第8章 お姫様と呪われた幽霊屋敷
第139話
「……えっと、もしかしてあの護送車っぽい馬車で王都まで行くんですか?」
「そうだ、乗り心地はあまり良くないがしばらくの間は我慢してほしい。」
正門前の広場にやって来た直後に思わず顔を引きつらせながら俺が目にしたのは、旅行の時に乗ったのとは明らかに作りが違う厳つい感じの馬車だった。
「隊長!お帰り、お待ちしておりました」
「うむ、そちらの成果はどうだ。」
「ハッ!もう少しで黒髪で黒目の男達の乗り込みが終わります!」
「そうか……特徴のある者達は全て連行してきたか?」
「ハッ!情報の得られた者については問題無く!」
「分かった、それでは出発の準備を始めてくれ。」
「了解しました!」
ビシッと敬礼しながらそう返事をした警備兵みたいな人が背を向け走り去った後、眼鏡を掛けた知的雰囲気満載のイケメンさんは振り返って眼鏡を中指でクイッと上げながらこっちに振り返って来た。
「すみませんがお持ち頂いている荷物はあちらの馬車にお願い出来ますか。その後はすぐに私の所にお戻り下さい。」
「あぁ、はい。分かりました。」
いちいち逆らったり反抗的な態度を取ったら絶対にロクな事にならないのをラノベとかで既に学習している俺は、指示された馬車の方に小走りで向かって行った。
その途中、自分が乗る予定の馬車の中をチラッと覗いてみたんだけど……そこにはまさに驚くべき光景が広がっていた……!
爽やかスポーツ系イケメンに知的眼鏡と同じ様なクール系イケメン!それに大人の渋みを感じさせるダンディなイケメンに女性の相手を得意としてそうな感じの色気が溢れまくってるエロティックなイケメン!計4人ぐらいの男達が座っていて……
えっ?こんなイケメンパラダイスの中にモブキャラ代表みたいな俺が放り込まれるって言うのか?……何、その地獄?俺、こんな目に遭うぐらい悪い事した?
「そちらのお荷物、お預かりしてもよろしいでしょうか?」
「……はい、お願いします……」
「あ、ど、どうかなさいましたか……何だかお顔色が悪いみたいですが……」
「いえ、気にしないで下さい……厳しい現実を目の当たりにしただけですから……」
「は、はぁ……?えっと、目印としてこちらの赤い紐を持ち手部分に結び付けておきますので、忘れない様にお願い致します。」
「はい……分かりました……」
この世界に存在している美男美女がとんでもなく多いんだって事を久しぶりに思い出して、ついでにそんな人達が同じ街で暮らしていたんだと言う真実に心をバキバキ折られながら荷物を預けた俺は重い足取りでイケメンの方に戻って行った……
「荷物を預け終えたみたいですね。それでは馬車の方に移動しますので、私について来て下さい。」
「……うっす……」
はぁー…やだなぁ……多種多様なイケメン達に囲まれて王都まで行くとかどう言う拷問だよコレはさぁ……
ちきしょう!どうせ囲まれるんだったら美少女と美女に囲まれて楽しい気分で……いや、よくよく考えたらそんな状況に放り込まれたら別の意味の地獄が始まって俺が終わるだけか……やべぇ、もう帰りたくなってきた……!
「それでは空いている所に適当に座ってくれ……ん、どうした?」
「……何でも……えぇ、本当に何でもありません……」
「ん?」
小首を傾げているイケメンと目を合わせない様に乾いた笑いを浮かべながら馬車の中を見渡して座れそうな所を探してみたんだが……うん、何処に座るにしてもかなり難易度が高そうだなぁ……だってマジでイケメンしか存在してねぇんだもん!!
「えーっと……うーん………」
「おっさん!こっちこっち!席、空いてるよ!」
「え?あ、お、おう……」
馬車の奥に座っていた髪の毛ツンツンヘアーの爽やか系イケメン少年に思いっきり声を掛けられる事になった俺は、戸惑いながらその少年の隣に腰を下ろして行った。
「隊長、出発の準備が出来ました。こちらもう大丈夫ですか?」
「あぁ、問題無い。」
「了解しました。それでは出発します。」
外から声を掛けて来た部下らしき人と知的イケメンがそんなやり取りしてから少しすると、俺達が乗った馬車はゆっくりと動き始めてトリアルを離れて行くのだった。
それからしばらくの間は緊張のせいか誰一人として口を開かなかったんだが、俺の隣に座っていたツンツン頭の王道主人公系イケメンが軽く身を乗り出しながらスッと手を上げ足を組みながら本を読んでいた知的さんの方に視線を送り始めた。
「あの~……すみません、ちょっと良いですか?」
「……何だろうか。」
パタンと本を閉じて中指で眼鏡を押し上げて返事を……って、本当にラノベとかの挿絵でしか見ない様な動きをサラッとやる人って居るんだな……
「王都までの道中ずっと黙ったままってのもしんどいんで、お喋りに付き合ってくれませんか?ダメだって言うんなら諦めますけど。」
「……良いだろう、無理を言ってしまったのはこちらの方だ。君が満足するまで話に付き合わせてもらおう。」
「おっ、話が分かる人で助かった~!ありがとうございます!それじゃあまずは……隊長さんの名前から聞いても良いですか?」
「ふむ、そう言えばまだ名乗っていなかったか。私の名前は『オタイン・ルーク』。王都、そして王国に直々に仕えている警備隊の者だ。君の名前は?」
「俺の名前は『ヒイロ』。ルークさんか、短い間かもだけどよろしくな!それじゃあ互いの名前も分かった事だし幾つか質問させてもらって良いか?国王陛下とお姫様はどうして黒髪黒目の男達を探し出してるんだ?その目的が?」
うわぁ……この子ってばコミュ力お化けにも程が無いですかねぇ……?ちょっと、おじさんあまりの勢いについていけないんですけど……間に挟まれている割には……ってか、この調子で王都まで行かなきゃならんとかマジかよぉ……!
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