第120話

 翌日、指定してた時間通りにやって来たエルアを連れて街の外に出て行った俺達は現状の実力を知る為にちょっとした戦闘訓練みたいなもんを行ってみたんだが……


「そろそろ休憩にしようかエルア、君の実力は充分に分かったからね。」


「はぁ……はぁ……い、いえ!まだ出来ます……!」


「エルア、無理は良くない。」


「あぁ、ソフィの言う通りだ。初日から飛ばし過ぎると後に響くぞ。ほら、あっちの木陰にでも座って水でも飲んで来い。」


「はぁ……はぁ………す、すみません……」


「いや、別に謝る事じゃねぇよ。まだまだ始まったばっかりなんだ。焦らずにやっていくとしようぜ。」


「……はい……」


 疲れからなのか自分自身に感じている不甲斐なさからなのかは分からないが、朝に顔を合わせた時と比べると落ち込んだ様に見えるエルアが持っていた盾を俺達の前に残して木陰の方に移動して行くのを見送った俺達はその場に集まっていった。


「どうだロイド、軽くて合わせしてみた感じは。」


「うん、筋は悪くないと思うよ。ただやはり、まだレベル1のエルアがこの盾を手にしながら戦いをするというのは難しい気がするよ。」


「……だよな。見ていただけだが身体が振り回されているのは分かっちまったし。」


 地面に落ちていたエルアの盾を拾い上げた俺は、伝わってくる重量感を確認しつつため息を零していた。


「攻撃と防御、どちらかしか出来てない。それじゃあ盾を持ってる意味がない。」


「防ぎつつ攻めに転じるってのが理想的ってな動きだからな……よしっ、ちっと早いけど家に帰って昼飯でも食いながら作戦会議をするとしますかね。」


「そうだね。ソフィも張り切り過ぎているのか体力の消耗が激しそうだし、大怪我をしてしまう前に一度引き上げるとしようか。」


「おう、それじゃあエルアに声を掛けて来るから帰り支度をしといてくれ。」


「分かった。」


 その後、まだ訓練を続けて欲しいというエルアを何とか説得して我が家まで戻った俺達は少し早いが昼飯の準備に取り掛かる事にしたんだが……


「それでしたら皆さん、よろしければ僕に料理を作らせてもらえませんか?」


 昨日渡した本を読み込んできたというエルアに押されてマホのサポートを頼みつつ料理作りを任せてみたんだが、これがまたビックリするぐらい手際が良かった!


 えっ?本当に初心者なのかってレベルで調理を進めているエルアの後姿は何故だか妙にかわいらし……様になっていた訳だ!うん、大丈夫……俺は女性が大好きだっ!


「おじさん?急に頭を振ったりしてどうかしたんですか?」


「……いや、気にしないでくれ。己の中に突如として生み出された原因不明の難敵を追い払っていただけの事だから……!」


「……何を言っているのか分かりませんが、何でも無いんでしたらエルアさんが用意してくれたお料理が冷めてしまう前に早く食べちゃいましょうよ!」


「あ、あぁそうだな……それじゃあいただきます。」


「「「いただきます。」」」


「い、いただきます……」


 両手を合わせて何時も通り挨拶をした俺達は不安そうな表情を浮かべてるエルアを横目に見ながら目の前にある料理を口に運んで行った。


「うーん!エルアさん!とっても美味しいですよ!」


「ほ、本当ですか?」


「はい!ちょっと味付けが濃かったり薄かったりする部分もありますけど、この程度だったら全然問題ありませんよ!ね、皆さん!」


「まぁ、そうだな。この感じだったらもう何回か料理を経験すればすぐにでも完璧なもんが作れると思うぞ。」


「ふふっ、確かにね。訓練が終わる頃にはこれよりも難しい料理を作れる様になっていると思うよ。」


「美味しい。」


「あ、ありがとうございます……でも、僕が上げたのは料理の腕ではなくて……」


 一瞬だけ喜んでいたエルアだったがさっきの出来事を思い出したのか声のトーンが少しだけ暗くなってしまった。


「分かってる。盾を持ったままちゃんと戦える様になりたいんだろう。一応、策なら無い訳じゃないから安心しろ。」


「えっ!そうなんですか?」


「うん、エルアが料理を作ってくれている間に軽く案を出し合ってみたんだけどね。恐らくだけど盾に体が振り回されなくなる様には今日中に出来るんじゃないかな。」


「今日中に!?い、一体どうやってそんな事が……?」


「ははっ、別にそんな大層な案じゃねぇよ。現状として盾に振り回されちゃいるけど戦闘する事自体は出来ている。だったらステータスの底上げをしちまえばアッサリとその問題は解決しちまうってこった。つまり……」


「レベル上げをする。」


「……レベル、あげ……ですか?」


「あぁ、幸いな事にトリアルの周辺には戦闘初心者にお勧めって感じのモンスターが生息してやがるからな。そいつ等を討伐してレベルとステータスを上昇させちまえば何とかなるだろ?」


「ついでにモンスターを相手に戦闘訓練も行えるかもしれないからね。効率を考えてその案が一番だと結論付けたんだけど、エルアとしてはどうかな?」


「あっ、はい!僕としても問題はありません!」


「えへへ、それじゃあ決まりですね!皆さん、エルアさんに怪我をさせない様に気を付けて下さいね!」


「へいへい、心得ていますよっと。」


 こうしてエルアが抱えている最初の問題を解決する方法を実行する事にした俺達は昼飯を食べてしばらく我が家で休憩をした後、小遣い稼ぎも兼ねてクエストを受ける為に斡旋所に向かう事にするのだった。

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