第121話
「よしっ、これで受注した討伐クエストは全部達成出来たな。エルア、身体の調子はどんな感じだ?」
「はい!レベルが上がった事をハッキリと実感出来るぐらい良い感じです!この盾も今までより重たく感じません。」
「そうか、なら良かった。具体的にはレベルはどれぐらい上がったんだ?」
「あっ、確認しますのでちょっと待って下さい……えーっと、今の僕のレベルは2になったみたいです。」
そう答えたエルアの手には王立学園に通う生徒のみに配られるらしい荘厳な模様が描かれた純白の冒険者カードが存在していて……うん、マジでカッコいいなアレ。
俺の持ってるのって冒険者に配布される何のデザイン性も無いヤツだからなぁ……金を払って申請したらああいうの貰えたりしないかしら……まぁ、無理だよねぇ……
「ふふっ、それじゃあ頑張って今日中に後1つ2つレベルを上げられる様に頑張っていこうか。そうすれば本格的な戦闘訓練を始められるだろうから。」
「はい!……すみません、モンスターの相手を皆さんにだけお任せしてしまって……僕も出来る事なら戦闘に参加したいんですが……」
「大丈夫、この時期に出現するモンスターはエルアにはまだ厳しい。」
「うん、ソフィの言う通りだね。今はただ防御に徹して、モンスターの動きや攻撃の仕方を覚える事に専念するんだ。良いね?」
「わ、分かりました!」
ロイドに諭されたエルアが力強く頷いた後、俺は静かに息を吐き出しながら雪原に横たわったままでいるモンスターの亡骸に目を向けた。
「さてと、それじゃあ納品作業に取り掛かるとしますかね。その後は斡旋所に戻って別のクエストを引き受けてレベル上げの再開だ。次からはエルアにも何かしら動いてもらうからそのつもりでな。ずっと見てるだけってのも居心地が悪いだろうし。」
「はい!皆さんのお邪魔にならない様に頑張らせてもらいます!」
ニコッと微笑みながら背筋を正したエルアと視線を交わしながら午後からの予定について何をするのか考えようとした瞬間、頬に冷たいものが当たる感覚があったので反射的にその部分を親指で撫でてみると……
「……濡れてる?」
「おっと、どうやら天気が変わって来たみたいだね。」
「……あぁ、雪が降って来たのか。」
さっきまで広がっていた青空が何時の間にか暗雲に覆われていて、真上から純白の雪がゆっくりと落ちて来ていた。
「へ、へっくしゅん」
「エルア、寒い?」
「あっ、すみません……少し動いただけなんですが、汗が出てしまっていて……」
「ふむ、それで身体が冷えてしまったのか。九条さん、エルアが風邪をひいてしまう前に斡旋所に戻ろうか。」
「そうだな。ついでに家に帰って昼飯でも食って……………ん?」
背後から唐突に……本当に何の前触れも無く異様な気配を感じた俺はそっちの方に顔を向けて眼前に広がっている森に意識を集中させてみた……
「九条さん、どうしたんだい急に難しい顔をして。」
「あぁいや、その…………なぁ、アレって何だか分かるか?」
「アレ?……ん?何だろう……あの場所には今まで何もなかった気がするけど……」
「だよ、な……」
さっきまでは確かに存在していなかったはずのキラキラした大きな建物が森の奥に存在している事が勘違いじゃないと分かり、俺とロイドが揃って立ち止まっているとソフィとエルアが不思議そうにこっちへ近寄ってきたので事情を説明した。
「……確かに見えますね、一体何なんでしょう?」
「分からん……どうにも嫌な予感だけはするんだが……」
「……調べて来る、皆は先に街に戻ってて。」
「は、はっ?いやいや、ちょっと待てよ!調べて来るって行くつもりか?」
「うん、気になるから。」
「気になるからってお前なぁ……!あぁもう、こうなったら全員で行くぞ。」
「……良いの?」
「良いも悪いも無いだろ。何があるか分からないってのにお前だけに行かせられる訳ないだろうが。それに2人も気になるだろ。」
「は、はい!」
「ふふっ、むしろ気にするなと言う方が無理な話だね。」
「よしっ、そうと決まればさっさと行くぞ。何だか天気も悪くなってきたしな……」
降り注いでくる雪の量と風の勢いが増してきている中、俺達は視線の先に存在している建物の方に向かって慎重に歩みを進めて行った……そして……
「コレは……氷で出来た……屋敷……?」
「うん、しかもかなり大きいらしいね。こんな物、今まで無かったはずだけど……」
壁から屋根に至るまで外観全てが青白い氷みたいな物で造られている巨大な屋敷の様な建物を目の当たりにした俺達は、現実離れした光景に思わず絶句していた……
「九条さん、あっちに扉がある。中、入ってみる?」
「……いや、止めておこう。こいつは俺の直感だが、恐らくここはダンジョンに近い何かだと思う。」
「ダ、ダンジョンですか?この建物が?」
「あぁ、実際の所はどうか分からないけどな。それでも下手に挑んだりして痛い目に遭いたくはない。ってな訳だから、引き上げるぞ。良いな、ソフィ。」
「了解。」
その後、氷の屋敷に背を向けて歩き始めると頭の中でマホに今から家に帰るという連絡を取りながら皆とその場を離れる事にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます