第122話

 自宅に戻って冷え切った身体を温め直した後にマホも連れて斡旋所まで足を運んで討伐クエスト達成の報告をした俺達は、報酬を受け取ったついでにさっきの出来事について何か情報が得られないか対応してくれたお姉さんに尋ねてみた。


「……条件が揃うと現れるダンジョン……ですか?」


「はい、皆さんが発見された氷の屋敷は雪が降る場所にごく稀に出現する事があると言われている特殊なダンジョンだと思われます。何時、何処に現れるのかまだ詳しく解明されていませんので見つけられた皆さんは凄く運が良いと言えますね。」


「へぇ、そうなんですか……」


 テンションが上がっているらしいお姉さんに少しだけ気圧されて苦笑いを浮かべていると、後ろに立ってたロイドがひょいっと顔を出して来た。


「すまないけれど、そのダンジョンの詳細情報があったら教えてくれるかな。例えば存在している期間や挑むにあたっての推奨レベルなんかね。」


「かしこまりました。過去に得られた情報によりますと、そちらのダンジョンが存在しているのは雪解けが始まる直前ぐらいだそうです。」


「ふむ、という事は暖かくなったら消えてしまっているという事かな。」


「恐らくは。そして推奨レベルですが、内部に出現するモンスターは周辺に生息する個体よりも上位種になっていますので大体3から4ぐらいになるかと。」


「なるほど、つまりその辺りは普通にあるダンジョンと変わらないんですか。」


「えぇ、情報通りならそう言う事になると思われますね。他に何かお聞きしたい事はございますか?」


「あぁいえ、色々と教えてくれてありがとうございました。それじゃあ俺達はこれで失礼します。」


「はい、またのお越しをお待ちしております。それと皆さんがそちらのダンジョンに挑む際にもお声掛け下さいね。」


「あ、あははっ……分かりました、考えておきます。」


 何かを期待されている様な視線を向けられている気がして思わず返事を濁していた俺は、話が面倒な方に転がり出す前に皆と一緒に斡旋所を後にするのだった。


「ふふっ、それにしても九条さんの強運には驚かされてばかりだね。まさか幸運にも滅多に出会えないダンジョンと遭遇する事になるだなんてさ。」


「笑い事じゃねぇっての……どうせだったら俺はもっとお得感が味わえる様なものに出会いたかったぜ……よりにもよってダンジョンとは……」


「まぁまぁ、そんな風に落ち込まなくても良いんじゃないんですか?だって運が良い事には変わりないですから!」


「ダンジョン、私は見つけられて良かったと思う。」


「あー……まぁ、ソフィにとってはそうだろうけど……」


 おぉおぉ、何時も通り表情はそんな変わらない癖に無言の圧がビシビシと伝わってきますねぇ……本当にこの子ったらどういう育て方をされたらこんな戦闘狂みたいな感じになっちゃうのかしら……親御さんはそれで良かったんですかねぇ……?


「……あ、あの皆さん!よろしいでしょうか!」


「ん?……どうしたんだエルア?急にそんな大きな声を出したりして。」


「……えっとですね……こんな事、まだまだ実力不足の僕が提案をするのもどうかと思うんですが……あのダンジョン……挑戦したら、ダメでしょうか?」


「挑戦って……あの屋敷のダンジョンを攻略してみたいって事か?」


「は、はい……あっ、今すぐにとは言いません!皆さんからの修行を受けてきちんと自分に自信が持てるぐらいの実力を持てる様になってからの事だと理解しています!ですからその……いかがでしょうか?」


 緊張した面持ちのエルアと顔を合わせてから全員と視線を交わして行った後、俺は後頭部をガシガシと掻きながら大きく息を吸い込んで一気にため息を吐き出した。


「うーん……正直な所、ダンジョンってのは何が起こるかマジで分からないから数日鍛えただけの学生を連れて行くのは俺としては反対したいんだが……まぁ、特訓した成果として挑むには丁度良いかもしれんわな。」


「っ!そ、それじゃあ……!」


「エルア、喜ぶにはまだ早いと思うよ。そうだよね、九条さん。」


「あぁ、もし仮に挑むにしてもさっき言われた推奨レベルまで強くならなきゃお前を連れて行く訳には行かない。実力不足なのを分かっていてダンジョンに挑んだ結果、取り返しのつかない事になったら親御さんに申し訳ないからな。だから……」


「最低でもレベル4、そこに至らなければダンジョンには連れて行けない。」


「レ、レベル4……ですか……」


「……………」


「……九条さん、どうしたの?」


「え?あ、あぁいや……まさかお前に先を越されて言われるとは思わなくて……だがまぁそう言う事だな。時間的には結構ギリギリになっちまうかもしれないが、それで構わないか?」


「は、はい!最低限、皆さんの足手まといにならない程度の実力を身に付ける為にはモンスターとの戦闘経験も重ねていく必要があるのも分かっています。だからレベル4と言うのは自分的にも納得が出来る所だと感じています。」


「ふふっ、それは良かった。それでは改めてクエストを受けに……と言いたい所なんだけれど……」


「この天気ですから今日はちょっと厳しいかもしれませんね。雪の勢い、さっきより強くなっていますし。」


「だな……焦って無理して遭難しちまったら元も子もないし、今日は身体を休めつつ今後の特訓内容について話し合いでもしますかね。」


「あっ、はい!よろしくお願いします!……それと、出来れば料理についても教えて頂けたら……」


「おぉ!もしかしてエルアさん、お料理が楽しくなってきたんですか?」


「えぇ、自分の手で作った物を人に喜んでもらえると言うのは、その……嬉しいですから……」


「分っかりました!そう言う事でしたら私が先生となってお料理の事を1から教えてあげますね!さぁさぁ、早くお家に帰りましょう!」


 エルアの言葉を聞いてメチャクチャやる気になったマホに引っ張られる形で我が家まで戻る事になった俺達は、定めた目標を達成する為に動き始めるのだった。

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