第137話
「髪と瞳の色が黒い人を探している人達……ですか?」
「あぁ、何でも街に居る警備兵とは違う感じの鎧を着ているらしいんだが買い物中にそれらしい奴らを見掛けたりしなかったか?」
晩飯の時に使った皿を洗いながら飯屋の店主さんから聞いた話題を振ってみたら、3人は揃ってそれぞれに目配せをしていった。
「ロイドさん、ご主人様が言ってる人達ってもしかして……」
「うん、まず間違いないだろうね。」
「えっ、何か心当たりでもあるのか?」
「は、はい。心当たりって言うか……私達、お買い物をしていた時にそれらしい人達から声を掛けられたんです。知り合いに髪の毛と瞳の色が黒い男は居ないかって。」
「マジかよ……それでなんて答えたんだよ。まさかとは思うが……」
「安心して下さい。ご主人様の事は内緒にしておきましたから。」
「知らないって答えておいた。」
「そ、そうか……で、そいつ等はどうして黒髪黒目の男を探してるんだ?目的は?」
「さぁ、詳しく話を聞けない内にその人達は何処かに行っちゃいましたから……あっでも、ロイドさんはその人達が何者なのか見当が付いてるんですよね。」
「うん、確信は持てないけど予想ぐらいなら出来たよ。」
「本当かよ!それじゃあ教えてくれるか。そいつ等、一体何者なんだ?」
あまりにも俺の持っている特徴と一致しまくっている男を探していると言う連中の情報を少しでも得られるならという気持ちでそう問いかけてみると、ロイドは難しい顔をしながら顎に手をやりゆっくりと視線を逸らしていき……
「彼らの正体……それは恐らく、王国に仕えている直々の警備兵。」
「なっ!?……お、王国に仕えてる警備兵?ほ、本気で言ってるのか?」
「あぁ、私はそう思っているよ。さっきも言った様に確信は無いけれどね。」
ニコッと微笑みかけて来たロイドと視線を交わしながら自然と顔が引きつり始めていると、椅子に座っていたマホがスッと立ち上がってこっちの方に近寄って来たかと思ったら腰の辺りをポンっと触って来た。
「……ご主人様、今まで本当にありがとうございました。貴方のサポートを最後まで出来ない私を、どうか許して下さいね。」
「おいおいおいおい!!何だよその台詞は!?縁起でもない事を言い出してるんじゃねぇよ!どういうつもりだマホ!」
「どういうつもりって……だって、王国に仕えている警備兵の方達がトリアルに来て黒髪で黒目の男性を探しているんですよ?それってどう考えても……」
「いやいやいやいや!まだその男が俺だって決まった訳じゃないからね!た、確かに王国関連の件で心当たりが全く無いって訳じゃないけどさぁ!でもっ、まだ俺だって決まった訳じゃないから!」
「……フラグ?」
「コラそこ!本を読みながら適当な事を言うんじゃない!そしてよく覚えとけ!この世界にフラグなんてもんは存在しない!」
「ふむ、それはどうだろうね。私はそれらしい現象に巻き込まれて大変な目に遭っている人をよく知っている気がするんだけども。」
「そうですよねぇ……居ますよねぇ、何だかんだと厄介事に巻き込まれやすい体質の人がすぐ近くに……」
「うん、居る。だから頑張って。」
「何をだっ!?俺に何を頑張れって言うんだよ!?」
3人の言葉を必死こいて否定しまくってる俺から目を逸らした3人は、向かい合う様にして集まり始めた!
「えっと、王国の人が絡んでるってなったら今までよりも少し大変そうですよねぇ。お着替えとか用意した方が良いんでしょうか?」
「うん、少し多めに用意した方が良いかもしれないね。それと自由に行動が出来たりするのか気になる所かな。まさかいきなり牢屋に入れられるだなんて事は起きないと思うけれど……王都に行く事はほぼ確実だろうね。」
「それならお土産、買って来て欲しい。」
「あっ、良いですね!私は美味しいお菓子が食べたいです!」
「ふふっ、それなら私は可愛らしい小物でもお願いしようかな。」
「私は武器を研ぐ上質な砥石が欲しい。」
「ちょっ、皆さん!?何を勝手な事を仰っていらっしゃるんですかねぇ!?ってか、それならそうで少しは俺の心配もしてくれよ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよご主人様。まだそうなるって決まった訳じゃないと思っているんですよね?だったらコレは他愛もない雑談ってやつですよ。」
「そうそう、ちょっとした妄想ってやつだよ。」
「も、妄想にしてはあまりにも内容が具体的過ぎるだろうが……!」
「気にしないで。」
「気にするわ!ったく、お前達ときたら……」
「えへへ、すみません。でもご主人様、もし何か嫌な予感がしているのなら念の為にお着替えの準備だけはしといた方が良いんじゃないですか?」
「誰がするか!」
……なんて言ってから数時間後、風呂にも入り後は寝るだけの状態になって自室に戻って来た俺は、旅行用のバッグを引っ張り出してくるとその中に数日分の着替えを入れていくのだった。
「ね、念の為……これはあくまでも念の為だから……!」
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