第138話
「……特に、変わった事は起きてない……みたいだな……」
カーテンを少しだけ開けて綺麗な朝日に照らされた外の様子をこっそり伺った俺は何時もと変わらぬ風景を目にしてホッと胸を撫で下ろすと、洗面所で軽く顔を洗ってからリビングに足を運んで行った。
「あっ、おはようございますご主人様!」
「おう、おはようさん。」
朝飯の支度をしながら声を掛けて来たマホに挨拶を返してから普段使ってる椅子に腰を下ろしていくと、ロイドが俺の方を見ながらニコッと微笑んで来た。
「ふふっ、食事当番でもないのに九条さんがこの時間に起きて来るなんて珍しいね。一体どうしたんだい?」
「……何処かの誰かさん達が変に煽ってきたせいで上手く寝付けなかったんだよ。」
「おっと、それは大変だったね。それなら今日は大人しく家の中に居て昼寝でもしてみたら良いんじゃないかな。」
「ハッ、言われずともそうするつもりだよ。」
「フラグを成立させない為?」
「んな訳ねぇだろ!つか、まだフラグだ何だ言ってんのか!良いか、もう一度言っておくがそんなもんはこの世に存在しない!絶対にだ!」
「まぁまぁ、そんなに怒らないで下さいよご主人様。ほら、朝ご飯が出来ましたからコレでも食べて元気を出して下さい!」
「ふんっ、別に怒ってねぇし何時もと変わらず元気いっぱいだっての……ん?」
さらに盛り付けられた料理をマホが俺の目の前に運んで来てくれた直後、固い物を叩く様な音がリビングまで聞こえてきて……
「玄関、誰か来たみたい。」
「ふむ、そうみたいだね……」
「……ご主人様?」
「……止めろ、そんな目でこっちを見て来るんじゃない。どうせサインが必要な届け物が来たか何かだろうから、お前達は先に朝飯を食ってろ。」
何とも言えない表情をしながら俺に視線を送ってくるマホとロイドと……我関せずみたいな感じで俺の言った通りの行動を取り始めたソフィをリビングに残して廊下に出た俺は、一定間隔で規則正しくノックされている扉の鍵を開いていき……
「はいはーい、どちら様ですかっと……………」
「ふむ、斡旋所で報告された通り黒髪で黒目の男だな。我々は国王陛下にお仕えしている者だ。すまないが今すぐ身支度を整えて我々に同行してもらえるだろうか。」
「………………………」
特別製だと一目で分かる鎧を身に纏った髪が深緑色のインテリ系イケメンが眼鏡をクイっとしながらそんな事を急に言われて、口を開けて間抜け面を晒しながら完全に思考が停止していたら後ろに人の気配を感じて……
「あの、すみません。1つだけお聞きしたいんですけどおじさんはコレから王都まで行く事になるんですよね?どれぐらいで帰って来れるでしょうか?」
「ん、娘さんか?ふむ、詳しい事はまだ話せないが何も問題が無ければ3日程で家に帰されるはずだ。」
「……という事は、問題があれば3日では帰れないという事になるのかな?」
「その通りだ。何かあった際はこちらから連絡が行く事になっている……君も娘さんだろうか?」
「いや、私はこの人と同じギルドに所属している冒険者仲間だ。私からも質問させてもらって良いだろうか。君達は黒髪で黒目の男を探しているという事だったが、その特徴を持つ人物は何かの罪に問われていたりするのかな?」
「……先程も申した通り詳しい事情は話せない。だが、そういった特徴の男を探している理由は教えよう。」
「ありがとう、それでどうしてなんだい?」
「端的に言うのならば国王陛下と姫様がそうご命令されたからだ。黒髪、そして黒い瞳を持つ男を見つけ出して来いとな。」
「なるほど、教えてくれて感謝するよ。さてと、そうと決まれば九条さん。」
「お土産、よろしく。」
「……君達、もう少し俺を心配する素振りを見せてくれても良いんじゃないなぁ?」
何時の間にか玄関に集まって来ていたマホとソフィにジト目を送りながらガクッと肩を落としていると、マホが着替えの詰め込まれてるバッグを手にして俺の部屋から出て来やがった。
「それじゃあおじさん、王都に行ってから色々あると思いますけど挫けずに頑張って来て下さいね!それとなるべく怪我はしない様にお願いしますよ!場所が場所だけに私達が一緒にって訳にも行きませんから!あっ、お弁当を入れておきましたから!」
「ふふっ、九条さんなら大丈夫だと思うけれどあまり無茶はしない様にね。」
「……あぁもう、お前達のその受け入れ態勢が万全な所にはマジで色々言いたい事があるんだが……とりあえずは了解したよ。そっちも俺が居ない間もちゃんと家事とかこなしておけよ。帰って来て家が汚れてたりしたら許さんからな!」
「分かってますよ!それではおじさん、いってらっしゃい!」
「はいよ……それじゃあ、準備が出来たんで行きましょうか。」
「あ、あぁ……いやはや、随分と手際が良いな……」
突然の事だってのに普通に対応している俺達の様子を見て驚いた様な表情をしてるイケメンとその他複数人の警備兵っぽい恰好の人達に連れられてその場を離れる事になった俺は、皆に見送られながら我が家を後にするのだった。
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