第128話

 翌朝、斡旋所に足を運んでダンジョンに行く旨を伝えて申請をした俺達は広場前に集まってさぁ行くぞと意気込もうとしていたんだが……


「なぁ、こんな天気だし様子を見てダンジョンには午後から行くって訳には……」


「ならないだろうね。そもそもの話、あんなにもやる気になっているエルアにそんな事を言えるのかい?」


「……ですよね。」


 それなりに着込んでいるにも関わらず身体の芯まで冷えてきそうな量の雪が空から降り続けている中、両腕をさすっていた俺は街の外に通じている正門前で話し合いをしているソフィとエルアの様子をロイドと共に見守っていた。


「普通のモンスターの相手は一緒にする。ボスが現れたら援護に回る。分かった?」


「はい、皆さんに鍛えられてきたとは言えまだまだ実力不足なのは理解しています。だから僕が動き始めるのはボスの攻撃方法や特徴を把握してから、ですよね。」


「うん、それまでは私達が相手にする。先に倒しちゃったらごめんね。」


「いえいえ、その時は戦闘に出遅れた僕の責任ですからお気になさらないで下さい。でも、だからと言って参加を諦めるつもりもありませんのでそのつもりで!」


「うん、期待してる。それじゃあそろそろ行こうか。2人共、準備は良い?」


「あぁ、凍えそうなぐらい寒いって事以外は問題ねぇよ……やれやれ、この調子だとダンジョン周りはココ以上に冷え込んでるんだろうなぁ。あーやだやだ。」


「ふふっ、だったらモンスターとの戦闘で身体を温めると良いよ。そうすれば、寒さなんて気にならなくなってしまうさ。」


「……ったく、お前もお前でそれなりに脳筋だよなぁ……」


(ちょっとおじさん!皆さんのやる気を削ぐ様な事を言ったらダメですよ!それと、怪我をしたら許しませんからね!)


(へいへい、全員が無事で帰還する。それが今日の目標だからな。特にエルアの奴は何が何でも無事で居てくれねぇと後でニックさんに何をされるやら……うぅ……)


(大丈夫だよ九条さん、私達も全力でエルアの援護に回るからさ。)


(ワクワクしてきた。)


(……約一名、そんな事は関係ありませんみたいな考えの奴が居るみたいだが?)


「ん?皆さん、どうしたんですか?」


「あっ、悪い悪い。寒さのせいでちょっとボーっとしちまってな。よしっ、そんじゃダンジョンに向かうとするか。」


「はい!」


 相も変わらず無表情のまま若干テンションの上がっているらしいソフィとスマホの中に入って付いてきたマホに少しだけ気を取られつつ街の外に出た俺達は、真っ白で冷え切った平原を歩き始めた。


 道中、この時期にしか見掛けないモンスターに襲われたりもしたが積み重ねて来た特訓のおかげで苦戦する事も無く討伐出来た俺達はそいつ等を納品してちょっとした小遣いを稼ぎつつ無事ダンジョンの前まで辿り着くのだった。


「ふぅ、こうして改めて見ると流石はダンジョンって感じの建物だな。ここからじゃ奥までどんだけ有るのか分からんわ。」


「そうだね、ボスの部屋を見つけ出すまでにかなり時間が必要そうだ。」


「えっと、確か通常のダンジョン構成だとボスの部屋は一番奥の方にあるという事が多いんですよね?だったら今回もとにかく奥を目指すと言う感じで進むんですか?」


「いや、それだとダンジョンまでやって来た旨みってもんがなくなっちまう。ここはまだ誰も挑んでないって話だから、お宝とかもまだ手付かずの状態だろう。だったらソレを全部回収するぐらいの勢いでやってかないとな。」


「明日、ロイドと買い物をする時の資金集めもする。」


「あぁ、そういうこった。だから奥は目指しつつもシッカリと寄り道もする。途中でモンスターとかも出て来るから気だけは抜かない様にしろよ。」


「はい、分かりました!」


「ふふっ、それでは中に入るとしようか。」


「おう。」


 手袋越しに伝わって来る冷たさに耐えながら氷で造られている巨大な両開きの扉を開いていった俺達は、武器を構えながら慎重に建物内に足を踏み入れて行った。


「ふむ、ダンジョンにしては随分と凝った内装をしているみたいだね。」


「え、えぇ……何だか誰かが住んでいてもおかしくない雰囲気ですよね……ここって間違いなくダンジョンで……間違いないんですよね?」


「まぁ、疑いたくなる気持ちも分かる。でも、あんだけ現実離れしてる外観の建物が普通に存在しているはずがないだろ。ついでにパッと見た感じは立派でも内装自体もかなりぶっ飛んでるしな。」


「照明器具に曲がり角だらけの廊下、それだけでも不可思議なのに更にはその全てが凍り付いているというおまけ付きだからね。」


「そういうこった。ここから先は何が起こるか分からないし、トラップとかも仕掛けられている可能性もある。全員、とりあえず足だけは滑らさない様に注意しろよ。」


 自分達の姿が反射して見えるぐらい足元が凍り付いてる廊下でバランスを崩さない様に気を付けながら、俺達はボス部屋があるはずの建物の奥を目指してダンジョンの攻略を始めるのだった。


 ……って、心の中で意気込んではみたものの襲い掛かって来るモンスターは今まで討伐してきたヤツのちょっとした強化版でしか無い訳だから特に苦戦したりする事もせず、大体2時間弱ぐらいの探索で目的地と思わしき扉の前に辿り着いてしまった。


(うーん、戦闘に参加していない私が言えた事では無いんですが何だかアッサリここまで来れちゃいましたね。)


(はっ、そりゃそうだろ。この日の為にどんだけ似た様なモンスターを倒して来たと思ってるんだ?習性も攻撃方法も変わらない、廊下での立ち回り方だけ注意してれば何とかなるモンスター共でしかなかったからな。だから大変になってくるのは……)


「……皆さん、この大きな扉の先が……」


「あぁ、ボスの部屋だと思うよ。エルア、作戦は頭に入っているね?」


「も、勿論です!」


「エルア、緊張しなくても大丈夫。これまで頑張ってきた事を発揮する事が出来たら必ず倒せる。私達と自分を信じて。」


「……はい!」


 武器と盾を構えながら力強くエルアと視線を交わした後、皆の前に移動して行った俺は閉ざされていた巨大な氷の扉をゆっくりと押し開いて行くのだった。


 さぁて、ここからは何が起こるか分からない展開のオンパレードだ……だからこそ絶対にエルアの事だけは護ってみせる……!だってまだ死にたくないんだもの!!

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