第140話

「……すまない。ここに案内される前にも聞かされたと思うが、我々も詳しい事情に関しては知らされていないんだ。」


「ふーん、やっぱりそうかなのか……」


 っしゃあ!部隊を率いる隊長ですら詳しい事を聞いていないなら事の発端が俺だとバレるなんて事は絶対にないな!


 ……あれあれ?隊長さん、なんでそこで意味あり気に眼鏡をクイッと上げたんだ?何故だろう、凄く嫌な予感がしてきたんですけど……コレって気のせい?


「だが、今回の件の発端については私の方で予想する事が出来なくもない。」


「えっ、そうなのか?だったら予想で良いからそれを聞かせてくれよ。」


「……良いだろう、それじゃあ簡単にだが話をさせてもらおうか。」


 隊長さんがそう告げた直後、俺はサッと目線を逸らし表情を読まれない様にした!何となく……本当に何となくだが、その予想を聞いた時のリアクションを見られたら色々とマズいって本能が叫んでいるからな……!


「恐らくだが事の発端は数ヶ月前、王都で行われていたとあるイベントにある。」


「王都で行われてたイベント?……おっさん、何があったか知ってるか」


「へっ?い、いやぁ俺に特に心当たりはないかなぁ……つーか、何で俺に?」


「ん?なんつーか、おっさんなら何となく知ってるかなーと思ったんだけど……」


「そ、そうなのかか‥‥悪いなぁ、期待に応えられなくてさ。」


「いやいや、おっさんが謝る事はねぇよ。そんじゃあ隊長さん、話の続きを頼む。」


「あぁ、そのイベントと言うのは国王陛下達が巨大ステージの上に乗りながら王都を練り歩くというものだったんだが……」


 ……あ、危ねぇ!!なんであのタイミングで俺にイベントの事を聞いて来たんだよこのヒイロって奴は!?どういう事?直感的にやっぱり俺が今回の事に関わってると分かってるって事か?!なんだやっぱりこいつ主人公かよ!マジで厄介すぎるぞ!?


 心の中でヒイロに警戒心を抱きながら隊長さんの話に耳を傾けていると予想された内容は、そのイベントで姫様が男に手を差し伸べたという所に差し掛かった!


「へぇ、お姫様に手を差し伸べられてステージ上にねぇ……んで、それから?」


「その男は最初、羞恥心からなのか何なのかは分からないがステージとは反対方向に行こうとしていたのだ。」


「はぁ?折角のチャンスだってのに恥ずかしくて逃げ出そうとしたって事か?随分と勿体ない事をしようとしたんだな。」


「うむ、その通りだな。姫様に手を差し伸べられるなど、人生で一度あるかどうかという事なのに……」


 いや、俺も勿体ないとは思ったけど呆れないでくれよ!真相はそうじゃないから!悲鳴が聞こえたからそっちを優先しようとしただけなんですよ!?


「で、で?それから?ソイツは逃げちまったのか?」


「いや、その男は結局民衆の後押しされたおかげでステージに招かれて行った。」


「ふーん、つまりは単に勇気が出なかっただけのヘタレって事か……情けねぇな。」


「まぁそう言うな、あまりの恥ずかしさに逃げたしたくなる時もあるのだろう。」


「でもさ、年齢的に20代から30代の間ぐらいのおっさんだったんだろ?だったらやっぱり情けないって思わねぇか?なぁ。」


「お、おう。そうだな……マジで情けねぇよな……」


 グサッ!グサッ!っと、俺の心にナイフが刺さり若干涙目になりそうになっている間にも話は次の展開に入っていき……!


「まぁその議論については置いておくとして、問題はこの後に起こったんだ。」


「問題?一体何が起こったんだ?」


「うむ、実は私もその時に警備を担当していたのだが……」


 えっ、嘘だろ?隊長さんもあの場に居たってのか?いや、警備隊を率いている隊長だったらあの場に居ても不思議じゃねぇか……!


 って言うか、どうしてこうも心臓がキリキリする様な自体が連続して起きるんだ!神様!俺が何か悪い事をしましたかねぇ!?


「もしかして、ソイツがお姫様相手に何かやらかしたのか?!」


「あぁ、実はな……その男はステージに上がった直後に手すりに足を掛けてそのまま民衆の頭上を越えて行き路地の奥に消えて行ってしまったのだ。」


「は、はぁ?どいう事だよ!全くもって意味が分からねぇんだけど!?」


「無論、我々もそう思ったさ。そして手を差し伸べた姫様もな……」


 隊長さんが静かに目を閉じながらそう告げた瞬間、俺の中で逃げ出したい気持ちが物凄い勢いで高まり始めていた!いやだってこれもう確定しちゃったじゃねぇか!


 今回の騒動の原因は俺だって事がさぁ!いやマジでどうしようこれ!?何処の誰に謝罪すればこの件は許されるんですか!?


「……あれ?って事はもしかして、ソイツの容姿が黒髪黒目だったから俺達は王都に連行されてる事になったって訳なのか?」


「私の予想が正しければ、そうなるな。」


「うわぁマジかよ……だとしたらとんだとばっちりじゃねぇかよ……おっさんも災難だったな、こんな面倒事に巻き込まれるなんてさ。」


「……あぁ、ソウダネ……」


「はぁーったく……にしても、まさかそいつを探す為だけにこんなに沢山の警備兵を使うなんてなぁ。お偉いさんは何を考えているやら。」


「だ、だよなぁ!どうしてわざわざ恥ずかしがって逃げ出した情けない男を探す為に警備兵まで使うかね!まったくもって疑問しかないよなぁ!」


「お、おぅそうだな……隊長さん、そこん所の事情は聞いてないのか?例えば、その逃げ出した男が実は手配されている犯罪者だったーとかさ。」


「いや、姫様や民衆の目撃証人を元に似顔絵が作成されたがそれらしい犯罪者は存在しなかった。」


「そっか……じゃあ、なんでその男は逃げ出したんだろうな。おっさんなにか」


「し、知らないなぁ!全然心当たりは無いなぁ!あ、あれじゃないか?お腹が痛くてトイレに急いでたとかそんな理由じゃないか?知らないけどさ!うん!」


「あぁ!確かにそんだけ急いでたって事は腹でも下してたのかもしれないな。」


「だ、だろぉ!?君もそう思うよなぁ!間違いないよ、きっと!」


 背中に冷や汗が流れているのを感じながらヒイロに愛想笑いを返した俺は、大正解間違いなしの予想をしてくれた隊長さんに気付かれない様にその後も彼らとの会話を合わせ続けるのだった……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る