第127話

 気合を入れ直して訓練内容を見直す事にした俺達は、ニックさんが帰った翌日から今まで以上に忙しい日々を送っていた。


 まず午前中は俺とロイドとソフィが交代でエルアに戦闘技術を叩き込んでいって、昼飯を食べて午後になったらモンスターを相手にレベル上げを兼ねながら教え込んだ技術を実践を通して身に付けて行く。


 最初の内はエルアの身体が悲鳴を上げてしまって上手い様に事が運ばなかったが、諦めず必死に食らい付いて来るその覚悟が実を結んでくれたらしく冬期休暇が終わる数日前には目標としていたレベル4に到達するまでになっていた。そして……


「エルア、今日までよく頑張って来たなぁ。いやはや、師匠として嬉しい限りだわ。特にさっきのモンスターを倒した時の動き、マジで良い感じだったぞ。」


「そ、そうですか?」


「うん、自信を持っていいよ。私達が保証してあげよう。エルアは出会った頃よりも確実に強くなっているってね。」


「教えた事をちゃんと活かしてた。よくやったね、エルア。」


「え、えっへへ……ありがとうございます、皆さん!」


 討伐したばかりのモンスターの納品を終えたエルアが嬉しさと恥ずかしさの両方を感じさせる微笑みを浮かべたのを目にした俺は、持っていた武器を鞘に仕舞い込むと両手をパンっと打ち鳴らした。


「よしっ!今日はちっと早いが街に戻って身体を休めるとするか。エルアのレベルが4になった以上、残された課題は後1つだからな。」


「っ……そう、ですね。」


「ふふっ、緊張しているのかい?」


「……はい、少しだけ。でも、怯えてはいません!むしろ皆さんに教えて頂いた事を最大限に発揮出来る日が来るのが待ち遠しいぐらいです!」


「おぉ、そりゃ頼もしい限りだな。さてと、そうと決まればダンジョンに挑む日取りになるんだけど……エルアが王都に帰らなきゃいけない日が近い事を考えたら明日にでも行こうかと思ってるんだが、どうだ?」


「は、はい!問題ありません!僕としては今からだったとしても!」


「エルア、焦ったらダメ。」


「あっ!す、すいません……でも、それぐらい覚悟は出来ています!」


「うん、分かっているよ。そうだエルア、ダンジョンを攻略出来たら次の日は私達と一トリアルを散策してみないかい?トリアルでの思い出が訓練ばかりというのは少し残念な気がしてならないからね。どうかな?」


「そ、それは勿論!喜んで!」


「ふふっ、ありがとうエルア。それでは街に戻って……いや、その前にダンジョンを見に行かないかい?気合を入れ直すと言う意味も込めてね。」


「今からか?……まぁ、別に俺は構わねぇけどさ。」


「私も大丈夫。」


「僕もです!いえ、むしろ行かせて欲しいです!」


「了解。」


 ロイドの提案を聞き入れて曇り空の下を歩いて森の中に入って行くと、さっきまで降る気配を全然感じさせなかった雪がパラパラ舞い降りて来て……そんな中、俺達は全てが氷で造られた巨大な屋敷の前までやって来ていた。


「これは……どう考えてもダンジョンの影響ってやつだろうな。」


「あぁ、まず間違いないだろうね。恐らく自分の存在を保つ為に雪を降らせているんだろう。」


「……やれやれ、何処までも常識外れの存在だな。っと、そう言えばこのダンジョンってもう誰か挑んだりしたのかねぇ?」


「いや、クエストを受注した後に受付でチラッと聞いてみたんだけれどここを挑んだ冒険者はまだ居ないみたいだよ。」


「ふーん、滅多に出現しないレアダンジョンだから挑む奴が居てもおかしくはねぇと思ったんだが……」


「この時期、ほとんどの冒険者は街の外に出ない。暖かい間に蓄えを作るから。」


「あーなるほど……要するに冒険者も動物と同じで冬眠中ってか。」


「あはは……動物と同じ扱いをするのはどうかと思いますが……僕達としては好都合かもしれませんね。つまりはボスもまだ倒されていないみたいですし。」


「だな……ってか、ここら辺はマジで寒いな……明日は防寒着をシッカリと着込んでこないと風邪を引いちまうんじゃないか?」


「大丈夫、戦っていれば体は温まる。」


「そうだね。ダンジョン内にはモンスターも沢山居るだろうから厚着をしてたら逆に汗を掻いてしまって大変な事になってしまうかもしれないよ。」


「分かりました!つまりは今のままで良いと言う事ですね!」


「……そう言う事かもな。は、はっくしゅん!うぅ……寒くなって来たな……気合も入ったみたいだし、いい加減にここを離れるとするか。ここで風邪を引いちまったらコレまでの話し合いはなんだったって事になっちまうからな。」


「うん、それでは帰ろうか。」


「……はい!」


 ダンジョンをジッと見上げていたエルアが少しだけ気になりつつもその場を離れて街に帰って行った俺達は、マホと合流すると次の日の準備を進めていくのだった。


 ……ニックさんとの一件についてはまだどうしたら良いのか分からない状態だが、これが無事に片付いてそれが良い様に転がってくれたら助かるんだけどなぁ。

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