その直後、セバスさんが俺の背中に軽く手を添えて来た。
「九条殿、ここでは何ですのでどうぞ部屋の奥にお進みください。」
「……そう言われましてもですね、俺なんかがお姫様に近寄るのは恐れ多いと言うか何と言うか……?」
「その様な抵抗、しても無駄なだって分かってますよね。」
「……ハイ、ソウデスネ……」
「ご理解して下さっているのなら諦めてさっさとこちらに来て下さい。」
小首を傾げながら微笑むお姫様の姿に一瞬だけドキッとさせられた気がしたけど、その事を勘付かれたらヤバいと直感した俺は表情を読み取られない様になるべく顔を見られない様にうつ向きながら部屋の奥にゆっくりと歩いて行った。
「良いわ、そこで止まりなさい。」
お姫様まで後5,6歩という所で言われた通りに立ち止まった直後、セバスさんがお姫様の座る椅子の横に移動して行った……ってか、マジで何なんだこの状況は!?
とんでもなく嫌な予感しかしてこないんですが?!と、とりあえず探りを入れつつこの場を上手く切り抜ける為に必死に思考を働かせるんだ……!そうしないと、多分だけど色々な意味で終わっちまう気がする……!!
「えーっと……お姫様、奉仕義務を課せられたこの私に一体どんな用事があってこの様な真似をしていらっしゃるんでしょうか?」
「九条殿、言葉遣い。」
「別に構わないわセバス・チャン。私もこれから普通に喋るつもりだったしね。」
「……左様でございますか。それでは九条殿、どうぞ気を楽になさって下さい。」
「いや、気を楽にと言われましてもこの状況じゃかなり難しいんですが……ってか、普通に喋るってのはどういう意味で……?」
「ふんっ、どういう意味も何も無いわ。言葉通りの意味よ。私も堅っ苦しい喋り方を止めさせてもらうって事よ。ったく、アンタも察しが悪いわねぇ。」
呆れた表情で頬杖をつくお姫様の口調は完全に砕けきっていて……!ちょっと何かいきなりの変貌っぷりに色々とショックが大きすぎるんですが!?
俺の理想としていたお姫様は丁寧な口調で男慣れしてなくてそれでも勇気を出して照れながらも可愛らしく好きな人に接したりするそういう人物像だったんですよ!?
それなのに現実と来たら……!こんなのどう見たって我の強い暴力系ヒロインじゃねぇかよ!助けて!キャラとしてはそこまで嫌いじゃないけど実際に自分がそんなの相手にしなきゃいけないだなんて流石に俺には荷が重すぎるわ!!
「さてと……アンタ、どうしてアタシがこんな真似をしたのか聞きたいのよね?」
「へっ!?あ、あぁ……それは……まぁ……」
「……なに?その曖昧な返事は。聞きたいの?聞きたくないの?どっち!」
「き、聞きたいです!聞きたいですはい!それはもう!」
「ふんっ、それならシッカリと答えなさいよね。」
……おかしいな、俺にあるはずの大人の威厳って一体何処に行ったんでしょうか?いやまぁ、最初っから持ってた記憶も無いっちゃ無いんだけど……う、ううっ……!
「それじゃあご期待に応えて教えてあげるわ。アンタを拘束した理由、それは……」
「そ、それは……?」
ゴクリと生唾を飲み込んで顔を伏せていったお姫様の姿をしばらく眺めていると、彼女はそれはそれは良い笑顔を浮かべながら勢いよく顔を上げて……
「特にないわね!」
「……………えっ?」
「だ・か・ら・アンタを拘束した理由は特に無いのよ。」
「……は、はぁ?!いやいやいや、冗談でしょう?!」
「別に冗談なんかじゃないわよ。だって今更逃げも隠れも出来ないアンタを拘束した所で私には何の得も無いじゃない。」
「な………なっ………!」
まさか開いた口が塞がらないを実際にやる日が来るとは想像もしていなかった……いや、この世界に来てから何度かやった気も……って、そんな事はどうでも良くて!
「そ、それじゃあ早く俺の拘束を解いてくれよ!」
「……それはダメよ。」
「なんでっ?!」
「そんなの、お願いの仕方がなってないからに決まってるでしょ?」
「お、お願いの仕方だって?」
「そう、今のアンタは私に奉仕する立場……下僕って所かしらね。そんなアンタが、私に向かって解いてくれだなんて……言葉遣いがなってないと思わない?」
「そ、それは……!」
「ご主人様にお願いするんなら、それなりの態度って物があるでしょう?ね?」
「お願いします!どうかこの俺の両手首の拘束を解いて下さいませ!どうかどうか!この通りでございますううううう!!!」
微笑むお姫様に向かって即座に土下座をした俺は必死になって額を床に擦り付けていた!プライド?そんなもんとっくの昔に捨てちまったわバーカ!!
「……アンタ、それで良いの?」
「勿論!拘束が解かれるならば私は何処までもこびへつらいましょうとも!」
「そ、そう……セバス・チャン、ソレを外してあげて。」
「はい、かしこまりました。」
なんかお姫様にドン引きされた様な気がしないでもないが、どうせ1週間そこらの付き合いなんだ!気にする必要は特に無いよなぁ!
みたいな感じで色々と吹っ切れていると、セバスさんが近寄って来て拘束バンドを小さいハサミの様な物でチョキンと切り取ってくれた!やったね!これで俺は自由を取り戻した!まぁ、ほとんど存在していないのと同義の自由だけど……!
少しだけ赤い跡が残っている手首を軽く回しながらため息を零して椅子に座ってるお姫様と顔を合わせた俺は、色々と聞きたい事があったんだが……何処からともなくゴーンゴーンという鈍く響く鐘の音みたいなものが鳴り響いてきた。
「ミアお嬢様、お夕食のお時間でございます。」
「あら、もうそんな時間なのね。楽しい時間はあっという間だわ。」
……楽しい時間なんて物があったのかは疑問だが、お姫様が満足してくれてるならとりあえずは良かったという事にしておこう!……明日以降がだいぶ不安だけど……
「それでは九条殿、ミアお嬢様と私はこれにて失礼させて頂きます。」
「え、あ、はい……わ、分かりました……」
言いたい事が無い訳じゃないが下手に口を出してまた面倒な事に発展するのだけは絶対に避けたかったので、自分の意思をグッと押し殺して立ち上がった俺は満足気に部屋を出て行こうとするお姫様と付き添うセバスさんを見送る事にした。すると……
「あぁそうだ、今の内にアンタに伝えておく事があったわね。」
「……伝えておく事?」
「そう、明日から本格的に私に奉仕をしてもらう訳だけど公の場で私と居る時は常に丁寧な口調で話しかけなさい。普通に話をして良いのはあくまでも私達と一緒に居る時だけ、分かったわね?」
「お、おう……」
「それと私の事はお姫様じゃなくってミアお嬢様って呼びなさい。もしもお姫様って呼んだりしたら、奉仕期間を延長させるからそのつもりでいなさい。」
「りょ、了解しました!」
「うん、理解したのなら何より。それじゃあ明日からよろしくお願いしますね。」
お姫様……いや、ミアお嬢様はそう告げて猫を被った笑顔をこちらに見せてくるとセバスさんを残して一足先にそのまま部屋を出て行ってしまった……
「九条殿、本日は本当にお疲れ様でした。それと申し訳ございませんでした。」
「あ、あぁいえ……気にして無いから大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。そう言って頂けると助かります。それでは九条殿、明日は朝の7時頃に私の執務室に来て下さいませ。執務室の場所は手帳の地図に載っておりますので遅れない様にお願い致しますね。」
「分かりました。明日の朝7時、執務室ですね。」
「はい。それでは失礼致します。」
セバスさんはら俺に対して深々とお辞儀をしてくると、静かな足取りで部屋を後にするのだった……その後、そして完全に1人になった部屋の中で俺はお姫様が使っていた椅子にドカッと座り込んで思いっきりため息を吐き出していた……
「はぁ………マジで疲れたぁ……怒涛の展開すぎて頭が追い付かねぇっての……」
つーか、マジであんなお姫様の相手をこれから1週間もしないといけないのかよ?無事に期間内に終えられるか物凄い不安なんですけど……
絶対にタダ働きはしたくはないし、さっさと我が家に帰りたいから死ぬ気で頑張るしかなさそうだなぁ……
「あーあ……逃れられない仕事に追い詰められていく感覚……久しぶりだなぁ……」
昔の事を思い出して若干気落ちしながら部屋の中を軽く散策した後、メイドさんがわざわざ持って来てくれた夕食を食べ終えた俺はセバスさんから渡された手帳に目を通して城の中の構造や使用人としての心得みたいな物を覚えて行くのだった。
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