第134話

 土産物屋で予想もしてなかった収穫を幾つかする事になった俺達は、買った荷物をいったん家に置いて来てから街の散策に戻ってきていた。


 それから日が暮れるまでの間、気の赴くままにあっちに行ったりこっちに行ったりしながら買い物を楽しんでいる皆の姿を後ろの方から眺めていた俺は静かにため息を零しながらさっきの事を思い返していた。


「ふぅ、あの店を出てからはどうなる事かと思ったが……店主さんのおかげで何とかエルアとニックさんの関係もどうにかなりそうだな。」


 絶対に元通りになるとはまだ言い切れない状況ではあるんだけどさ、ニックさんと話もしたくないって状態だったあの頃よりも少しは前進したとみても良いだろうな。


「うーん!今日はよく歩きましたねぇ……ほら、空を見て下さいよ。太陽がもう傾き始めていますよ!」


「そうだね、名残惜しいけれどそろそろ解散する頃合いかな。エルアも宿屋に戻って荷物整理をしないといけないだろうからね。」


「今日1日で持って帰る荷物の量がえらい増えちまったからな。エルア、もし持って帰るのが大変なら配送屋に頼むって手もあるがどうする?」


「あぁいえ、買った物はどれもこれも皆さんと一緒に選んだ大切な思い出の品なので配送屋は使わずに自分で持って帰ります。本に関しては馬車の中で読めますから。」


「えへへ、それじゃあ本の感想についてはまた今度お会いする時に聞かせて頂く事にして……エルアさんが王都に帰る日ってもうそろそろでしたよね?」


「はい、正確に言うと2日後になりますかね。」


「ふむ、改めてそう聞かされると寂しくなってしまうね。それでマホ、エルアが帰る日がどうしたんだい?」


「えっとですね。私、エルアさんとのお別れ会をしたいんです!」


「……お別れ会?」


「はい!ご馳走を用意して、それを食べながらコレまでの思い出を振り返ったりして皆でワイワイ楽しみたいんです!……エルアさんがお忙しくて参加するのは難しいのでしたら無理にとは言いますけど……いかがでしょうか?」


「……ありがとうございますマホさん。僕としても皆さんにはきちんと改めて感謝の言葉をお伝えしたいので、そのお別れ会には参加させて頂きたいです。」


「やったー!じゃあじゃあ、決定って事で良いですよね?ね!」


「お、おう。それは別に構わねぇけどさ……こういうのって、普通はエルアに黙って準備したりするもんなんじゃないのか……?」


「まぁ、おじさんの言いたい事は分かりますけど今回は時間が足りません!ですので諦めも肝心という事で全てを打ち明ける事にしました!」


「な、なるほどね……そりゃまた随分と思い切ったもんで……」


「あはは、僕としても皆さんのお手を煩わせるよりも一緒に準備をしてみたいです。それと今まで指導して頂いた料理の腕前も上がったかどうかを確かめて欲しいので、明日の料理作りは任せてもらっても良いですか?」


「はっ?いやいや、明日の主役はエルアになる訳だから料理作りを任せっきりにするってのは……どうなんだ?」


「一緒に作れば問題ない。」


「……それだと何時もとほとんど変わらない気がするんだが……」


「ふふっ、それで良いんじゃないかな。これで最後の別れになる訳ではないんだからそこまで仰々しくする必要もないだろう。」


「えぇ、そこまで気を遣って頂かなくても大丈夫ですよ。むしろ何時も通りの感じで明日もお願いします。」


「……了解。」


「ありがとうございます。それでは今日はこの辺りで失礼しますね。」


「はい、それではまた明日!」


 その後、エルアと別れて帰路を歩きながら明日の計画をあれやこれやと立てているマホとその話を聞いて相槌を打ってるソフィの後姿を眺めていると隣に居たロイドがすすっとこっちの方に近寄って来た。


「……九条さん、どうなると思う?」


「どうなる?それって明日のお別れ会とやらの事か?それとも……って、愚問だな。正直に言えば上手く事が運んでくれる可能性の方が高いと思う。エルアも別に本気でニックさんの事を憎んでいる訳でもないだろうからな。ただ……」


「本人を前にしてエルアが冷静でいられるかどうか……だね。」


「あぁ、まぁそこら辺は俺達がフォローすればどうにかなるだろうけど……ったく、どうしてこんな事に頭を悩ませなけりゃあならんのか……」


「それは九条さんがエルアの師匠だからじゃないかな。」


「……師匠って弟子の家族関係まで面倒見ないといけないもんなのか?」


「さてね、でも違ったとしても九条さんは放ってはおけないだろ。」


「……ロイド、人様をそんな風にニヤニヤしながら見るのは止めなさい。」


「ふふっ、分かったよ。すまなかったね、九条さん。」


「はぁ……やれやれ、困ったもんだな……」


 それは一体誰に向けて放った言葉なのか……分かっちゃいるけど認めたくない俺は楽しそうに微笑んでいるエルアから視線を逸らすと夕陽に染まった空を見上げながら特大級のため息を吐き出していくのだった。

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